救援要請。

救援要請。


 真っ青な顔で瞬間移動をした彼女を見送る事なく、パメラノは、視線はバロールにうつす。

 その目には、少し血が走っていた。

 明確な怒りが滲んでいる。

 空気が、さらにピリつく。


「バロール、家族と近しい関係であろうとするのは結構じゃが、時と場合を考えんかい。もし、百済からの要請が、『一刻一秒を争う、救いを求める声』だったとしたら、どうするんじゃ。ぬしらが遊んでいる間に、取り返しのつかない被害がでたら? その時の責任が、ぬしごときに取れるのか?」


「……申し訳ありません。いえ、ただ、あの、本当に、もしアレだったらついていこうかと思っただけで……私は、まだ『禁域』というのが、どういうものか、イマイチ分かっていませんが、『特別』だというのは理解していますので、そこに現れた『壊れた怪物』は、警戒すべきだと……カティは強いですが、一撃をくらってしまうとアレなところもありますし、で、その……」


 そこで、サトロワスが、


「はっはー、ようするに心配だったって事だよねぇ。わかる、わかる。ねぇ、パメさん、バロールの気持ち、わかりましたよね?」


 かぶすように、テリーヌが、


「バロールは、決して、ゼノリカの規律に刃向おうとしたワケではありません。どうか許してやっていただけませんか? このバカには、やれば出来る子の可能性がまだあるんです」


 パメラノとバロールの間に入るようにしてそう言った。


 二人の発言を受けて、パメラノはゆっくりと目を閉じて黙った。

 この話は終わりという合図。


 ホっと弛緩する空気。


 そこで、第七席の『ディマイズ・マリス』が、バロールの肩にポンと手を置いて、


「……叱られて、兄貴と姉貴にかばわれて……お前、びっくりするくらいダサいな」


 ボソっと小さな声でそう言った。


 バロールは、真っ赤になって、ギリギリと奥歯をかみしめた。

 マリスは、マイペースで無口な男だが、自己中型マイペースではなく気配り型マイペースなので、こういう時は、率先して場を整える役を買って出る。


 先の発言、一見すると、空気が読めていない鬼発言だが、実は、一歩先に踏み込んだ気配りが込められていた。


 バロールの『みっともない現状』をあえて的確に『言語化』することで、『放置すれば、バロールの中で残ってしまう粘着性を持つ気まずさ』を散らしたのだ。



 バロールは、マリスの助け船に乗ろうと、

 『てめぇ、あとでツラかせや』の一言をぶっこんで、悪い流れを終わらた。


 どうにか空気が弛緩する。

 どうにか戻った場の流れ。


 穏やかに過ぎていく時間。

 ただ、カティが出動してから、数分が経過したところで、

 全員の胸に、


((((((……カティ、ぜんぜん、帰ってこないな……))))))


 という、疑問がわきあがってくる。


 バロールが、少し心配そうな顔になり、


(……なにか、あったのか?)


 と、そう思った、ちょうどその時、

 通信魔法が入って、



『バロール! このバケモノ、バカみたいに強い! 手ぇ、貸して!』



 その瞬間、バロールは、


「――すぐに行く」


 瞬時に頭のスイッチを切り変え、星典魔皇としての顔になり、瞬間移動で救援に向かう。


 その一連を見て、

 パメラノが、


「サトロワス、テリーヌ、マリス……念のため、ぬしらも行け」


「「「はっ」」」


 瞬間移動で消えた三人を見ながら、それまで黙っていたアルキントゥが、


「九華が一度に五人も出動するなんて、今まで一度もなかったことですわね。流石に過剰戦力ではありませんか?」


「だといいんじゃがのう……どうにも、今日は、朝から胸騒ぎがするんじゃ」



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