お前のコアオーラは、

お前のコアオーラは、



(こんな、ほんの数分闘っただけで……ここまで強くなれるなど……あるわけがない! あっていいわけがない!)


 ダイエットを例にしよう。

 100キロの巨漢が、『丸一日食べるをやめて、朝から晩まで、膝が潰れるほど歩き続ける』という無茶をしたとしよう。

 そうすれば、まあ、たった一日でも『最大10キロくらい』は痩せられる可能性がある。


 だが、既にキレッキレに仕上げているボクサーが、いくら努力をしたところで、一日で痩せられる量は『10グラム~20グラム』が精々。


 ジャミの『現状における成長率』は、後者にあてはめる事ができる。

 これまでに、散々頑張ってきて、『これ以上を目指すなら、気が遠くなる時間と努力が必要』という領域に辿り着いた。

 最近は、『セン印の訓練施設』でトレーニングをするようになったため、存在値は、ガンガン上がるようになったし、戦闘力も、それまでとは比較にならない速度で上がるようになった。


 しかし、それでも、これほどまでの成長速度ではなかった。

 このペースで強くなっていくのは、さすがに異常がすぎる。

 おかしい。

 ありえない。


(ありえない。こんな事が出来る者などいるはずがない。もし、こんなことが出来る者がいるとしたら、その可能性があるのは……)


 遥か高次の薫陶(くんとう)。

 『これほどの、とてつもない奇跡』を起こしたとしても不思議ではない存在。




「……『教義』や『既存の理念』ってのは非常に重要だ。それが『ブチ壊すための的』だと理解できていればの話だが」



 ジャミの中で、一柱だけ心当たりはある。

 しかし、


(それこそ、ありえない! 神が、このような――)



 ――ズンッッ!


 と、モンジンの拳が、ジャミの腹部を捕らえた。

 相変わらず『痛み』はない。


 だが、響いた。

 重く、深く。


 モンジンが、ジャミの目をジっと見て、言う。




「お前のコアオーラは、革命を望んでいる」




 その声は、ジャミの全てを包み込む。

 まるで光。

 数多の世界を照らす、とてもとても大きな――




「特別に、受け止めてやるよ」




 そう言って、モンジンは、ゆったりと大きく構える。

 全てをさらっていくような泰然。

 ジャミとバロールは息をのんだ。


 目の前に立つ男が、

 あまりにも大きすぎて。




「さあ、くるがいい」




 そのあまりの威圧感にあてられて、バロールは、ガクンと、崩れるように膝をついた。

 心が痙攣している。

 そんなバロールと違い、ジャミは倒れない。

 倒れる訳にはいかないと心が叫んでいた。


 ジャミは沸騰する。

 身の奥から込みあがってくる。

 オーラも魔力も、容易く、一点に集中していく。

 無の境地。

 まだまだ遠いと思っていた世界が見えた気がした。

 ジャミの中で、トビラが開く音が確かに聞こえた!



「ぉぉ、ぉおおお、ぉおおおおおおおおおっっ!!」



 膨れ上がる沸騰に身を任せ、ジャミは踏み込む。

 言葉にならない想い、その叫びを拳に乗せた。

 拳に翼が生えた気がした。

 パリンと割れる音がした。

 限界という名の壁を、ダイナミックにブチ破る音――




「――嫉妬に値する才覚だ」




 ジャミの耳を、光の声が、ふるわせる。

 そして、だから、加速する肢体。

 踏みしめる。

 ジャミは辿り着いた。


 ――ここは、神の領域。




「ようこそ、俺たちの世界へ。歓迎しよう」




 その声が、ジャミの耳に届くよりもはやく、

 モンジンは虚空に円を描いた。

 導かれるように、ジャミの体が反転する。

 天と地が逆(さか)さになって、気血が逆流して、



「かっはぁあああああっ!!」



 枯れるほど吐血した――

 肉体が、魂ごと引き裂かれた。


 ――そう『ジャミの全て』が理解した。

 なのに、


  ――――――――

   ――――――

    ――――







「――――――――――……っっ??!!」






 気付けば、ジャミは、無傷で舞台の上に転がっていた。

 そして、同時に響く、


 ――タイムアップを知らせる重厚な笛の音。

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