第三勢力の秘密。

第三勢力の秘密。



 気付いた時には白目をむいてその場に倒れ込むコーレン。

 慌ててコーレンを支えるミハルド。


 そんな二人の使徒に視線を向けることもなく、ケイレーンは、


「今回の件で、『フーマーの底が見えた』などと思ってもらいたくはない。負け惜しみに聞こえるかもしれないが――」


「別に、この闘いだけで、フーマーの軍事力に対する判断を下す気はない。けれど、『参謀(使徒)』の中に『敵を見誤る者がいる』という事実がある以上、フーマーの軍事面に対する評定にはマイナスをつけざるをえない。出し惜しみしないで、最大戦力を連れてくるべきだったわね」


 ケイレーンの奥歯に圧力がかかった。

 ギリっと小さな音がした。

 隠そうとしても、隠しきれない羞恥。


(何もかもが裏目になっている……)


 思考する。

 挽回の手段を模索する。

 そんなケイレーンに、ミシャは言う。


「さて、それじゃあ、ここから少し黙ってもらえる? あなたたちの手ゴマなんて、前座にすぎない。こちらとしては、ここからが本番なの」


「それは、どういう意味かね?」


 尋ねるが、ミシャは、含みのある笑みを浮かべるだけで、答えを述べようとはしなかった。


(いったい、ここから、何が起こるという……)


 この時点では、誰も、意味を解せなかった。

 しかし、彼らは、すぐに、ミシャの言葉の意味を知る事になる。






 ★



 『バロール&ジャミ』と『第三勢力』の戦闘がはじまってから、すでに数十秒以上が経過していた。

 しかし、現状、場はこう着状態に陥っていた。

 どちらもダメージを受けていない平衡状態。


 一言で言うと、『バロール&ジャミ』と『第三勢力』の闘いは、『戦闘』にはなっていなかった。


 距離をつめようと、あの手この手を駆使するバロールとジャミの二人だったが、

 第三勢力の5人は、二人から距離をとるばかりでまったく闘おうとしないのだ。


(どういうつもりだ、あいつら)

(わからない……)


 悩んでいると、


 『第三勢力の女の一人(以降、A)』が、


「十分経過。のこり20分」


 ふいにそうつぶやいた。

 続けて、たんたんと、事務的に、


「今大会には、私達5名のほかにも、我々の組織から何名か参加しており、すでに、全員、本戦へ進むことが決まっている」


 などと、ジャミ&バロールからしてみれば衝撃的な事実を告げる。


(はぁ? 特別な力を持っていそうな野郎はいなかったぞ……)

(他の試合もチェックはしていたが、フーマーからの刺客以外で、特別、優れている者はいなかったように思えたが……)


 困惑している二人に、Aは、また、感情のない声で、事務的に、


「もし、貴様らがわれわれ全員を倒し、この大会で優勝する事ができたら、我々の秘密を話そう」


 含みしかないその発言に、バロール&ジャミは、なんとも言えない渋い顔をして、


「……秘密、ねぇ」

「言いたいことがあるのなら、まわりくどいことをせずに、今、この場で言うといい。黙って聞いてあげよう」


 一応、情報を引き出すためのジャブを打ってはみたものの、反応は驚くほど薄く、

 というか、ジャミの言葉など、ほぼ完全にシカトなスタイルで、


「貴様らの組織が、我々の秘密を話すに値する器かどうか確かめてからだ。もし、それに値すると判断出来なかった場合、貴様たちを単なる障害物とみなし、全力で排除させてもらう」



 などとふざけたことを言われて、バロールは、奥歯をギリっと噛みしめ、


「ナメた事ほざくじゃねぇか」

「しかし、単純で助かる。ズルズルと探り合いを続けるより、よっぽど建設的かつ合理的だ」


 ジャミがそう言ったのを聞いて、Aは言う。


「それでは貴様らの選別を開始する。まずは、予選を突破できる力があるか。とくと見せてもらおう」


「偉そうな口をたたきやがって。何が選別だ、カスどもが……」


 バロールは、オーラを充満させつつ、鬼の形相で、


「どこの誰を相手にしているか、身をもって教えてやる」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る