貴様の罪を清算する。

貴様の罪を清算する。


 ホアノスは無知じゃない。

 まっすぐなクズ野郎だし、極めて愚かではあるが、何も知らない弱者ではない。

 だから、一瞬で理解した。


 目の前にいる小柄な少女が『ケタの違うバケモノ』であると、『千年振っても届かないどころか、何万、何十万という気が遠くなる時間をかけたとしても、絶対に届かない領域にいる、異次元の怪物』だと理解した。


 その上で、立ち向かえるか否か。

 最後の最後の人間試験で、ホアノスは、『文句なしの0点以下』という最低結果を叩きだし、余裕で落第した。



「神法にのっとり、チャンスは与えた。もはや慈悲はない。貴様の罪を清算する。楽に死ねると思うなよ。貴様がその手でうみだしてきた苦痛を、貴様の醜いその肉で全て再現する。苦しんで、苦しんで、苦しんで、そして、死ね」



 言うと、ミシャは、右手の中に、小さなブラックホールを出現させた。

 その黒い渦は、ギニャギニャとうごめいて、ガバリと口を開くと、腹をすかせた猛獣のように、ホアノスに襲いかかり、ホアノスの全てをペロリと飲み込んだ。


 その様を見て、心底から震えているザザが、


「ひ、ひぎゃあっ」


 と、逃げ出そうとした。

 脱兎。

 忍らしい俊足。

 けれど、五歩目を出そうとしたところで、ペロリと、あっけなく飲み込まれてしまった。


 二人を飲み込んだ黒い渦は、ユラユラとゆらめいて、

 一度、強く発光してから、

 世界に溶けるように霧散していった。


 ホアノスとザザは、消えたワケではない。

 ここではないどこか――深い闇の底で、地獄の責め苦を受けている。

 ミシャを怒らせた罪は重い。



「お見事な裁定でございます、ミシャンド/ラ様」

「ミシャンド/ラ様。あのカスが消えた事によって生じる面倒事はいかがいたしますか?」


「アクエリアスに連絡して、適切に処理させなさい。あと、今後、二度と、あの豚の話はしないでくれると助かるわ」


「「御意」」







 ★


 ミシャを監視していた者の一人、

 フーマーの上層部が今回の仮面武道会用に選別した『少しだけ出来る者』の『筆頭』であるセレーナが、震えながら、目の当たりにしたミシャの脅威を、上司であるケイレーンに報告をいれた。



『あのドーラという少女は、凄まじく強い。間違いなく私より強い。あの圧倒的な力……もしかしたら、勇者に匹敵するやもしれません』



 報告を受けたケイレーンは、深い溜息をつきながら、


「どうやら、レイモンドは、想像していたよりも遥かに面倒な組織らしい」

「勇者に匹敵するとは……信じられん。勇者はクズ野郎だったが、スペックは確かだった」

「それほどの力……あるいは、あの少女が、レイモンドの代表なのではないか?」

「なるほど。『自分の裏には黒幕がいる』という虚偽で飾り、レイモンドという組織を実像よりも大きく見せているパターンか。なくはない」

「だが、黒幕が実在するとなると、かなりの驚異だぞ。勇者に匹敵するバケモノや、それ以上の存在ともなれば、われわれでも、簡単には処理できない。フーマーまで攻めてきてくれれば、大いなる主より賜わった神器が使えるから、どうとでも出来るが、外で好き放題された場合の制御は……」


 使徒は、全員、大いなる主から、二つの神器を賜っている。

 

 『天国の加護』が届く範囲内(安楽の地周辺)でしか使えないが、

 『レベルアップ、ランク20(十分間、レベルが200上昇する)』という、

 途方もない魔法が使えるようになる、クオリティ32のリングと、


 『天国の加護』が届く範囲内でしか使えないが、

 『瞬間移動、ランク10』という、途方もない魔法が使える、クオリティ15の翼。


 その二つさえあれば、誰が相手でも恐くない。

 あの『強大な力を持った従属神の面々』が相手でも、リングと翼を使えば余裕で勝てるのだ。

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