手加減。

手加減。


 その無様な姿を見つめながら、ミシャは、


(あら……吹っ飛ばすつもりはなかったのに……うーん、ここ最近、『頭がおかしいバケモノ共(平とゾメガ)』としか闘っていなかったから、どうやら、『手加減』が少し下手になっているようね)


 心の中でブツブツ言いながら、瞬間移動で、ザザとの距離を詰めて、



(このぐらいなら……折れはしないわよね)



 さらに心の中でブツブツ言いながら、ザザの胸部を優しく踏みつける。


「ぐぅぉおお!!」


 当然のように、アバラが数本バキバキと逝った。

 噴水のように血を吐くザザを見下しながら、


(うーん、手加減が上手くても自慢にはならないけれど、『出来ないとなれば恥を背負う事になる』というのが問題なのよねぇ。万能であることが求められる上位者は辛いわ)


 ノンキにそんな事を考えつつ、左手をザザに向けて、


(流石に、これなら死なないでしょ)


 無詠唱で、『ランク5の闇弾』を放った。

 闇属性の魔弾で、火力はゴミだが、ランダムでデバフがかかる低級魔法。

 100%でデバフれるなら『そこそこ使える魔法』ともいえるが、その確率は10%ほどなので、たいした魔法ではない。


「ぐぅう! かはぁ!」


 流石に、闇弾ランク5程度では死なずに耐えたザザ。

 結果、デバフも入らず、ただちょっとダメージを与えただけ。


 ザザは、ギリっと奥歯をかみしめて、


「つ、強いな……身体能力もそうだが……それほどの魔法を無詠唱で使えるというのも……す、すべてが想定以上だ……しかし、俺が負けたのは、お前が俺の苦手な『魔法・カウンタータイプ』だったから……ホアノス様は、俺が苦手な相手に強い……お前は死ぬ」


 ザザが発言し終わったタイミングで、後方から、準備を整えていたホアノスが、


「ザザに勝つとは見事だ……セファイルのこじきとは思えん強さ。貴様は、間違いなく強者。各国の王族級とも言えるだろう。正直いって、貴様と敵対する事になってしまった事を後悔している……だが、ザザの奮闘で、貴様の底は見えた。私が負ける事はありえない」


 言いながら、ミシャに近づいていく。

 既に剣は抜いていて、オーラも練りあがっている。

 『熟練の戦士である』と一目で分かる威容。


「貴様は、しょせん、『耐久の低いザザ』を『殺しきれない程度の火力』しか持たないカウンター型。私のカモだ。『肉を切らせて骨を断つ戦法が信条』の私に『火力の低いカウンター』は意味がない」


 ホアノスは、クズだが、世界第二位の大国のトーン共和国の上位議員。

 純粋な『力』がモノをいう世界のトップ層にいる男。

 その存在値は62。

 この世界において、ホアノスに勝てる者はそうそういない。

 この世界では圧倒的強者。

 『ワガママ』が許される領域。


 だが、それは、ゼノリカの目が届いていない世界での話。

 ゼノリカは、歪んだワガママを許さない。



「ドーラとかいったな……その強さは貴重だ。今後、私のために尽くすのであれば慈悲をくれてやるが、どうする?」



「ドーラという名はただの偽名。忘れてくれていいわ」


「……ほう。では、本名は?」




「私は、果てなき神を愛する者。栄えあるゼノリカを支える三至天帝が一柱、邪幻至天帝ミシャンド/ラ」




「……神……狂信者……そうか、貴様、フーマーの東方出身者だな。なるほど、ならば、その強さも頷ける」


 東方の連中は、めったに公の場に出てこない。

 だから、当然、ホアノスの脳内重要人物データバンクにも記録が存在しない。


 だが、フーマーの東方にいる連中が『非常に優秀』であり『たまに、部族のしきたりか何かで表に出てくることもある』という事くらいは、ホアノスも知っている。





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