仮面『武道』会。

仮面『武道』会。


 モナルッポは思う。


(俺は勇者より弱いが、圧倒的に弱いわけではない。戦闘能力という点では、ほんの少し劣っているだけ。やり方しだいで、引き分けにもっていく事くらいは可能。王の仕事は勝つ事ではなく負けないこと。俺は条件を満たしている)


 モナルッポの哲学は、シンプルの追及。

 すべての贅肉を削って、最後に残ったものだけに価値を見出す尖った写実主義者。


(俺は勇者と違い、明確なビジョンを持っている。俺なら、世界を完璧に制御できる)


 水面下で準備を整えるため、そして、自身のアイドル性を演出するため、モナルッポは、これまで愚者を演じてきた。


 それは、まるで、ゴートが演じたラムドの虚像。


(ラムドに少し先を越されてしまったが、『局面に備えて牙を隠していた者』同士のぶつかりあいには優れた神話性がある。ラムドとの闘いを経ることで、俺の英雄性はより高まる)


 相手が蛇に見えるのは、自分が蛇だから。

 モナルッポは、『自分がそう』であるがゆえに、これまでは、『ラムドもそうなのではないか』と疑ってかかっていた。

 実際のところ、ラムド(本物)はただの召喚バカなのだが、ゴートによって『愚者を演じて世界を狙っていたバケモノ』という、モナルッポと同類の蛇になった。


 兄からフーマーでの決裂を聞かされた時、驚きはまったくなく『先をこされてしまった』としか思わなかったのは、そういった経緯があったから。

 最初は『二番煎じになってしまう』という意味不明な不安もあったのだが、

 時間が経つにつれて、こう思うようになってきた。


 ラムドは自分の影である。

 『光(自分)』のために存在する影。


(――実感する。歴史も含めた『この世のすべての現象という現象』が、あまねく、俺を王にするための布石だったと)


 少し視点がポジティブすぎるような気もするが、

 それも、上に立つ者としての資格の一つとも言えなくはない。


 モナルッポは笑う。

 収穫の日は近い。


(……時はきた。さあ、宴をはじめよう。俺のために、世界は整った。……世界が俺にささやいている。『お前こそが王である』と)






 ★


 ここは、トーン共和国首都ディアッガ。

 舗装された石畳の上を、一台の大型馬車が駆け抜けていく。

 目をひく豪華さだが、異質というほどではない。

 首都を囲んでいるこの街道では、頻繁というほどではないが、それなりの頻度で、それなりの馬車が走っている。

 普段でも、さほど珍しくないというのに、明日が『仮面武道会』の開催日という事もあり、ここ数日は、何十~何百という高級馬車が、あっちへいったりこっちへいったりしていたため、誰も、『その馬車』を気にとめたりはしない。


 そんな、特に誰の視線も集めていない大型馬車の中にいるのは三名の超越者。

 一人はミシャンド/ラ。

 その向かいに、バロールとジャミの二人が並んで座っている。


 三名とも仮面をかぶっており、服装もフェイクオーラで偽装しているため、『圧倒的超越者の雰囲気』はかすれており、『ちょっとした金持ちの娘(ミシャ)』と『そのボディガード(バロール&ジャミ)』にしか見えない。


「ミシャンド/ラ様。今日はいつも以上に、お召し物が、よく御似合いでございますね」


「見る目があるわね、バロール。褒めてつかわす」


 愛おしそうにレオンを撫でながらそういうミシャに、バロールは頭を下げて、


「ありがたき、幸せ」


 と、優雅に喜びを示した。


 前置きの直後、バロールは、チラとジャミに視線を向けた。

 ジャミは小さく頷いて、


「そろそろ、受付会場に到着いたします。ミッション内容の最終確認をさせていただいてよろしいでしょうか」


「よしなに」


「はっ」


 ミシャの了承を受けると、ジャミは深く頭を下げてから、スっと顔をあげ、姿勢をただして、


「まず、われわれは、これから、『今後の魔カード産業をけん引する予定』の大企業『レイモンド』として、トーン共和国で毎年開催されている仮面『武道』会に参加いたします」


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