ウソをつくなら、もっと信憑性を……

ウソをつくなら、もっと信憑性を……


「神帝陛下の記録は、おそらく『倍率をちょっと上げた上で、250日』ってところかな……はっはー、それでも、ハンパなく異常なワケだけれどねぇ」


 空気を読んだ発言をはさんで、自らをクッションにしつつ、サトロワスは続けて、


「ただ、あの御方ならもしかして、と思わせる……そこが素晴らしい。それでいい」


 最後に、テリーヌが困惑顔で、


「そもそも、神帝陛下が『本当に10秒ルームを活用なされたのかどうか』が疑わしいわね……あの御方の力を疑うというより、そういう次元じゃないっていう意味でね。あれほどの領域に至った御方が、いまさら、こんな地味な基礎訓練なんてしないでしょ」


 プログラマーの天才が、プロゲートをやるか?

 それに近い感情。

 ※ テリーヌがそう感じたのは、10秒ルームの本質が見えていないがゆえであり、

   『10秒ルーム』=『プログラム界のプロゲート』というワケではない。


 少し踏み込んで解説しておく。

 『壁』を超えると『10秒ルーム内では無限に戦えるようになる』ため、そこから先の記録には意味がなくなる。

 『どうやったら、その壁をこえられるのか』、そもそも『壁』とはなんなのか。

 それは、誰かから教えを受けて分かるようなモノではない。

 個々それぞれを阻んでいる『壁』を超えるための一助、それが10秒ルームの本質。

 ただ、その壁を超えるのは異常なほど難しく、ソンキーですら、まだ超え切れていない。

 そこを超えてしまえば、倍率がどうなろうと関係なくなり、かつ、『世界進化前のソンキー』の段階で、既に、その壁の目の前にまでは達していたので、実際のところ、ソンキーとセンの間に、数字ほどの大きな差があるかといえば、そうでもない。


 ただ、それも、視点・捉え方で変わってくるものではある。

 シューリの時にも例を出したが、センとソンキーの差は、100点と95~6点の違い。

 いわば、100点が壁。

 それでいうと、さっきとは真逆で、二人の間にある距離の差は、『数字ほど小さくない』とも言える。






 ――そこで、バロールが、ため息交じりに、


「おそらく、誰よりもジャミをよく知るパメラノ殿は『ジャミならば相当いい記録を出す』という事が最初から分かっていた――だから、ジャミが慢心しないようにと配慮した……ってところだろうな」


 別に、神帝陛下を疑う気はない。

 あからさまなウソをついたパメラノに対して嫌悪感もない。

 ただみな、共通して思うのは、


(((ウソをつくなら、だから、もう少し、信憑性というものを考えてくれ……)))


 それだけ。

 もし最初から素直に、『神帝陛下の記録は、なんと、じゃじゃん、250日でぇす!』と言われていたら、全力かつ無邪気に感嘆の声をあげる事ができた。

 『すげぇ! さすが神様。私たちには不可能な記録を平然と叩きだしてしまう! そこに痺れる憧れる!』

 それでよかったのに、とみなは溜息をつく。



 ――と、そこで、バロールたちの推測を聞いたジャミは、


「先生は、嘘をついているようには見えなかったが」


「パメラノ殿は、『今から嘘つきます』って顔して嘘をつくほどのマヌケなのか?」


「……」


 バロールの切り込みにジャミが思わず黙った――と、ちょうどその時。


 彼らがいる瞑想フロアから二十メートルほど離れた地点に、時空裂が出現した。


 空間に入った亀裂から、小柄な老婆が出てきて、


「ん……おっ、バロールも一緒じゃったか。手間が省けたわい」


 そう言いながら、ジャミの方に近づいていく老婆。

 ゼノリカの天上、九華十傑の第二席『パメラノ・コット・N・ロッド』。


「各員、傾聴。これより、『天上に咲くゼノリカの月見草、五聖命王・銃崎心理殿下』からの勅諚(ちょくじょう)を伝える。九華十傑の第一席ジャミ・ラストローズ・B・アトラーと、第六席ブナッティ・バロールの両名は、これより――」




【後書き】


 次から『キャラまとめ』と『神についての設定』をはさんで、新章です。

 次章予告。

 『セファイルの魔カード製造会社の一つが、革新的な技術を開発! なんと、ランク5の魔カードを量産できるようになりました!』

 『ランク5?! 5ぉ?!』

 『いま、量産できる中で最高品質はランク2だぞ、何いってんだ?!』

 『ランク2でも、貴族くらいしか買えない貴重で高性能な超高級品なんだぞ! ランク5なんて量産できるわけがない! 絶対デマだろ!』


 ミルス王国の第三王子『どうやら事実らしいな。ランク5の魔カードを量産できる技術を軍事に投入すれば、世界のバランスが一気にひっくりかえる。時代は、今、大きな転機を迎えている……ふふっ……どうやら、ついに、俺が動く時がきたようだ……』

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