アダムの叫び。

アダムの叫び。



 細切れになったアダムの肉片は、

 ほとんど一瞬で、



「……ぇ……」



 元の、美しいアダムに戻ってしまった。

 それも、ただ元に戻っただけではなく、ゾメガのエニグマミーティアによって受けた傷も完全に完治した状態で。



「……な……なにが……どういう……」

「ぁ……ぁ……え? なんで、どうして……」

「……まさか、自力で蘇生……いや、しかし、そんな事できる訳……」


 一瞬、三至の脳裏に、『ジャミ』のスキルが浮かんだ。

 ゼノリカの天上九華十傑の第一席『ジャミ・ラストローズ・B・アトラー』。

 超凶悪な性能を誇る『アンリミテッド・ヴェホマ・ワークス(無限に、どんな傷を受けても一瞬で完全回復する。無限蘇生の下位互換)』というスキルを持って生まれた超チートイケメン。


 だが、ジャミの、ふざけたチートスキルでも、自身を蘇生させることはできない。

 死者の蘇生というのは、とにかく、めちゃくちゃ難しいのだ。

 ゼノリカが総動員で死力を尽くせば、どうにか不可能ではないというレベル。

 ゼノリカが全部を賭したところで、『完全な蘇生』が出来るかどうかは微妙なところ。

 少なくとも、自力で出来る事じゃない。


 三至が、一様に困惑していると、

 そんな三至たちの事など意に介さず、アダムは、


「くっそぉおおおお!!」


 蘇生したと同時に、地面を蹴りあげながら、屈辱を叫んだ。

 血走った目で、ギリギリと奥歯をかみしめ、



「この私が! この私がぁあ! こんなハンパなザコどもにぃいい! くそぉおおおおおお!」



 その慟哭は、決して愚かな不遜ではなく、事実に基づいた正当な反応。

 アダムは強すぎる。

 三至ごときに負けるなどありえないと断言できるレベルで強すぎる。


 三至天帝は、間違いなく、とてつもない天才で、ハンパじゃない努力を積んでいて、

 絶対なる最強神の手ほどきも受けている、極端に次元が違う圧倒的超常の存在。

 だが、アダムは、そんな三至の遥か先をいっている。


 一言で言えば、『格』が違うのだ。

 同じ土俵に並べていい存在ではない。


 そんな格の違う相手に、アダムは負けた。

 もちろん、本来の存在値で、無限蘇生をフルに使えば、三至は、アダムを傷つけるどころか、触れる事も、近づくことも、視認する事すらできる訳がない。

 だが、ことの問題は、そこじゃない。


 この闘いにおいて、アダムは、自分の敗北を『一度でも死ぬこと』に設定していた。

 これは、彼我の差を考えると、ハッキリ言って、チキンすぎるルールである。


 ジャンケンで例えれば『10回連続で負けたら、私の負けぇ。それ以外だと私の勝ちぃ。文句は聞こえな~い』などとのたまっているようなもの。


 そんな状況で負けたのだ。

 となれば、自分が情けなくて仕方がないと考えるのが、むしろ普通。



「うぁああ! ぐぁあああ! みっともないぃいい! くぅううう……」



 ついには、小さくなって震えだしたアダム。

 何も背負っていなければ、ここまで落ち込むことはなかった。


 だが、アダムは、『主の側仕え』という立場にある。

 それは『無上の権利』だが、同時に、その立場にある者としての『義務・責任』も背負う事になる。


 アダムは思う。

 自分は、主の側仕えとして不適格すぎないだろうか、と。


 もちろん、どれだけ自分を恥じ、ダレに何を言われようと、

 決して、絶対に、主の側から離れたりはしない。


 どんな理由があれ、アダムは主の側にかじりつく。

 なにがなんでも、主の側で『主の全て』を想い続ける。


 だが、『平熱マン・スラッシュ』と同じで、

 『それとこれとは別で考えるべき問題』というのが、

 アダムの中で、いやおうなしに浮上する。


 自分という無様で矮小な『個』は、

 あまりにも、

 主の側仕えとして不適格すぎないか?


 『こんなの』が側にいては、主の品格が疑われるのでないだろうか。


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