必死で時間を稼ぐ平熱マン。

必死で時間を稼ぐ平熱マン。


 実際、この状況下においても、

 まだ、三人の頭には、アダムに勝てるビジョンが浮かんでいなかった。


「なるほど、確かに、手抜きで事をおさめようなどと、なんと浅はか……とんだ不遜だったようじゃのう。これ以上の恥を重ねるわけにはいかん。全霊を賭そう」

「そうね。ここからは、壊す気でいくわ……」

「……本気で彼女を殺しにかかります……おそらく、『なにがなんでも殺す』という気概がなければ、かすり傷の一つもつけられないでしょうから」




 三人の覚悟が膨れ上がる。


 『ナメられている』という屈辱。

 のしかかってくる、計り知れない膨大なオーラ。

 『これ以上の無様は晒(さら)せない』という意地。

 自分達は、最強神の弟子であるという誇り。


 全てが、三人を磨く要素。






 ――ミシャと、平と、ゾメガは知っている。






 センエースという最果て。

 『自分達では勝てない相手』を知っている。

 遥かなる高みを知っている。


 だから、今まで、わずかも怠(おこた)りはしなかった。

 現世における『ぶっちぎり最高位の地位』にありながら、『限界』に達していながら、

 ミシャ・ゾメガ・平の三名は、他の誰よりも努力を積んできた。


 必死に積んできた全てを、

 三名は、アダム相手に解放する。


 訓練用の装備(アダムを縛っているリングのようなもの)を脱ぎ捨てる。

 その直後、まず、平熱マンが、一歩、前に出た。


「5分、稼ぎます。それ以上は不可能だと思いますので、ミシャさん、ゾメガさん、5分で整えてください」


「「了解」」



「大きく出たな。私を相手に、たった一人で、5分などという膨大な数字を稼げると本、気で思うか?」



「あなたを殺し切るためには、最低限、どうしても必要な時間です。つまり、出来るかどうかはどうでもいい。やるしかないのです」


 ゼノリカに属する者としての、当然の覚悟を見せつける。


「……いい目だ。圧力も悪くはない。しかし、実行できなければ無意味」


 静かに、アダムと平熱マンの死闘が始まった。

 探り合いはコンマ数秒で終わり、気付いた時には、アダムの拳(大量の魔力を注いで顕現させたもの)が、平熱マンの鎧を砕いていた。


「随分と脆いな」


「もろくて当然。仕様を変更しましたので」


「……なに?」


「むしろ、この属性にしている際は、砕けてもらわないと困るのです」


 そこで、アダムの拳によって砕けた『平熱マンの鎧の破片』の一つ一つが、

 意志を持っているかのように蠢き、アダムにまとわりついていく。

 そして、


「……っ」


 ズシンと重くなった。

 ちょっとした破片の一つ一つが、とんでもない重さ。



「ぐっ……」



 アダムは、すぐさま、自分の体にまとわりついている破片を引っ剥がそうとするが、


「っ……なるほど、そういうアリア・ギアスか……」


 即座に理解。

 平熱マンの鎧に組まれている『アリア・ギアス』を『一字一句レベルで完全』に理解した訳ではないが、これまでの膨大な人生経験から『おそらく~~こういうものだろう』という予測はすぐにつけられる。

 というか、そういうスキルがなければ、上位者との闘いなど出来ない。


 ――アダムは言う。


「悪くない性能のアイテムじゃないか……なぜ、ゾメガとの戦闘では使っていなかった?」


「一度使ってしまうと、再度使用するまでに、数日~数週間の再生期間を必要としてしまいますので」


「……」


「今は、基礎を固めている段階でもありますので、『再利用に時間がかかる系』の使用は、お互いに控えていました。そして、そういうたぐいのアイテムは、宝物殿に山ほど保管されており、ココにいる間、ボクらは、いつでも、アクセスして使用する事ができます。あ、もちろん、使用許可もいただいておりますよ」


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