エグゾギアの一閃。

エグゾギアの一閃。


 ――闘いが始まる直前、


「ん、ちょっと待て」


 意気揚々と飛びだそうとしたゼンに、フッキが声をかけた。


「な、なんだよ」


 水をかけられて眉をひそめるゼンに、

 フッキは、低いトーンの声で、


「そのエグゾギア……もしかして、無改造か?」


「無改造じゃねぇよ。ちゃんとよく見ろ。改造値『0.2%』になっているだろう。ちょっとだけ改造して、使える時間を17秒から18秒にのばしたんだ。えっへん」


「……く、クソすぎる……」


 フッキはそうつぶやくと、

 右手を、自分の胸に当てた。


 そして、ブツブツと何かをつぶやくと、その右手に、小さな鉱石が出現した。

 神々しいオーラを放つその鉱石――『フッキ鉱』を、


「これを使え」


 ゼンに投げ渡す。


「稼働時間の上昇に全て注ぎ込めば、30分は使えるようになるはずだ」


「……ぇ、マジで……てか、なんでくれんの?」


「今のままでは、クソすぎてテストにもならないからな」


「……なるほど……想像していたよりも『ずっと高い場所』から見下ろされているって訳か。ここまでくると、もう、ヘコむ気力すら沸かねぇ」


 溜息を一つはさんでから、


「介護されなきゃ、まともに闘う事すらできねぇのが現状か……情けねぇ話じゃねぇか」


 『今の自分』をグっと飲み込んで、ゼンは、アスラ・エグゾギアにフッキ鉱をブチこんでいく。

 以前にちょっとだけ改造経験があるので、さほど迷うことなく、ゼンは、フッキ鉱をアスラ・エグゾギアに組み込む。


 そして、稼働時間を目一杯上昇させた。

 一瞬、他のステータスにも振ろうかと考えたが、与えられたフッキ鉱は、既に手が加えられていて、稼働時間の上昇にしか使えなかった。


 ――ほんの数秒で終わる改造。

 結果を目の当たりにして、ゼン歓喜する。


(おお、すげぇ。マジで、30分くらい動けるようになった)


 『お情けで与えられた力』でしかないので、おおっぴらに喜ぶことはできないが、

 『爆発的に上昇した継戦能力』に対する興奮をゼロに抑える事はできない。


「最大の弱点、ついに、克服っ」


 ボソっとそう言ったゼンに、

 フッキが、



「それでは、はじめるぞ」



 軽く肩をまわしながら、そう言った。


 その瞬間、フッキの視線の圧力が、グンっと増した気がした。

 にらみつけられて、ゼンの体がわずかに委縮する。


(超恐ぇし、微塵も勝てる気がしねぇ……けど……)


 開幕してすぐ、ゼンは、エグゾギア用の亜空間倉庫から、エグゾギア用の大剣を取り出して装備して構える。


「己の弱さを理解できる程度には強くなった『今の俺』がエグゾギアを使ったらどのくらい闘えるのか、ちょうど、知りたくてたまらなかったところなんだ。……実験相手になってくれて感謝する」


 そう言いながら、ゼンは、


「一閃!!」


 数え切れないほど振ってきたグリムアーツを使用する。


 素の状態の時とはうってかわり、エグゾギアの『バ火力』で振った一閃は、

 驚くべき速度の『飛ぶ斬撃』となって、フッキを襲う。


 攻撃力100億オーバーが繰り出すグリムアーツ。

 その威力は文字通りケタ違い!

 空間を切り裂く、凶悪な一撃!!

 ――なのだけれど、


「……ぉ、おそい……」


 フッキは、『運動オンチの女子が投げたドッジボール』でも避けるような気楽さで、ゼンの一閃を、ヒョイと軽く回避して、


「……酷い……な……」


 ボソっとそう呟きつつ、溜息をついた。

 心の底から呆れている声。


(……ほ、本当にコレが、神になるのか?)


 『主の軌跡』の一部を見ているため、

 『ゼン』が『若き日のセンエース』である事を疑う気はないのだが、


(ぁ、あまりにも……酷過ぎる……)


 比べる対象がセンエースであるため、

 どうしても、『ゼン』のことを『クソすぎる』と思ってしまう。


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