成長

成長




 ――ゼンの『剣』は、少しずつ速くなっていった。


 急激なパワーアップなどはなかった。

 少しずつ、少しずつ、

 秒を、分を、時間を飲み込んで、

 ちょっとずつ、ちょっとずつ、強くなっていく。


(……剣って……難しいな……)


 朦朧としているが、

 それでも、ゼンは剣を手放さなかった。



 休むことなく、敵は出現し続けた。



 結果――反応・反射。



 精神的疲労なんて、とっくの昔に限界を迎えている。

 正直、なぜ、まだ動けているか、ゼン自身も不思議でしょうがない。

 とにかく、苦しくて、苦しくて、苦しくて、たまらない。


 頭頂部が痺れている。

 側頭部が軋んでいる。


 息をするのもしんどくて、立っているだけで精いっぱい。

 耳元がずっとキンキン鳴っていて、視界もグニャグニャとかすんでいる。



 だが、折れなかった。

 全身全てが鉄の塊みたいになって、脳味噌が常に高圧縮されているような、

 このクソ以下の状況で、けれど、ゼンの心にはヒビすら入っていなかった。


(難しい……イヤになる……けど……)


 アホほど剣を振り続けた事で、いくつか気付いたことがあった。


 最初に『型』を導入してもらえたのが、ありがたかった。

 おかげで、体の使い方を間違えずに理解する事ができた。


 軸の支え方、重心の持っていき方、力を入れるべき瞬間、一つ一つを深く理解していく。


 その『学習』は、『一閃の強化』だけでは終わらない。

 グリムアーツ『一閃』は、極めて『単純』な剣術だが、『武道の基礎』がつまっていた。

 間合い・手の内・刃筋・呼吸法・足さばき。

 『一閃を使い続けた経験』は、ゼンの中で、『剣』と『体術』の基礎になっていく。


 ――技を知り、体を知り、心を知る。


 小脳が、『無数の理解』を重ねた。

 『鋭さ』の意味を、体が理解する。

 武の『形』が少しだけ見えてくる。



 踏み込みの角度が調節されていき、

 どんどん、全身がしなっていって、

 ゼンの剣は、果てなく冴えていく。


 『命をかけた戦い』を繰り返した事で、『闘い』の定義も見えてきた。

 互いの『死』を奪い合う、命の駆け引き。

 デジタルな『値』を持たない戦闘力の経験が、ゼンの中で血肉化していた。




(分かる……俺は、鋭くなっている……)




 怠惰に漫然と『数だけ』をこなす事による『型の歪み』も起きることなく、

 時間経過と共に、ただただ、鋭く、はやくなっていく。


 意味のある『量』が、ゼンを的確に研磨していく。


 十秒ごとに出現するモンスターは、一匹目とは比べ物にならないくらい、異常なほど強くなっていたが、魔法や一閃の性能が向上してきた結果、どうにか時間内に殺せている。



 距離を取り、分身と共に、『飛ぶ斬撃』で敵を刻み続ける。


 『分身という魔法』は、どうやらゼンに『合って』いるらしく、他の魔法よりも成長速度がはやかった。




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 『ゼン・分身』



 [HP]      【12009/15020】

 [MP]      【5001/5330】

 [スタミナ]    【50/53】



 「攻撃力」       【83】

 「魔法攻撃力」     【35】

 「防御力」       【51】

 「魔法防御力」     【39】

 「敏捷性」       【93】

 「耐性値」       【59】

 「バリア再生力」    【257】

 「魔力回復力」     【289】

 「スタミナ回復速度」  【75】

 「反応速度」      【82】






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 この十日間(十日間分の時間)。

 命がかかった局面で、朝から晩まで(実際の時間はほとんど経過していないが)、ひたすらに一閃を使ってきた。


 その結果、一閃の熟練度は最低の『E(型を覚えているだけ)』から『D(型を覚えているだけのヤツよりは上手に扱える)』に上がった。


(十日間、休むことなく、延々に技を使い続けて……ほんの少し上達しただけ……グリムアーツってのは、本当に厄介だな……)

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