黒いリザードマン

黒いリザードマン



 ふいに、ゼンが、


「そろそろ、五分経つな……また闘いが始まる。ここまでの傾向からいって、次も、まあ、普通に同じランクのバケモノ級モンスターだろう。……ハルス、大丈夫か?」


 じゃっかん顔色が悪いハルスに、そう尋ねると、


「ああ、当然だろう。むしろ、お前の方が心配だな。大丈夫か? 息切れしていないか? なんなら、おぶってやろうか?」


「……俺、ここにくるまで、まだ一度も闘ってねぇよ」



 ハルスのスパイシーな皮肉に眉をひそめるゼン。



 ゼン単体の『力』では、超王級が相手だとクソの役にも立てないため、ここまでのゼンは、ほとんど、何もしていない。

 ちょこちょこ、『治癒』の魔法を使って前衛のかすり傷を治したり、『移動障害系のデバフ』が苦手なモンスター相手に、自動回復が間に合う範囲内で『呪縛』を使ってきたぐらい。


 ゼンは『ランク1の治癒(熟練度ほぼ皆無+医療知識なし)』しか使えないため、本当に『かすり傷の回復速度を若干早める』くらいしか出来なかった、

 ――が、一応回復は回復なので、マイナスにはならなかったし、

 呪縛でも、1・2秒は足止めできた(完全停止はできず、わずかに動きを遅くしただけ)ので、足手まといではなかった。


 とはいえ、もちろん、『役に立ったか』と問われれば、微妙と言わざるをえない。



 ※ ちなみに、呪縛は、移動障害系のデバフがモロで弱点の『分身系(シャドーやオーラドール)』にはよくきくが、耐性面が高い鬼種や龍種にはあまりきかない。

 いくら魔力をこめても、存在値が100以上違う龍や鬼が相手だと、動きを止める事は出来ず、若干、ほんのわずかに『動きを遅くする』くらいが精々。




 シグレもステータス的には、ゼンと同じで『超王級が相手だと使い物にならない』のだが、

 彼女の場合は、『ニー』と『ウイングケルベロスゼロ(EW)』と『スリーピース・カースソルジャー』を使役している(寿命大丈夫か?)という状態なので、ゼンと同じく後方見学状態であっても、『闘っている感』を周囲に与える事ができた。


 みなが、必死に闘い、どんどん疲弊していく中、

 一人、優雅に見学中という、この状況は、センの精神に大きな負担を強いた。


(俺も何か役に立ちたいところだが……マジで、今の俺だとクソの役にも立たねぇんだよなぁ……後半でクローザー(エグゾギア無双)をかますにしても、このままだと、ジリ貧で、最後までいけそうにないし……んー……どうしたもんか……)



 などと悩んでいる途中で五分が経過した。

 強制転移により次の階に進むゼンチーム。


 転移した先のフロアでは、


 直立不動で手を後ろに組んでいる、妙に静かで落ちついた感じの『黒いリザードマン』が待っていて、



「ようこそ」



 優雅な態度で、そんな事を言ってきた。



「私はアビス・リザードマン」


 全員の目がアビスを即座に測定する。

 ――が、誰の目にも、アビスのオーラは、ほぼ見えなかった。


 それは、ゼンも例外ではなく、


(おいおい、俺の簡易プロパティアイをごまかすって……こいつ、ヤバいんじゃ……)


 すぐに理解。

 かなり高度なフェイクオーラ。

 もしかしたら、これまでの誰より強いかもしれないと、緊張が走る。


 そんなハルスたちに、アビスは言う。



「そして、ここは最終ステージ」



 みなの頭に、『最終?』という疑問符が浮かんでいる中で、

 アビスは続けて、



「私は君たちが倒すべき、最後の敵。もちろん、私が最後というのは、あくまでも予選に限った話だがね」



 そこまで話を聞いて、


(え、あいつを倒したら終わり?)


 ゼンチームたちの空気が弛緩した。

 ピンと張っていた緊張感が緩む。


 まだ何も終わっていないというのに、

 この場にいる全員が、

 アビスの『ここで終わり』という言葉に、ついホっと胸をなでおろしてしまう。


 ハルスが、



「おいおい、まだ十数回しか闘ってねぇぜ。残り80階以上あるんじゃねぇのか?」



 と、軽口風味で様子をうかがうと、

 アビスは、素の表情で、



「ここから出るためには、ボスを99回倒さなければいけないと言ったな……あれはウソだ」



 と、かえしてきた。


「ナメやがって」


 と、口では言うものの、表情はほころんでいるハルス。


 そんなハルスの後方で、ゼンは、


(きた、メイン敵きた。九回裏! ラストイニング! ようやく、俺の出番! これで勝つる)


 ハルス以上にほころんだ顔で、フィナーレの飾り方を考えていた。



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