この世で最も美しい神

この世で最も美しい神



「ん? どうしまちた?」


「貴様は本当に……なぜ、いつまでも、そんな態度でいられる。かつて、貴様が、『主上様の師だった時期がある』というのは知っているが、今の主上様は、貴様を遥かに超越しておられるのだぞ。膝をつき、こうべを垂れて、崇め奉る事こそ、御方(おんかた)に対する正常な態度だと、どうして思わないのか、私は不思議で仕方がない」


「オイちゃんが、お兄を崇める? ありえないでちゅね」


 ハハンと鼻で笑うシューリ。

 その態度に、ムっとするアダム。


 シューリはセンを愛している。

 アダムも、それは分かっている。

 だから、シューリのセンに対する態度に本気で怒ることはない。

 だが、


「貴様の主上様に対する想いは理解しているつもりだ。それに、主上様も、貴様の、そういう態度を、どこから楽しんでおられるようにも見受けられる。だから、出来るだけ口をはさまないでおこうと思った、が……もう我慢できない。貴様は、あの御方がどれだけ偉大な存在か、もう少し理解すべ――」


 そこで、アダムは口をつぐんだ。


「……」


 シューリの射抜くような目が、アダムを黙らせた。

 シューリは、数秒、逡巡する。

 冷たい迷いの中で彷徨(さまよ)う。


 自分のプライドと激闘。


 くだらない葛藤は、『その半歩先の次元に根付く感情』に飲み込まれて収束していく。


 どうにかプライドをねじ伏せると、

 シューリは、スっと両目を閉じて、

 ボソっと、小声で、



「あの子は本当に強くなった……」



 決して、センの耳には届かないよう、諸々配慮しつつ、


「かつて、あの子は、あたしの足下にも及ばなかった。けれど、ほんの数千年で、あの子はあたしを遥かに飛び越えた」


 そのとびぬけた事実の異常性。

 バカじゃないんだから、もちろん、わかっている。


 とうぜん、理解できている。

 センエースは素晴らしい。


 センエースは『ただ力を与えられて粋っているだけのカラッポな最強』なんかじゃない。

 終わらない絶望の底で、ドロ臭くガムシャラに、一つ一つを積み重ねてきた輝きの結晶。


 この世で最も偉大な命の王。

 全てを超越した神の中の神。

 決して誰にもマネできない、

 全てを包みこんでみせた光。



「あの子が、あれほどの領域に辿りつけたのは、あの子の資質があったからこそ――けれど、あたしがいなければ、『今ここ』に『今のあの子はなかった』と断言できる。あの子だけが、あたしの誇り」


 センエースは偉大なる神である――そんな事は、『みんな』が知っている。

 センエースこそが、この世で最も美しい輝きである、なんて、

 そんなただの事実は、『誰だって』、一目で理解できること。


 理解できないのは相当のバカだけ。

 相当のバカだって、ちょっと時間を重ねれば、当り前のように気付く。



 ――センエースは美しい。



「……あの子と出会うまで、あたしはただの歯車だった。最上位神として産まれ、ただ最上位神であり続けただけの部品。そこに誇りなどあるはずもなし」


 『無』から産まれおちた瞬間から、ほとんど『完全』な存在。

 完全を『求め』られた存在。


 『始まり』の記憶は薄いため、

 『自分が真にナニモノなのか』の疑問には答えられない。

 しかし、ただただ、とにかく、事実・現実として、

 『最初』から『頂点』だった神、シューリ・スピリット・アース。


 『神の頂点』といえば、聞こえはいいが、

 結局のところは、単なる『世界を運営する雑用係の委員長』でしかなかった。


 究極超邪神アポロギスに身をささげるまでの間、

 『最高位神としての責務』をこなすだけの歯車。


 シューリが消えても、世界は何も困らない。

 なぜなら、弟(バックアップ)が引き継ぐだけだから。


 『頂点』である究極超神が二柱も在った理由。

 『全部で三柱も在る現在』がおかしいだけで、本来は一柱で収まるはずだった。



 センと出会うまでのシューリ・スピリット・アースは、

 『取り替えられることが前提の歯車』でしかなかった。

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