高み

高み


 フッキは、勢いのままに、



「さあ、聖なる絶望の底で、聖なる死を数えろ!」



 8体を突っ込ませてきた。

 自身は後方で高みの見物。

 もはや、『自分の出番はない』とでも言いたげに腕を組む。



 フッキは、思う。

 この決断にて、勝敗は決まった。

 いや、実際のところ、勝敗など、最初から決まっていた。

 ――なぜなら、自分は最強だから。




 フッキは、思う。

 8体も突っ込ませてしまったのは、やりすぎた。

 圧倒的、過剰戦力!

 ぶっちゃけ、センエースを殺しきるだけなら、2~3体で充分。


 そのぐらい天影太陰モードは強すぎる。

 こいつのチートぶりはハンパない。

 『そんな技を使うなんて卑怯だ』と非難されても文句は言えないレベル。


「心の底から称賛しよう! センエース! お前は、俺に天影太陰モードを使わせた! 本当に、見事だった! お前は素晴らしい! だが、死ぬ!」


 とてつもないオーラを放っている8体の影は、

 わずかの迷いもなく、センを殺そうと突撃してくる。

 センに逃げ場はない。

 とんでもない制圧力と展開力。


 空間を圧迫する、影の絨毯爆撃。

 あますところなく、世界を殺し切る暴力。


 それを見たセンは、



「天影ビルドは、比較的、当人の戦闘力が低くても上位者と闘えるお手軽構築で、サブシステムとしては、決して悪くはない――が、それも、使い方が分かっていないと、こうして悲惨な目にあう」



 そう言いながら、迫りくる『連携もクソもない単なる数の暴力でしかない8体のフッキの影』を一瞬で制圧してみせた。






「ふぁぁぁっっ?!!」






 影たちは、ダッシュしていた足元を綺麗に払われて、

 バタバタと、拘束系の魔法で地面に縛り付けられた。


 影たちの突撃は、実際のところ、素晴らしい速度だったが、

 センの視点では、止まっているのとさほど変わりはない。


 センが動いてから、8体が制圧されるまでにかかった時間は、本当に一瞬。

 コンマ数秒の出来ごとだった。



「ぁ……ぁ……ぇ……」



「そんな驚くような事じゃないだろ。確かに、天影は、無尽蔵&不死身で、オプションとして有能だが、しかし、最大出力は低いし、戦闘力は限りなくゼロに近い」


 一応、不死身(システム発動者が死ぬまで死なない)だし、事実、無尽蔵の魔力とオーラ(魔法等を使っても影のMPは減らないと言う意味)を持っている――が、といっても、『デバフには弱い』や『異次元砲やフルパレードゼタキャノンがチャージ制に変化し、注げる上限も決まっている(本体が出せる全力の50分の1)』など、ちゃんと明確な弱点もあるため、決して無敵の力ではない。




「そんな天影を無策に突っ込ませるのは愚策中の愚策。マクロ対処で楽に鎮圧できる。操作障害系に対する諸々を対処した上で『壁』か『支援』に使うならともかく、ただの矛としては1ミリたりとも機能しない」



「……」



「アスラ・エグゾギアの殺神遊戯モードと違い、天影太陰モードだと、機体性能の上昇率は微妙。影どもが封殺された今だと、モードを使う前より、火力が10%増しになったくらいで、他にはなんのプラスもなし。さて、どうする? こうなってくると、『一気にカタをつける』ってのは、ちょっと出来そうにないぞ。また、チマチマしたイライラする闘いを続けるか? それとも、他に何か切札を切るか?」


「……」


 ここにきて、

 ようやく、

 フッキは、


(俺は……いったい……何を相手にしているんだ……?)



 センの異常性を理解しだす。


 確かに、天影の『戦闘力』は微妙。

 だが、決して『ただまっすぐ走って剣を振り回すだけの脳死オプション』ではない。


 天影だって、ちゃんと『闘える』のだ。


 キチンと、状況を判断し、回避やガードを絡め、相手に応じてランク魔法を使いわけて、ここぞと言う時にグリムアーツを放ち、敵が強大な攻撃をしてきそうになったら距離を取ってダメージコントロールにいそしむ。

 そういう『ちゃんとした闘い』ができるのだ。


 ちゃんと訓練を施した『オーラドール・アバターラ』の方が戦闘力は上になるが、そこに着手できない代わりに『無尽蔵・不死身』という尖った固有スキルを有している高性能オプション。


 使用する際の方向性が違うので、一概に『どっちが上』とは断言できないが、

 『ステータスの実数値』や『単純なランク』で言えば、

 まあ、当り前の話だが、『天影』の方が遥かに上。


 天影は、間違いなくハンパじゃない能力。

 ――なのに、


(こ、こいつは……ぃ、いったい……)

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