フラグON

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「へぇ……そんなのがあるんすか……なんで、ラムドの知識にないんすかね? もしかして、滅多におこらないことなんすか?」


「確かに滅多に起こる事ではない。けれど、それが『ラムドの知識に無い最大の理由』ではないだろう。おそらく、この世界の天帝――『天国を支配している者』が、それなりにシッカリと対処をしているからだ」



 壊れ堕ちたモンスターの処理は、天帝の基本的な仕事の一つ。

 第2~第9アルファのように、『ゼノリカ』という、ハンパない暴力装置を有する世界でも、モンスターがヤバい壊れ方をした時は、天帝(バロールたち九華。最悪の場合は五聖命王が動くこともある)が出動して対処するのが一般的。

 ――大したことがない時は、『楽連』か、その下部組織である『ゼノリカですらない養成機関・愚連』のメンバーが出動して対処する。



 ラムド・セノワールが『壊れ堕ちたモンスターの脅威』を知らないのは、UV1が言うとおり、この世界の天帝『エレガ・プラネタ』が、常に世界を監視し、迅速な対処を施しているから。


 たとえ、エックスのゴミモンスターであっても、壊れ堕ちると、当り前のように存在値100を超えてくるので、表の戦力では対処できない(アルファのモンスターが壊れると存在値500をこえる事もある)。



「さて、そんな事を話している場合じゃない。流石に、もう、『ネオヘルズ覇鬼襲来』みたいな、イカれたアクシデントは起こらないと思うが……楽観視はするべきじゃない。さっさと、ここから脱出しないと」


「そうっすね。でも……あれ? 脱出用のルート、ぜんぜん出ないっすね。鬼どもを全滅させたのに……いつまで待っても、気配すら……」


 そこで、UV1が少し顔を青くして、


「……まさか、まだ『おかわりが残っている』とかじゃないでしょうね……はぁ……」


 ぽりぽりと頭をかきながら、溜息まじりにそうつぶやいた


「ああ、なるほど、その可能性もありそうっすね……えっと、もし、おかわりが来たとして、どのくらいまでなら対応できます?」


「ヘルズだけなら……『カースが抑えてくれるのなら』という条件つきだけれど、10体までならどうにかできる。もし、それにプラスでネオがいたら、敗北濃厚。ヘルズなしでも、もし、出現したのがネオ2体とかだったりしたら……その時点で終わり」


「……ぅ……なるほど……」


 言葉がつまり、冷や汗が出た。

 UV1が言っている事の意味が正確に理解できたから。


 今の疲弊したスリーピース・カースソルジャーでは、ネオヘルズ覇鬼を三分近く抑える事は出来ない。

 そして、UV1も、かなり消耗しているので、ネオを三分では殺せない。



「ま、まあ、でも、流石に、そんな嫌がらせは――」


 と、その時、





「「――っ?!」」






 二人は同時に気付く。



 急激に膨れ上がった威圧感。

 二人の眼前に、ヘルズたちやネオのものとは質の異なるジオメトリが出現。

 青白く揺れている幾何学が広がって、楕円を描き……


 そして、『そいつ』は、ゆっくりと、二人の前に出現した。








「――ネオヘルズ覇鬼を殺せるか……凄まじい力を持っているな」








「い……イフリート……」


 UV1は瞠目して、ワナワナと震えた。

 声も体も魂も震えている。

 イフリートの威容を見て、心底から絶望した顔になるUV1。


 ――二人の前に現れたのは『イフリート』と呼ばれる超有名な精霊種。

 サイズは2~3メートル。

 見た目は、三本の豪壮な角をはやしたライオン顔で半人半獣。

 常時、静かに燃えている青い炎に包まれている。


 イフリートは、最高位クラスの精霊種。

 ネオと同等クラスの超王級モンスター。

 存在値は平均で250オーバー。


 発生する頻度だけで言えば、龍種や鬼種以上に稀な、激レアモンスター。






 存在値で言えば、ネオと同等でありながら、

 UV1がここまで絶望している理由は複数ある。


 まず、精霊種は、『対処の厄介さ』でいえば、鬼種や龍種以上だという事。

 エレメンタルオーラ(ドリームオーラの下位互換)と呼ばれる、強力な障壁魔法の扱いが激烈に得意な種族で、攻撃を通す手段が少なく、殺すのが非常に難しい。


 精霊種の方が龍種や鬼種より上位種族という訳ではない。

 エレメンタルオーラを破壊、あるいは貫通できる『精霊種討伐』に特化した『専用の装備』で挑めば、割とさっくり倒せる。

 事前にシッカリと準備させてもらえるのであれば、『耐性的に万能な龍種』や『基礎ステータスが高めな鬼種』よりも、精霊種の方が遥かに倒しやすい。




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