ゼノリカに属する者ならば

ゼノリカに属する者ならば




「仮に、命を守ってもらっていなかったとしても……たとえ、俺だけ逃げられる道があったとしても……現状が、どんな状況・タイミングであったとしても、俺は、きっと、今と同じ事をするだろう。俺はそういう人間だ。……いい加減、歳だからな。ガキみたいに、ごまかしはしない」


 その発言が、『その辺のところを、いまだ、中学の頃と変わらず、ごまかし続けている究極超神センエースに対する皮肉』になっているなど気付きもせずに、38歳のセンエースは続ける。


「だが、裏切られて全部を失った直後だったからな。やっぱり、でかいぜ。ズンと心に響いた」


 UV1の行動は、センエースの理性を吹っ飛ばす、必殺の一撃になった。


 ――何度でも言うが、センエースは賢くないが、バカじゃない。

 だから、もちろん、


「UV1の行動。ゼノリカに対する忠誠心やゼノリカの意思・思想が理由なんだろうが、『命がけで、俺を守ってくれた』って事実は何もかわらねぇ。……震えたぜ」



 言いながら、ゴートは、さらに、


「悟鬼、召喚」


 存在値55クラスの鬼種を召喚する。

 両手に巨大なこん棒をもった、猫背でムキムキ型の鬼。


 他世界を含めたグローバルスタンダードだと『下級』に位置付けられる鬼。


 しかし、この世界の召喚獣としては、ハンパなく優秀な部類。

 ラムド・セノワールに召喚できるモンスターの中で二番目に強い(カース・ソルジャーを別枠とするなら、余裕で二位。ラムド自慢の召喚獣)。


 悟鬼は、現世だと、闘い方次第だが、ニーとも善戦できる強力な鬼(とはいえ、ニーを削り切る手段を持たないし、潜在魔力・潜在オーラ・戦闘力の差が大きすぎるので、悟鬼じゃあニーには絶対に勝てないが。ちなみに、闘い方次第というのは、正確に言うと、『殴り合い限定、魔法なし』というハンデがあれば、という意味。『オーラドール・アバターラ(分身を使われた時点で勝ち目なし)』や『ドリームオーラ(障壁魔法の最高峰。光壁などの上位互換。バリア系の最上位。悟鬼ごときの攻撃は通さない)』や『異次元砲(ていうか、これ一発でオーバーキル)』などといった破格の魔法を使われるともちろん瞬殺される)。






「俺がこんな所に連れてこなければ、こんな事にはならなかった。『こんな事になるなんて予測できるか』って逃げる事も出来なくはないが、するつもりはねぇ。命がけで護ってくれた相手に不義理を重ねる気はねぇ……つまり、現状は、完全に俺のせい、俺のミスだ……申し訳ねぇ。心から謝罪する」



 そこで、ゴートは、グっと奥歯をかみしめながら、

 吹っ飛ばされた先の壁際で、血を吐きながら、必死に回復魔法を使用している最中のUV1をチラ見して、


「クソ最悪なこの現状……けど、収穫はあった。UV1様、俺はあんたを尊敬した。これほどの極端な緊急事態かつ明確な危機的状況下で、何よりもまず、弱者である俺の命を優先させたあんたを、こんな地獄でも勇気を叫べたあんたを、本物の平和を願うその意志を、俺は心底から尊敬する」


「……ゼノリカに属する者なら……誰だって、そうする……」


 どうにか闘えるレベルにまで回復しようと全身全霊で魔法を使用しているUV1。


 同時に、いくつかのフィールド系の魔法を展開させていく。

 この状況下でも、彼女はまったく諦めていない。

 ずっと、ずっと、必死に抵抗している。


 ゴートがペラペラ喋っているあいだ、鬼たちが動かなかったのは、UV1の動きを警戒していたから。

 存在値377という、異常な力を持つ彼女の不審な動きにビビっていたから。



 UV1は諦めない。

 どんな地獄を前にしても、ゼノリカに属する者としての矜持を保ち続ける。



 そんな彼女の、明確な意志を再確認したゴートは、


「痺れたね」


 心からの言葉を呟いた。


 ゼノリカに属する者の美しさ。

 根が高潔かどうかはどうでもいい。


 リアルなピンチで、それでも気高くあろうと出来るかどうか。

 追い込まれた時に、それでも叫べる勇気こそを、ゴートは称賛する。



 だから、ゴートは、UV1を本気で尊敬した。

 この感情の帰結に、勘違いは微塵もない。



 UV1は、合理に身を賭した。

 それがゴートにとっても全て。


 UV1は、本気だった。

 つまり、嘘はなかった。

 真実だったってわけだ。


 世界を守るために、

 神を目指した超人。


 それだけの力を、それだけの魂を、それだけの覚悟を、

 ただ、ひたすら秩序の為に使おうと決意した女神候補。


 ――ほんと、痺れるじゃねぇか。

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