常識は二度死ぬ

常識は二度死ぬ




 このまま成長していけば、すぐに、この世界では異常な存在となってしまう。

 秩序を乱すイレギュラー。


(そうなれば、おそらく、ゼノリカの上が俺を制御しようと動くだろう。自由はなくなり、ただ上の命令を淡々とこなすだけの傀儡になる……それは面白くない……)



 ・ゼノリカの力を使わなければ自由。

 ・ラムドの力だけで事をなすのであれば、どう転ぼうと、それは時勢。


 そんな二つの前提から導き出される結論。

 ――すなわち、上は、『大きすぎる力による秩序の乱れ』をおそれている。



 ゴートは思う。

 まあ、理解できる考え方だ。

 てか、そりゃそうだろう。

 なんだって、そういうもんだ。


 しかし、


(俺は今、素直に、強くなりたいと思っている――が、それは、可能性を広げたいから。だが、UV1の目がある現状で『常識をぶっちぎった強さ』を得てしまえば、可能性は閉じる……どうにか、上の目をかいくぐらないと……)



 どうやって、ゼノリカの目から逃れるか。

 考えてみたが、今のラムドにはその手段がない。

 今の実力では、全力でフェイクオーラを展開しても余裕で見破られる。



(あの『塔最下層とかいうゼノリカの本部』で、なにか召喚してみるか。ゼノリカの素材を使えば、かなりのものが召喚できる。何かしら、この状況を打開する手段が見つかるかもしれない)



 仮に『何かよさげなもの』が召喚できたとしても、

 『外には持ちだせない』というルールがあるため、



(それも踏まえた上での何か……)


 面倒だな、

 などと考えながら、しかし、



(それもまたおもしろい)


 と素直にそう思えた。

 なんせ、現状、軽く閉塞的ではあるものの、

 それは『自身に巨大な革命を起こせる』と分かったからこそ。

 これをセンエースが面白いと思わない訳がない。






(とりあえず、なんにせよ、このまま、レベル上げを続行するのはまずい……今日のところは帰るか……)






 と、ゴートが踵を返そうとした、



 その時、






 ――ガチッ――



 何かがかみ合う音がした。

 ヒュンと上品な熱が脳に触れた気がした。

 気付いた時には、

 ゴートとUV1の足下に、奇妙なジオメトリが展開されていて、


 ――それを見たUV1は、



「……っっ?!」



 反射的に悲鳴をあげそうになるほどの悪寒を感じた。

 メイン職『暗殺者』である彼女の、研ぎ澄まされた感覚器官が、

 この地下迷宮内で現在発生している狂ったような異常・異変を感じ取った瞬間。


 実際、称賛モノの、最速の知覚だった。

 だが、それでも、一手、遅かった。



「まずい!! ラムド! はなれっ――」



 叫ぶよりも先に、そのワナは発動した。

 UV1とゴートを、次のステージへと運ぶ転移のワナ。


 転移は一瞬だった。












 ――真パラソルモンの地下迷宮『地下17777765553321階』――











 そこは、奥の壁にジオメトリが描かれた、学校の体育館くらいの広さの場所。

 先ほどまでよりも深い光に支配された場所。

 いったい何が光っているのか分からないが、とにかく、奇妙なほど明るい。



 転移の衝撃が、異常に大きい。

 頭がグワングワンしている。

 体にかかる圧力が増した気がした。

 ――『何がどうなったのか』に気付くまで、

 ゴートは数秒、UV1でも二秒を必要とした。






 その隙間――わずか二秒のスキを、

 『ソレ』は狩りにきた。

 機を見るに敏。

 迷いない殺意。






「うぉおお!!」

「ヘルズ覇鬼?!」


 突如襲われて、ただ慌てふためくだけのゴートと、そんなゴートの首根っこをひっぱりあげながら、敵の姿を確認してデジタルに恐れおののくUV1。


「あっぶねぇ……た、たすかりました……」


 UV1が引っ張ってくれなければ、『ヘルズ覇鬼が振り下ろしてきた刀が自分の首を飛ばしていた』と、ヘルズ覇鬼の残身を見て明確に理解したゴートが、心底から沸き出る感謝の言葉をのべるが、UV1は、ゴートの言葉などまったく聞いていないようで、

 ワナワナしながら、


「な、なんでっ……こ、ここは存在値20~30の最下級モンスターしか沸かないエックスのダンジョンのはずじゃ……なぜ、王級鬼種のヘルズ覇鬼が……」


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