『というか、警察が向いていない。わかっていたさ、最初から。オマワリなんて、趣味じゃない。なんだったら、絶対にやりたくない職業だ。根源的に、公務員は性に合っていない。分かっていた。全部、ちゃんと。……だが、それでも、俺は、国の犬になることを選んだ』


『ははは、そこまで俺は君を怒らせたのか。さすが、俺。ちなみに、実は、あの時のことを、俺は今でも奇妙なくらい覚えているんだよ。俺がふみつけた君の大事なものって、確か、母親のカタミだよね? ハンカチだったかサイフだったか忘れたけど』


『……サイフだ』


『そうだっけ? まあ、そんな細かいところは、流石に覚えていない訳だけど。まあ、そんなことは、どうでもいい。大事なのは、この世で唯一操れない相手が、かつて唯一俺に逆らった幼馴染ってことさ。なんだか、ドラマティックで素敵じゃないか』


『蝉原』


『ん? なにかな?』


『最後の質問をしていいか?』


『いいよ、どうぞ』


『あいつらが、お前に操られていたのかどうかだけ教えてくれ』


『あいつら? ああ、俺対策チームのメンバー? 操っていないよ。これだけはマジ。だって、そんな事したら、いろいろと台なしじゃん』


『そうか……』


『そうかで終わらないでよ。感想をちょうだいよ。どう? どんな気持ち? 普通に裏切られた気分はどう?』


『もし、あいつらが操られていただけなら、もう少しあがいてみようと思ったが……』


『ん? 思ったけど、なに?』






『もう、やめだ』






『……え?』


『お前の能力はチートすぎる。何をしても無駄だ』


『……おやおや』


『お前が相手じゃ、俺一人ではどうにも出来ない。せめて、何人か味方がいれば、闘おうと言う気にもなったかもしれない……もし、あいつらが操られているだけなら、どうにか解除方法を探そうとしたかもしれない、が……』


『……けれど? なに? 最後まで、ちゃんと言葉にしてほしいね』


『諦めた。もう無理だ。この世界は終わった。お前は完全なサイコパスだから、説得も無意味。抵抗も無意味。この世界は、お前に穢されて、狂って、終わる』


 センエースの言葉を聞いて、

 蝉原勇吾は嗤う。


 蝉原はバカじゃない。

 そして、これまでのセンエースの奮闘を知っている。


 だから嗤う。


 『センエースの心を摘んだ』という事実が『いかに誇らしい事』か、

 『異世界の聖典』を読むまでもなく、潜在的に理解できたから。



 ――第一アルファは、センエースを諦めさせるのが得意な世界だって話――



『心の強さは腹筋みたいなもんだってお前の意見には同意する。人の核は弱い。だからこそ、それでも強くあろうとする想いは尊い。だが、ゆえこそに、長くは維持できない。邪神(バグ)の力に抗えるほど、人は強くない……』


『……』


『……洗脳していいぞ、今ならたぶんできる』


『流石の君も、ついに諦めちゃったか』


『ああ、ムリだ。この絶望は殺せない』


『ははっ、じゃあ、遠慮なく――ん……』


『なんだ?』








『うぷ……う……』








『……どうした、蝉原……ぉい……』


『バ……バグ……ちょっと待っ……なんで……やめ……』


『おい、蝉原! どうし――』


『なんでだ! どうして! やっ、やめろぉおお!! ふざけるなぁああああああああああああああああああ!!』


 蝉原の体がカっと光ったかと思った直後、

 その光は、コスモゾーンの法則に逆らって、

 コンパクト化されることなく際限なく広がっていき、






 ――第一アルファの全てを木っ端みじんに吹き飛ばした――






 すべては一瞬の出来事だった。

 ゲームのリセットボタンでも押したみたいに、ほぼ全ての魂魄が大きな光に飲み込まれ、コスモゾーンにかえっていった――が、


 センの魂魄は、回収される直前、『声』を聞いた。







 ――まるで『夢』。

 幻想。

 何が何だかわからんが……そこから引っ張ってこられるのじゃ……わかるか?

 わからんじゃろう。

 わしにも、わからん!

 しかし、分かる!

 ひひひひひ!

 カツモクせよ!

 わしの全てを注いだ、究極の召喚を、見届けよ!

 さあ、来い!



 ――わしを踏み台にして、こちら側へくるがよい!











 ――よくわかんねぇが、

 ――感謝するぜ。



 ――俺に可能性を残してくれて、

 ――ありがとう。



 ラムド・セノワール。



 ――俺は、お前に、本気で感謝している。

 ――その想いを、だから、俺も、可能性で示そう。









 ――器をなくしたというのなら、

 ――俺が器になってやる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る