アダムでいる事の幸せ

アダムでいる事の幸せ





 ――ちなみに、十分後。


「全然……戻らないな……あれ?」


 三体融合の制限時間はとっくに過ぎているのに、アダムの融合は終わらなかった。

 圧倒的な存在値を発揮できる『究極完全体モード』は既に解除されているのだが、融合そのものは、まるで解除される気配を見せない。

 それどころか、どんどん、コアオーラの統合値が強固になっている。

 『最適化』されているのが傍目にも分かった。



「……どうなってんだ? えぇ? 融合しただけだよな……俺、なんもおかしいことはしてねぇぞ」



 アダムたちに渡した指輪は、完全に、融合だけを目的として創造したアイテム。

 それ以外のシステムは何も組み込まれていない。




「アダム、体調はどうだ? なにかおかしなところはないか?」


 さすがに心配になったので、そう声をかけてみると、


「すこぶる健康です」


 ツヤツヤの肌、潤っている髪。

 確かに、問題はなさそうに見える。

 どころか、



「というより……どんどん、体が、『今』に慣れていっているようです」



 最初は、わずかにあった、少しの歪み。

 ズレている、ひずんでいる、無理に重なっているという感覚。

 だが、どんどん修正されていく。

 もともと、こうであったかのように、

 しまいには、『これこそが自分だ』という自覚すら芽生えてくる。


 その流れの中で気付く。

 この感覚は知っている。


 ――これは、



「……どうやら」


「ん、どうした?」


「私の体が、あの二人を勝手に吸収してしまったようです……」






「……ぇ、えー」





 これまでの吸収のように、むりやり奪ったという感覚ではない。

 ――気付けば、一緒になっていた――

 それがもっとも正しい表現。


「どういたしましょう……」


「ちなみに、二人の意識は残っているか?」


「完全に奪い切った訳ではないので、交信は可能です。今も、私の中で、互いに意見を交わし合っております」


「へぇ……ちなみに、何か結論的なものは出たのか?」


「サイもユンも、『どうせなら私(アダム)でありたい』と言ってくれています」


「んー……ちなみに、分裂ってできそう? ちょくせつ、二人の意見も聞きたいところなんだが」


「頑張れば……少々おまちください」


 そこで、アダムは気合いをいれた。

 すると、ブブっと音がして、アダムの体が三つに分かれる。


 もとの状態に戻った三人。

 ただ、三人に分かれたとたん、三人そろって、

 なんだか憔悴しきったような表情になって、


 ……まず、ユンドラが、青い顔で、


「この分裂している状態、酷くしんどいわ……はやく、アダムに戻りたい」


 続いて、サイが、心底辛そうに、


「お母様……申し訳ありませんが、回収していただけますか……もはや、お母様のなかにいなければ……いろいろとダメなようで……」


 そう言って、二人とも、まるで、『酸素をもとめて水中から顔を出すよう』に、アダムの中へと戻っていった。


「……ふぅ……はぁ……」


 誰よりも消耗しているのはアダムのようで、

 二人を回収してからも、

 数秒、呼吸を整えるように肩を上下させていた。


 その様子を見て、センは、


「あー、うん、なんかごめん」


「いえ、見苦しいところをお見せしました……」



(……よく分からんな……なんだ、この状況……)





// 本来、???の???である???と???が、???して、???の???になるはずだったのだが、???という???のせいで???//





 センは少しだけ考えてみたが、情報がまったく足りていない現状では、いくら考えたところで、まともな答えなど出なさそうだったので、


(まあ、いいか)


 心の中でそうつぶやいて、


「じゃあ、指輪はもういらないな」


 そう言うと、


 アダムは、


「え」


 目を丸くして、そう声をもらした。


「いや、何でそんな顔……もうお前が二人を吸収してしまったんだから、別に、融合の指輪はいらないだろう。その指輪は、そこそこの素材を使って創ったものだから、普通に回収させてもらおうってだけの、当たり前の話――」


 そこで、アダムは、センからかばうように、左手の指輪を隠した。

 そして、この世の終わりみたいな顔をしてみせる。


「……主上様」


 言葉にこそしないが、『奪わないで』、と視線で訴えてくる。

 その視線を受けて、センは、小さく溜息をつき、


(やっぱり……あの二人と合体して、若干、アダムの『我』が強くなっているようだな……それを悪影響だと思うか、そうではないと捉えるか……なんか、俺の度量しだいな気がするなぁ……なんというか、はぁ……まったく……)


 心の中でそうつぶやいてから、


「……いや、うん……まあ、別に、欲しいなら……返さなくてもいいけど」


 言われて、アダムは、パァアっと微笑み、


「感謝いたします」


 恭しく頭をさげたのだった。


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