頼んだぜ、シューリ

頼んだぜ、シューリ






 ――テキトーに、『今後についての諸々』を含め、

 いくつかの命令を、パメラノとバロールに下した直後、

 酒神終理は、天空の淵から出た。


 長い廊下を抜けて、美しい庭に出て、桜の木にもたれかかる。

 視界の中には誰もいない。

 完全な『独り』になると、

 ヘッドホンを耳に装着して、懐から小さなコントローラを取り出し、再生ボタンを押した。


『頼んだぜ、シューリ』

『シューリ、ありがとう』

『大丈夫だ、シューリ』


 いつも聞いている無限ループを聞いてから、次のトラックに進める。

 それは、つい数十分前に送られてきたメッセージを録音したもので、


『シューリ、俺はこれから無限を目指す。お前が言うとおり、俺はまだ限界に達していなかったよ。どうやら、原初の世界は、俺たちの想像を超えているっぽい。無限転生をなくしてしまったのが、今では少し惜しいと思っているくらいだ。死ねば終わり。けど、俺は止まらない。これから、俺は原初の深層に足を踏み入れるつもりだ。……前から何度も言っている事だが……もし、俺に何かあったら、その時は、ゼノリカを頼む』



 メッセージを聞き直してから、




『頼んだぜ、シューリ』




 再度、無限ループに戻すと、『シューリ・スピリット・アース』は、


(あのアホ……無限転生をなくしたっていうのに、『原初の世界』の『深層』に、何の準備もなく足を踏み入れるつもりだなんて……本当に、どうしようもないバカね……いつまでたっても思慮の足りないクソガキのまま、世話ばかりやかせるアホんだら……まあ、そういうバカじゃなかったら、ソンキーに挑んだりしなかったか……)


 心の中で、ボソボソと、


(望みは叶えてあげるわ。あんたの望みが、あたしの望み。けれど、あんたがいないと、あたしは生きていけない……今後は、絶対に愚かな無茶はさせない。あんたが望む全て……そのための下準備はしてあげる。けれど、あたしが、あんたのワガママを黙って聞くのは、そこまでよ。それから先のあたしは、ずっと、あんたの側にいる……拒否は許さないわ。これまで、散々、あんたのワガママを聞いてあげたんだから、これからは、大人しく、あたしの隣にいなさい)


 そうつぶやきながら、

 シューリは、左手の薬指で輝くリングに、ソっと口づけをした。



(ゼノリカなんかどうでもいい。現世の下等生物がどうなろうと知った事か。このあたしの手によって直々に『お膳立て』されておきながら滅ぶというのなら、それはそういう運命だったというだけの話。殺す価値のない運命は実行させておけばいい)



『シューリ、見てろよ。俺は、必ず、お前を超える』

『笑うんじゃねぇよ、シューリ。俺は本気だぜ』



(……セン。あんただけが、あたしの全て……)



 その間も、

 ヘッドホンから、ずっと、センの声が響いていた。


『流石だな、シューリ』

『ああ、問題ない』

『ばーか、この程度で折れるセンエースさんじゃねぇんだよ』

『おいおい、ソンキーのやつ、強すぎだろ。シューリ、お前の弟、異常だぞ、あれ』

『シューリ。最近思ったんだけど、なんだかんだで、お前、ソンキーより強くね?』

『全ての世界の闇と邪悪を集めた結晶体【究極超邪神アポロギス】か……ははっ……ダサすぎて吐きそうだぜ……』

『バグやバーチャがゴミに思える脅威だな……流石、神の世界、その深層。起こる地獄もケタが違う』

『あれを鎮めるには、お前の命を捧げる必要がある、か……実にテンプレだねぇ』

『なんでそこまでするか? 難しい質問だな。なぜなら、理由がないからな』

『お前に憧れた。だから、俺はここまでこられた。あえてこじつけるなら、それが理由かな。こじつけたっつっても、別に嘘じゃねぇが』

『お前とソンキーには、永遠に、俺の目標であってもらいたいんだよ。そんだけ』

『心配すんなよ、シューリ。必ず見せてやるから。本物のハッピーエンドをプレゼントしてやる』

『シューリ。今日だけは……お前だけのヒーローをやってやる』

『絶望の殺し方なら知っている!』

『俺はセンエース。全ての神を超える男だ!!』

『……辿り着いたぜ……究極超神化6……神の最果て……』







『ヒーロー見参!!』









 チラっと、シューリの脳裏に、『アダム』の顔が浮かぶ。

 芸術的な相貌。

 豊かな乳房。

 洗練された輝くような武。

 にも関わらず、まだまだ発展途上の、美しい原石。




『この上なく尊き主の側仕え「アダム」だ』




 ――シューリは、ギリっと奥歯をかみしめて、


(虫が……あのバカの隣(側)は、あたしだけの特等席なんだよ……)


 人前では絶対に見せない、憤激を煮詰めたような、額に青筋を這わせている『鬼神の形相』で、虚空をにらみつけながら、心の中でボソっとそうつぶやいた。


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