ゼノリカの御荷物

ゼノリカの御荷物





「まあいい……」


 アダムは、多くの想いを飲み込んで、そうつぶやいた。

 まったく、いいわけないのだが、

 しかし、


「で、何をしに来た?」


 飲み込んで、おさめた。

 酒神の態度は、とても容認できるものではない。

 しかし、追及する訳にはいかない理由がある。


 いと高き場所に御座す偉大なる御方が、それを望んでいないから。



「こたびの任務は、『繊細な調整』が必要不可欠。命令系統の乱れは許されない。つまり、『常に命令系統の枠外』にいる貴様には、最初から最後まで、用など一つとして無いのだが?」



 酒神には、誰も命令できない。


 言う事を聞かないという訳ではない。

 三至天帝が命令すれば、「はいはい」と、一応、言う事は聞く。


 ただ、まるで『猿の手』のように、『何をするか分からない』から、組織の歯車としては使えない。


 猿の手のように、あえて『悪意』を滲ませる嫌がらせなどはしないが、

 『いや、こういう事じゃねぇよ』と言いたくなる過程を、

 それも『必ず』ではないが、稀によくある頻度で起こす問題児。


 尋常じゃ無くマイペース。

 奔放で、気ままなトラブルメーカー。


 いつだって予測不可能。

 多岐にわたり面倒くさすぎて、誰も使いたがらない、ゼノリカの御荷物。

 礼儀知らずで無知蒙昧で、おまけに重度の健忘症。

 人の話は聞かず、言動は常にラリっているとしか思えない。




 ゼノリカ内で、

 配下から『勘弁してくれよ、マジで』とウザがられているランキング堂々第一位。

 上司から『面倒臭ぇなぁ、あいつ』と溜息をつかれているランキング堂々第一位。

 同僚から『本当にいい加減にしなさいっ』と怒られているランキング堂々第一位。




 それが、五聖命王の一人、

 酒神終理。



「実はお願いがあるんでちゅよ。今回のミッション、『総監督』をオイちゃんに任せてもらいたいんでちゅ」



「……は? 何を――」



「え、オッケー? やった、嬉しいでちゅ!」


「私は何も言って――」


「総監督の任務、確かに承りまちた。全身全霊で取り組む所存でちゅ。というわけで、これからは、オイちゃんが、九華の坊っちゃん・嬢ちゃんたちを指揮していくんで、今後、何か『下』に命令したい事があったら、その時は、まずオイちゃんに話を通してくだちゃい。それじゃあ、ばーいちゃ」



 言って、酒神終理はタンっと円卓から立ちあがって、皆に背を向けて、颯爽と、主の間から出ていった。



 その背中を睨みつけながら、アダムが、


「アレは、いつもああなのか?」


 尋ねると、ミシャが、


「ええ。アレはいつもああよ。どう? 引くでしょ?」


「ああ、ドン引きだ。主上様から、簡単に話は聞いていたが……まさか、あれほどイカれているとは思わなかった……」


 アダムは、頭を抱えて、


(なぜだ……主上様は、なぜ、あれを……)



 悩んでいると、

 そこで、銃崎心理が、


「勘違いされたくありませんので、一応、言っておきます。五聖命王に属する全てがああという訳ではございません。私をふくめ、五聖命王に属する者は、みな、一癖・二癖あるのは事実ですが、アレほどではありません。アレは全てにおいて異常なのです」


「勘違いなどしない。あんなヤツが他に何人もいてたまるか」


 そこで、ミシャが、アダムに、


「どうやら、あの子は、統括をやりたがっているようだけれど……やらせるの? 一応、あの子も五聖命王だから、『誰に下を任せるか』という『その選択肢の中にいる一人』だけれど……アレにやらせると、色々としっちゃかめっちゃかになる可能性が高いわよ?」


 そう言われて、アダムは、少し渋い顔をして、

 キュっと両目を閉じ、ボソっと




「……やらせるしかない」




「? それはどういう意味?」





「主上様は仰った。もし、今回の件で、酒神終理が何かを望んだら、すべてを是とせよ、と」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る