われわれは高潔すぎる

われわれは高潔すぎる





「……」


 バロールは、眼球に力をこめたまま、しかし少しだけ黙る。

 テリーヌの言い分に屈した訳ではない。

 『気付けばMAXに達していた主への忠誠心』が、頭の中を支配しただけ。

 ――それと、



「あんたは九華の一柱。私と同じ、華麗なる神族が一人……私は、家族に猿がいるとは思いたくないのだけれど?」



 そこで、場の熱が、一気に下がる。

 バロールが、ただの輩(やから)なら、まだかみつくだろうが、



「……ちっ、いつまでもアネキ面・先輩面しやがって……たかが200年ちょっと早く九華に上がっただけのくせに……」



 バロールは、殺気を収めて、そうつぶやくだけにとどめ、テリーヌから視線をはずした。



 追及はできる。

 テリーヌは、間違いなく、少し言いすぎた。

 九華に属する神族が一人とはいえ、『過ち』を犯さないわけではない。

 そして、『本当に大事な場面でならば、謝罪する事に苦はない』が、『この程度のちょっとした失態』で、『弟』に対して頭を下げられるほど、テリーヌのプライドは安くない。


 その、ちょっとした『しょうもないともいえるプライド』を、バロールは、弟として立ててやった。


 結局のところ、この一幕は、それだけの話。

 どれほど地位が高くなろうと、結局、人間関係の本質は変わらない。

 そんなお話――







 落ちついた二人を横目に見ながら、ジャミはフゥと息をはく。


 年的には一番若いし、九華になったのも、『他の九華視点』でいえば『つい最近』だが、ここにいる誰もが、ジャミの事は認めている。



 とてつもない才能。

 圧倒的な資質。

 神聖を感じさせるほどのカリスマ。



 三至天帝から、正式に、『九華の主席』という地位を賜っているという事実。

 伊達ではない、ケタ違いの素質。


 ジャミの力は、五聖命王とほぼ対等。

 ――どころか、相性のいいミシャンド/ラが相手ならば、

 やり方次第では、肉薄する事も不可能ではない。

 そんな領域にいる超魔人。




 場に静けさが戻ってから、

 パメラノに続く、この中では二番目の年長者であるサトロワスが、


「はっはー、みんな、ピリピリしているねぇ。まあ、気持ちはわかるよ。私も同じさ。正直、あれほどとは思っていなかった。やばい、やばい。神様、すごすぎさね。ぜひ、直接お会いしたいところだけんども……まあ、厳しいだろうねぇ。ちぃと、住んでいる領域が違いすぎるって感じだ。これでも、私は、第三アルファだと、太陽神とまで呼ばれているんだが……ははっ、本物の太陽を、少しみくびりすぎていたって感じかな? 全てを照らす神様は、うん……実に遠いねぇ」



 空気を変えるようにそう声を発した。



 サトロワスの気配りにかぶせるように、アルキントゥが続けて、


「あらためて、自分が『どこ』に属しているのか、理解できた気がしましたわ。アダム殿にも言われてしまいましたが……どうやら、私は慢心していたようです。精進しなければいけませんわね」







 ――九華十傑。

 それぞれが、それぞれの世界では、神のように崇められている者達。

 正式な神族が一柱。

 現世において、最も位の高い生命。


 神を除くすべての頂点。


 生きとし生ける全ての者達の支配者。

 当然のように、それぞれの配下の前では、支配者然としているのだが、


 やはり『家族』の前では、気が抜けてしまうようで、


 というか、むしろ、普段が気を張り過ぎているため、

 かつ、事前の緊張からの緩和から、今の彼・彼女らは、かなり緩んでいる。






「ところで、悪とはどういう意味だ? なぜ、われわれは、悪の組織を目指すのだ?」



 ふいに、バロールが、主の御言葉を思い出してそう言った。



 すると、それまで黙っていた九華十傑の第二席であり、この中でぶっちぎりの古株であるパメラノが、


「今の我々は高潔すぎる」


 ポソっとそう言った。


 その瞬間、誰もが息をのんで、耳を傾ける。


 ジャミが主席ではあるが、この中で誰が最も大きい発言権を持つかと言えば、やはり、パメラノになる。


「昔はそうでもなかったんじゃがのう……サトロワスが上がる前くらい……6千年くらい前までは、たまぁに、『己が地位の高さ』に狂ったバカが、『百済(内部調査機関)上がりの第十席』に粛清されたりしとったんじゃが……今では、誰も、愚かさを見せんようになった」


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