呪いの発動条件

呪いの発動条件




 3話


 目を覚ますと、そこには、


「これが、かの有名な……知らない天井……」


 ボソっとつぶやいたゼンに、


「言うと思ったわ」


 シグレが笑いながら、そう声をかけた。


 ゼンが寝ているベッドの横に、イスを置いて座っているシグレ。

 頭の上には、ニーが乗っている。


 ゼンは、シグレの方に視線を向けず、逆側にある窓の外を眺めながら、


「……ここ、どこ? てか、何がどうなって、こうなっている?」


 ホルスドを殺した瞬間までは覚えているが、その直後から完全に記憶がなくなっている。


 視線の先、窓の外には、大きな時計塔が見えた。

 青い空に、白い雲。


「あのカスを倒して気絶したあんたを、『同じく気絶したあたしと融合したニー』が、きっちり、このセファイルの宿屋まで運んでくれたらしいわ」


「まさしく、おんぶにだっこだな」


「はは、そやな。いやぁ、ほんま、あたしのニーは流石やで。頼りにならんかった事がない」


 言いながら、シグレは、頭の上にいるニーをヒョイと持ち上げ、胸の前でギュウっと抱きしめた。


 ゼンは変わらず、窓の外を見つめたまま、


「本当に有能だな、ニー……欲しい。ちょうだい」


「やらへんわ」


 ピンと、こめかみをデコピンされるゼン。


 シグレは、続けて、


「てか、ここから、あたしらは常に一緒におるんやから、あんたも充分、ニーの恩恵受けれるやん」


「お前とずっと一緒にいるつもりはねぇよ」


 『常に一緒にいる』という発言に、気恥しさを覚えて、つい、ゼンは顔をゆがめる。


「俺とお前は、冒険者試験が終わるまでの間だけの臨時パ――」


 と、そこで、なんとなく、チラっと、シグレの顔に視線を向けると、






「っ!」






 気付く。


 彼女の顔、首から右目の下にかけて、禍々しいタトゥーが刻まれている事に。


「なっ……は? なんだ? その、顔の……イレズミみたいなの」



 一目でわかった。

 その禍々しさ。

 感じる異常性。

 歪な不快感。

 これは呪い。


 それも、かなりヤバい系の――



「ああ、これ? なんかなぁ……ちょっと『やったらアカン、運の使い方』をしたみたいでなぁ」


「……運……? って、まさか……」


 すぐに理解できた。

 ゼンはバカじゃない。


 というか、『ちょっとは思っていた』から、すぐに辿りつけた。

 あんな『異常な力』を得た代償がない方がおかしい。



(俺が……頼んだ……から……)



 別に、シグレに呪いをかけるつもりはなかった。

 当然、シグレを犠牲にして力を得ようと思っていた訳ではない。


 だが、結果的にはそうなっている。



 サァーっと青くなったゼンに、シグレの頭の上にいるニーが、



「ゼンは最善手を打ったよ。それは間違いない」


 まず、軽いフォローの言葉をつないでから、


「それを踏まえた上で聞いてね」


 淡々と、


「御察しの通り、シグレは呪われた。……これ、ほんと、凄まじい呪いだよ。とてもじゃないけど、ニーじゃ太刀打ちできない。……たぶん、ご主人でも、これを解除する事は出来ない」


「なっ?! 神様でも?! いや、それはねぇだろ! だって、あの神様は――」


「ゼンよりも、ニーの方が、ご主人については詳しいよ。ご主人の力は全世界最強。並ぶ者はいない、無敵の神様。誰よりも『先』にいる神の中の神。運命をも従えた究極超神。けど、完全なる全知全能じゃない。出来ないこともある」



「……」



 そこで、シグレが、


「なんか、気絶しとる間に、頭の中の『誰か』が色々と丁寧に教えてくれてなぁ。どうやら、この呪いは、何をやっても解けへんらしい」


「……何を……やっても……」


 ゼンは苦い顔でそうつぶやいた。

 気がつけば、歯噛みしていた。

 心が黒くなっていく。



 ゼンは、つづけて、


「その『誰か』って誰だ?」


「それはあたしにもわからへんねん」


「……そう、か……ちなみに、その呪いは、どういうものだ? そのまがまがしい感じ……どうせ『顔にタトゥーが入って終わり』って訳じゃないんだろ?」


「まぁなぁ」


 シグレは、頬をぽりぽりとかきながら、


「なんかな……これ、発動したら、無間地獄行きらしいんや。なんや『永遠に、死を超えた罰を受け続ける』とかなんとか……そんな感じらしいわ」



 想像を絶する答えに、ゼンは思わず両目を閉じて、うつむいた。


(マジで言ってんのかよ……おいおい……シャレになんねぇぞ……)


 両手で頭を抱え、



「……呪いの……発動条件は?」



 消えそうな声でたずねるゼンに、シグレは答える。



「それが二つあってなぁ。一つ目は、今年の冒険者試験に、あたしらが落ちる事」



「……なっ」

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