着々と進んでいく旅立ちの準備

着々と進んでいく旅立ちの準備






「マジで頭痛ぇ……うぅ……」



 頭痛にもだえているセンに、神は、


「これをやる。舐めておけ」


 そう言われた直後、センの手の中に、フリ○クケースみたいなものが出現した。


 もはや、驚く事もなく、センは、フタをあけて、掌の上で振ってみた。

 何粒か、『ちょっと光っている、名状しがたい正露丸のようなもの』が出てきた。


(もはや、この程度の珍妙さでは動じない自分がいるな……)


 センは、躊躇なく、ソレを、口の中に放り込む。


 テロテロと舐めている途中、


「……メッチャまずいんすけど、これ、なんすか?」


 正露丸をさらに煮詰めてしんどくしたような味がした。


「神実と言われている、神のプロテインだ。GLの経験値が稼ぎやすくなるというのが最大の特徴だが、足りない栄養素を補完してくれたりもする便利な食べ物」


「へぇ、仙豆みたいなものって事っすか?」


「体力は回復しないが、まあ、同じかそれ以上に便利な種だな。定期的に舐めておけ。勝手に補充されるようになっているから、なくなる心配はない」


「……はぁ、わかりました」



 返事をしながら、頭の中で、


(足りない栄養を補ってくれる、か。……これがあれば、どんな状況下でも餓死はしなさそうだな……あとは、水の確保さえしとけおけば、どこでも生きられそうだ――ん?)


 と、考えている途中で気付いた。


 頭の痛みが和らいでいた。

 重苦しい気持ち悪さと、ドロっとした眠気が溶けていく。



(……『ちゃんとした寝起き』みたいに、頭がスっとしてきた……確かに便利な食べ物だ)



 頭が動きだしてすぐ、センは、自分の中に流れ込んできた情報の処理に着手する。



(……これがGODレベル……レベルアップによってHPとMPは上昇するが、他のステータスはあがらない。最も重要なのは『GLが上がった際に獲得できるGP』で自由に己をカスタムできるという成長要素。――本来ならば、『神』と呼ばれる高次生命にならなければ解放されない究極のシステム)


 どんどん冴えわたってくる頭が、情報を端から整理していく。

 瞬時かつ極端に増えた情報量という暴力が、センの脳を強烈に活性化させる。


 むりやり本気を引き出された脳が、センを一段階上の存在へと押し上げる。


(……『普通のレベル』が『魂を奪わないと上がらない』のに対して、GLは何をしても上がる。そして、得られる力はどれも破格――これだけでもかなり有利なのに、『普通のレベルと並行して上げる事ができる』って点が、かなりのアドバンテージ。確かにチートだな。何より、『俺好み』って点が素晴らしい)


 センはガキの頃から、『考える』のが好きだった。


 素材をもとに、『どうすればどうなっていくか』を考えるのが大好きだった。



 小説を読んでいる時も、自分なら『ああするこうする』と常に考えていた。



 そして、考えて、『好みにあった結論』を出すと、『トコトン』やりこむ。





 ――だから、当然、かつての『センエース』もそうだった――


 『外には強いヤツがたくさんいる』

 『この村で得られる武器でそいつらを倒すのは難しい』

 『金も素材もない』

 『となれば、まずは下地』

 『体を戦闘に慣れさせる』

 『基礎を徹底させてから外に行こう』

 『そのための最適は?』

 『せっかくの異世界転生だ、できるだけ死にたくない』

 『全てを満たした最適解とは?』

 『その上で、自分の好みは?』

 『この村の周りは、二か所ほど、スライムが大量に沸くボーナスポイントがある』

 『下手にオーガやスケルトンを時間かけて倒すより、大量に沸くスライムを延々に殺した方が、いろんな意味でベストなんじゃ――』


 『もっといい方法はきっとある』

 『けど、今の俺はあまりにも無知で無力』

 『ならば、やはり――』


 『よし、決めた。しばらくはスライムを倒し続けよう。目標は10万匹。心が折れなければ、その10倍いこう』






 ――そして、結果、目標の200倍を達成したりする。





 閃壱番とは、そういう人間だ。


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