――どれだけ――

――どれだけ――





「いやいやいや! もちろん、頑張りますよ?! せっかく、異世界に行けるんですから、そりゃ、死ぬ気で頑張りますよ?! けど、そういう問題じゃなくないっすか? ゴミ以下が、ただ頑張ったところで、エリートな戦闘民族には勝てないでしょ?!」


 正論を並べるセンに、神は、静かに、






「どれだけ――」






「ぇ?」


「どれだけ苦しくても、積め」


「……」


「どれだけ辛くても、どれだけ惨めでも……どんなに痛々しくても、それでも泥臭く……嫌になって投げ出したくなっても……生きるのが嫌になるほど心砕かれても……それでも積み重ねろ。積み重ね続けろ」


「……」








「そうすれば……勝てる。絶対に勝てる」








「……なんで……言い切れるんですか?」


 そんな、当り前の疑問に対して、神は、


「さぁ」


 太陽を包み込むような、無邪気なガキのソレよりも遥かに眩しい満天の笑顔で、ハッキリと、


「なんでだろうな」


 そう言った。





 神の言葉は、あまりにもあやふやで、論理性にかけていて、バカ丸出しだったが、しかし、なぜか、



「……ただ積み重ねろ、か……」



 センの心に響いた。

 きっと、それは、確かな重さを感じたから。


 神の言葉が、ただの拙いギャグなんかじゃない、『本気のメッセージ』だと、なぜだか認識できたから。






「まあ、いっか……いいよ、積んでやる。やってやる……全部、乗り越えてやる」






「よく言った、セン。それでこそ……サイヤ人だ」


「え、俺、サイヤ人なんすか?」


「お前は第一アルファ人に決まっているだろう。なに言ってんだ、大丈夫か?」



(……ぅ、うぜぇ……ぁあ、どうしよう、シバきたくなってきた……でも、今の俺じゃあ、近づくことさえ無理だしなぁ……)


 本気でイライラしだしたセンは、心の中で決意する。


(よし、決めた。必死に強くなって、いつか、必ず一発シバく。それを俺の最終目標にしよう。神に一発ぶちこむとか、無謀を通り越した目標だが、俺はやる。やってみせる)



 センが歯噛みしている向こうで、神は、ぽりぽりと頬をかきながら、



(やべぇな……『自分』に対して偉そうにしている『今の状況』がしんどくなってきて、つい、要所要所でふざけちまう……あれだけ、お気楽系の神を嫌ってたってのに、自分がソレをやってどうすんだよ、ったく。……もう少し、頑張れ、俺……あとは、チートを与えて送りだすだけだろ……気をひきしめろ。ギャグに逃げるな、ちゃんとしろ)


 心の中でそう呟いてから、


「それでは、そろそろ、お前に与えるチートについての説明をはじめよう」


「え、俺、チートもらえるんすか? なんか、そういうのは、もらえなさそうな感じだったのに」


「当たり前だろうが、お前ごときが、チートもなしに、どうやって超魔王を倒すんだよ。うぬぼれんな、カスが」


(強くなって、ぜったい一発殴る……いや、二発、殴る)


 決意をさらに固めているセンの向こうで、


(チートなしでも、2000年くらい積めば、余裕で勝てるようになるだろうが、そこまで待ってられねぇんだよ……なにより、こいつには……)


 神は、心の中で、そんな事をつぶやきながら、センの目をジっと見つめる。






(……『無限転生が備わっていない』って問題がある)






 なんともおかしな話だが、このセンには、無限転生の特性が備わっていなかった。


 このセンは間違いなく、センエース。

 その証拠に、『世界一レベルが上がりやすい』という、唯一無二の特性は所有していた。


 だが、このセンは、無限転生は持っていない。



 その理由は――


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