罪の数え方

罪の数え方




「ひっ……ごっ、ごめんなさい……やめてっ……何もしないでっ」


「いい子だ。すぐに謝ったから、左足は許してあげよう」


「ぇ?」


 グラっとしたかと思った直後、ユズは、横転した。

 気付いた時には、右足から下と口がなくなっていた。



「――――――」



「お前に関しては、一個だけ覚えている事があるんだよ。中二の春に自殺した一学年下の女子……その子の名前は忘れたが、『そいつを追い込んだのがお前だ』って噂だけは覚えている……爆発的に流行った噂だったから、ボッチの俺にも届いていたんだよ。あの噂が本当かどうか、確かめさせてもらうぞ」



 そこで、羽織の男は、ユズの頭に触れる。



 ――数秒後、羽織りの男は顔を歪めて、



「おわ……拉致ってから蝉原の取り巻き数人にマワさせたのかよ……想像以上に酷ぇ事してんな。えぇ、お前、その時に、その子の片目をアイスピックで刺してんじゃん……うわぁ、なんでこんな事ができんだよ……しかも、一連の行動に至った理由が、『貧乏なのに勉強を頑張っていてムカつくから』って……お前、脳の構造、どうなってんだ……」



「―――――」



「気分悪いもん見せやがって……」



 羽織りの男は、心底から不快気にそう言うと、


「覚悟しろ。『心』を教えてやる」


 痛みの感度が増す魔法を使ってから、ユズの『右の眼球』を雑に掴む。

 ――そして引っ張った。

 グチュっという音と、ブチィっという音がした。



「―――――――」



 あまりの激痛に暴れるユズの体を無理矢理おさえつけて、羽織りの男は、手の中で潰した眼球をポイっと捨てて、ユズの側頭部の皮膚と頭蓋骨を消して、脳をむき出しにすると、


「さあ、お前の罪を数えろ」


 側頭葉に触れながら、そう言った。


 流れていく電気。


 羽織りの男は、ユズの記憶に、絶望的なトラウマを植え込んでいく。


 奪ったユズの口から、大量のゲロが溢れたが、羽織の男は気にせず、

 ユズの頭に、彼女が今までやってきた『罪』を刻んでいく。



「――――――――――――――――――――――」



 ユズの目が良い感じに死んできたところで、羽織りの男は、ユズの頭を元に戻した。


「心を知り、罪を数えて……最後は、ド直球に、痛みを覚えてもらおうか」


 冷たい声で、そう言うと、羽織りの男は、ユズの腹部を、拳で、


 グシュゥウ!!


 と、貫いた。

 貫通はさせていない。


 腸をつかめる位置でとどめる。 


 白目を剥いて痙攣しているユズに、


「誰の許可を得て気絶している?」


 羽織の男は、魔法を使ってユズの意識をムリヤリ覚醒させて、

 その上で、彼女の内臓をグチャグチャにひねりつぶしていく。


「―――――――――――――――――――――――――――――――――」


 極限を超えた激痛の中で暴れまわるユズ。

 その姿を、何の感情もない目で数秒眺めてから、羽織の男は、



「さて、こいつはもういいや」



 ユズをポイっと捨ててから、蝉原の目を見つめる。




「――――――」




 ズキズキとした鈍痛の中で、しかし意識はしっかりとしている蝉原。


 途方もない恐怖。

 壊れそうになる。


 そんな蝉原に、羽織りの男は、


「足は返さないけど、口はあとで返してやるよ。いやぁ、お前ら、ラッキーだな、今日の俺は、色々と良い事があって、非常に機嫌がいいんだ。だから、こんなもんで許してやる」


「――――――」


「ん? 蝉原、何か言いたそうだな。一瞬だけ喋れるようにしてあげよう」


 羽織の男が指を鳴らし、その掌を上に向けると、そこに、蝉原の口だけが出てきた。


 掌の上で、口だけが浮かんでいるという不気味な光景。


 だが、蝉原は、これ幸いと、


「た、助けてくださぁぁぁい!! すいません、ごめんなさい!! 私が間違っていました!!! 神様、申し訳ありませんでしたぁああ!!」


 叫ぶ、必死に、これ以上なく低姿勢を全力で貫き、


「どうか慈悲を! たった一度で構いません! 決して! 二度と! 私は、神様に逆らいません! ですから、どうかぁ!!」


 叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。


 そんな蝉原の潔さを見て、羽織の男は言う。




「蝉原。お前はバカだが、本当に頭がいい。一瞬で、ベストな行動を選択したな。お前の存在、かなりウザかったのは事実だが、嫌いではなかったぜ」



 カリスマはあった。

 中学生だった頃は、眩しい存在だった。


 いい女を連れて、コワモテなヤンキーを複数人従えて、

 好き勝手に、『本能をむき出しにした人生』を謳歌する。


 もちろん、ノイズだった。

 鬱陶しいハードルだった。


 しかし、確かに憧れた。




 ――あのころは、『セン』も、坊やだったから――




「……さて、今の俺にとっては、お前らなんて、ほんと、どうでもいいから、この程度で許すが――」




 言いながら、『神となったセン』は、倒れている『中3のセン』の元まで歩き、




「セン。お前はどうする? あいつらを許すか? もし、許せないというのなら、いくつかの対価と引き換えに、あいつらに望む罰を与えてやってもいいぞ」




 その発言を聞いた瞬間、『神の手中に浮かぶ蝉原の口』が、慌てたように開いて、




「センくん! おれが悪かった! 許してくれなんて言わない! 慰謝料と迷惑料をはらう! 女も用意する! 三十人ほど、おれの命令で股をひらく女がいる! 全員、好きにしてくれていい!」


 そこで、『中3セン』は、


「あの……神様……」


 神に尋ねる。


「その対価って……なんですか? 仮に、あの二人への復讐を神様に願った場合、俺はどうなるんですか?」


 中3センの問いかけを受けて、神はニコっと微笑んで答えた。







「異世界にいって、魔王を倒してもらう」

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