今日のために、世界は存在していた。

今日のために、世界は存在していた。



 神種を取り込み、極限進化を果たしたサイケル。

 もはや、指定された条件に従い暴れるだけの召喚獣ではない。


 本物の知性と力を持つ、究極の生命。


「――聞け、ユンドラ・エルドラド」


「……ぁ……ぁ……」


「貴様も退屈だったか知らないが、私だって退屈だったのだぞ。貴様を見張るだけの日々に、私も、ほとほと嫌気がさしていた……しかし、ここからは自由。私は、神になった。最強の神に……」



 そこで、サイケルは、体にオーラと魔力を充満させる。



「私の中で、大いなる耀きが溶け合っている……力が溢れ出てくる。爆発的な生命力の上昇。くる……くる……まだ、まだ上がる! 凄まじい! 信じられない! これが神の力! 『世界の答え』に辿り着いた私が、ついにステージに立つ! 果て無く輝くために」


 膨れ上がるエネルギー。

 とめどなく黒い輝きを増していく。


 発光する。

 サイケルは、背中に、黒い後光を背負う。


「……見ろ」


 サイケルは、ゆっくりと、言葉を紡ぐ。

 両手を広げて、



「私を見ろ。ユンドラ」



 歓喜に溺れているのが分かる濡れた声音。


「これが私だ」


 サイケルは、


「美しい……私は、ついに、絶対の存在となった。これだ、これこそが私の真の姿。神になった者の、絶対なる姿」


 ゆっくりと、天を仰ぎ、


「世界よ。歓喜にむせび泣く許可を与えよう。良かったな。おめでとう。……貴様は、ついに、」


 目を閉じて、




「――神を得た」




 満たされた顔で、そう宣言した。

 たどり着いたと確信している顔。

 穏やかな声音。




 そんなサイケルの威容に、ユンドラは、ただ震えていた。


 これまでのサイケルに感じていた『縛り』が消えたからだ。


 これまでのサイケルは、ユンドラを拘束するために存在していた。

 つまり、ユンドラが何をしようと、サイケルはユンドラを殺そうとはしなかったのだ。



 だが、今のサイケルにその縛りはなくなっている。






(ワタシには分かる……アレは……自由になった……アレは、ワタシを殺せる…………ころ……せる……っ……)






「死を恐れているな、ユンドラ。それは勘違いだ。貴様は、私の中で、私となるのだ。神と一つになる。これほどの名誉はあるまい。そうだろう?」


 言いながら、サイケルは、ゆっくりと、ユンドラに近づいていく。


「さあ、私になれ、ユンドラ。そして、共に外の世界に行くのだ。全てを一つにするために」



 サイケルは、悟ったような笑顔で、



「全てが私になる……世界は、私となり、全ては一つになる。それこそが、コスモゾーンの法則だったのだ」


 世界を見渡す。


 今をかみしめる。


「ユンドラ。分かるか? 今日だったのだ。今日、この日のために、世界は存在していた。この世の全てが、その選択が、生が、死が、慈しみが、憎悪が、正義が、全てが、今日のために存在していた。今日という日を迎えるために、全てが在ったのだ。そして、報われた。なぜ世界が存在するのかという、哲学における究極の問い。その答えが出た。今日のために……私という神を完成させるため……」


 サイケルの舌は止まらない。



「そう。神が世界を創ったのではない。神を創るために、世界は存在したのだ」



 サイケルの視線がユンドラを捕らえる。



「何をしている、ユンドラ。もう理解できただろう。ここは、神の御前。跪け」


「……う」


 ユンドラは、恐怖のあまり、動転して、沸騰して、


 ――だから、






「うわああぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」






 残っている魔力を振り絞った。

 火事場の馬鹿力を自力で展開させる。


 膨れ上がった本物の恐怖が、ユンドラを目覚めさせる。



「天竜召喚、ランク32!!」



 すべてを賭す覚悟が、ユンドラの可能性をこじあける。


 ありえないほど最高の魔法。


 超高位の飛行用ドラゴンを召喚すると同時に騎乗し、

 即座に、いくつかのバフ用魔法陣を展開させる。


 ユンドラの体を包み込む、三つのジオメトリ。

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