究極超神式「理論上最高値をたたき出す召喚」

究極超神式「理論上最高値をたたき出す召喚」


 研究室に戻ってきたセンは、


「さて……まずは、こいつの処理だな」



 足下に転がっている仮死状態のラムドを見ながら、そうつぶやく。



「主上様。そのゴミですが、目障りなようでしたら、わたくしめが、テキトーに解体して捨てておきますが、いかがいたしますか?」


「お前の発想は、常にスプラッターなカルマとともにあるな」



 パシリの思考回路に辟易し、溜息をつきつつ、



「こいつは殺さない」



 言いながら、腰を落として片膝をつく。

 そして、ラムドの体にソっと触れる。




「第一アルファには、『狂気の沙汰ほど面白い』って格言がある」


「流石は、主上様が統べる地『第一アルファ』……的確に真理をとらえている言葉かと」


「そういう意味で、このキチ○イは、少しだけ面白い……『残して』おいて損はないだろう。使うかどうかは、今後の展開次第で、結局使わないって事も充分にありうるだろうが」


「御冗談を。主上様は、諸行無常な未来でさえも、完璧に見通されてしまう絶理のアヴァターラ。因果すらねじ伏せる超知性を司る究極超神。……そのカスを残しておくという事は、つまり、既に使用目的が決まっているという事でございましょう?」


(なんか変なヤツだから、一応、残しておこうと思っただけなんだが……そういう、『俺は、特に、深いことは、なんも考えていませんよ』的な発言は、素直に言っても無駄なんだよなぁ……こいつみたいな狂信者系には、いくら反論しても、『いやいや』『いやいやいや』が、半永久的に続くだけ……まったく)


 心の中で面倒くさそうにタメ息をつくと、




 ……センは、アダムをシカトして、


「――ラムド。もらうぞ、お前の全部」



 直後、ラムドの肉体が輝き出した。


 輝きは、ホロホロと崩れ、パラパラとした粒子となる。


 細かい光の粒は、ユラユラと、センの中に溶けていった。






 ほんの数秒の出来事だった。




「さて……ん?」




 ラムドを『奪った』事で、とあるエピソード記憶が勝手に揺れた。

 意識なき光の粒が見せた、可愛い抵抗。



 センは、ニコっと微笑んだ。



「もう一回分、すぐに回せるのか。俺を呼んだガチャ……」



 ぶつぶつと言いながら、センは研究室の右手に視線を向ける。


 そこにあるドアを開けて、隣の部屋を見てみると、

 床に魔法陣が書かれていて、召喚に必要な道具も、全て完璧にそろっていた。






「……召喚術にも飽きてんだが……はっ……まあ、いいさ」






 言いながら、センは、ラムドが行おうとしていた『カスタム召喚術』の詳細を、

 頭の中から残らず引っ張り出してきて、



(……ふむ……ふむ……なるほど。素材があまりにもクソすぎるが……プランとしては、悪くない。ランダム要素が流石に強すぎるが、三連以上のエーテルシナジーと六大元素の変換が上手くいけば、充分に、ラムドの人生最高値は狙える……『俺』という結果は、『俺自身の呪い』が発動してしまったというだけの、単なる偶然だから、もちろんノーカンだ)






 わずかに、トクンと胸が鳴った。


 ふと、懐かしさを覚える。


 召喚を究めようとしていた時期が、センにもあった。




 しかし、とある出来事がキッカケで、センは召喚を捨てた。



 ――アレは、ただの偶然だった。


 もっと言えば、しょうもないウッカリだった――とはいえ、

 究極と評価しても構わない『ミシャンド/ラ』が召喚できてしまったため、


 召喚という技法そのものに対して一瞬で冷めてしまった、


 ――が、


 それまでに経てきた、寝る間を惜しんでまで、

 『どうすれば、もっと上手くいくだろうか』と必死に『考えては試して失敗して悩んだ』という記憶が、なかった事になる訳ではない。



(楽しかったな……)



 センは、両目を閉じて、ニコっと微笑んだ。



「今の俺はTASさん以上。茶柱も僥倖も自由自在。乱数なんざ、俺に絶対服従のパシリみたいなもんさ」



 センは、ブツブツとつぶやき、いくつかの小さなジオメトリを空間に出現させ、



「お前が積み重ねてきた『生』を、俺は、これより貰い受ける。単なる弱肉強食、起こりえた不運、その延長でしかないが――まあ、手前勝手で押しつけがましい詫び、あるいはポジティブに、運よく賜った褒美だとでも思ってくれ」


 実に神らしい、ワガママな事を口にしつつ、


「……お前が作り上げた理論上最高の召喚で可能な、『コンマの下にゼロが九つは必要』という超低確率な幸運を積み重ねた『究極の成功』――理論上の最高値を見せてやる」



 魔法陣が、淡く、光輝く。

 無数の幾何が踊る。

 厳かな風が舞う。



「来るがいい。運命に愛されし者よ。貴様に、世界の頂点を見せてやる。この俺の手によって直々に召喚される。その果てなき幸運を、『究極超神センエース』の名の下に祝福しようじゃないか」



 部屋の中に流星が降った。


 幻想的な光景。


 小さな流星群は、銀河のように渦を巻いて、


 選ばれし者に万雷の拍手を送る。



 そして、幸運なる者が、その姿を見せる。






「……はぁ? ぇ、ここどこ? って、ぇ、まさか……ちょ、ちょぉ待って……コレって、もしかして…………ぅ、ウソやろ……え、まさか……異世界転移? えぇ、ウソやん?!」

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