第10話 とある冒険者達
「あれ。撃ち落せますか?」
エリスが不意に足を止めて、小さく呟いた。
「ん?」
「何か居ました?」
手を掴まれて居たので、其のまま動きを止めて、確認する。
「ちょっと隠れます」
手近な茂みをこっそり示すエリスに合わせて移動する。
「あの高い木の上に止まって居る鳥です」
一先ず隠れて一息ついたので、落ち着いて説明を始める。
「あれって言うと・・・?」
「あれか?」
確かに背の高い木の天辺に大きめの鳥が止まっている、囀る訳では無く、獲物を探して周囲を見回して居る様子だ。
此方は茂み越しに見ているが、射線軸は通っている、左手を伸ばし、三角形を作って暗算で簡易的に距離を計算する。
・・・・一先ず獲物は1mとして、100m以上は離れてるな?
「何時もはもっと高い所に居る警戒心が強い鳥なんですけど、こう言う所に居るのはかなり珍しいんです」
現在地は、平原の端っこ、森林地帯の入り口辺りである。
此方は手前の茂みに中腰、立膝で隠れている状態で、鳥は森の端に見える、高めの木の天辺でキョロキョロとしているが、猛禽の類特有の敵が少なそうな、余裕が見られる動きである。
「ほうほう」
「何か狙いたい理由があると?」
灯が聞いてくる。
「とっても換金率が高いんです」
エリスが力強く断言する。現実的で現金なエリスらしい理由だ。
「成程・・・・」
かなり納得できた。
「それはしょうがないですね」
灯も苦笑を浮かべて納得した様子だ。
「・・・・南八幡大菩薩、この矢、外させたもうな」
精神統一した後で、投擲用に常備しているナイフを八幡様相手の神頼みを乗せて全力で投擲する。
那須与一(なすのよいち)が屋島の戦いで、敵が掲げた扇を撃ち抜いた時の祈りの言葉だ、何時もは前半だけだが、今回は時間的に余裕が有るのでちょっと長目だ。
投擲されたナイフは狙いを過たずに鳥の胸元に突き刺さり、バッと羽が散る、鳥は一瞬崩れる様に体勢を崩し。
「お見事」
「流石」
灯とエリスから期待通りと言う様な賞賛の言葉が漏れ。
鳥は落ちたと思った次の瞬間羽を広げて滑空を始めた。
次の瞬間には茂みの中に消える。
「げ・・・半矢?!」
思わず呟く。
「浅かったんですね?」
「でっかいですから」
エリスが予想通りと言う様子で呟く。
「知ってたなら先に言ってくれ・・・」
思わず呟く。
因みに「半矢」とは、一般的に当りが浅い事で、半分当り半分外れの、当たっても止めがさせて居ない状態の事だ、手負いの獣は危険だし気の毒だ、仕留める者のマナーとして、極力止めを刺せるまで追撃する事に成る。
「小さくても2・3m位ありますから」
前提条件が盛大に崩れている、其の条件を代入すると距離的に倍以上だ。
失速した上、八幡様の分で中るだけ中ったと言う状態なのだろう、大きさを考えると槍を投げた方がマシであるが、多分届かなかっただろう。
と成ると武器のチョイス自体は間違って居なかった訳だが・・・
「しょうがない、追いかけるぞ・・・」
流石に手負いで放置は無責任すぎるので、追撃体制に移行した。
「了解」
「頑張りましょう」
追撃戦に成るのも予想通りだったらしいエリスが元気いっぱいに答えた。
結局、ちゃんと仕留められるまで見通しの悪い森の中、丸一日がかりで追いかける羽目と成った。
心持ち重そうにふらふらと飛ぶのだが、大きさの分だけ飛ぶ力も大きく、体力も有るので、投擲槍の射程に入るまでかなり持ちこたえたのだ。
ある意味、追撃特化と言う人類の強みを生かした戦いだった、物がオーバーハンドで投げられ、そこそこ大型、最大速度は速く無いが、追撃戦の放熱とスタミナには勝ると言う、人類の初期ステータスは狩りの追撃の為だけに全振りなのだ。
仕留めた後で血抜きとモツ抜きをして、エリスの指示で砂肝の中身を探ると、鉱石や宝石の類がごろごろ出て来た。
「魔の森の山の奥、高い所に居る鳥なんですけど、こんな感じに鉱石やら宝石を貯めこんでるんで、宝石鳥って言われてるんです」
砂肝の中で散々擦り合わされたせいか、宝石が既に研磨済みの状態に角が取れて丸くなっていた。
虚空の蔵から鍋を取り出し、瓢箪から水を出して軽く洗う。
血と、お腹の内容物を洗い落とすと宝石の輝きが顔を出した。
「わあ・・・」
灯が感嘆の声を上げる。
「確かにこれなら換金性高いな・・・」
ルビーやサファイア等のコランダム系の宝石迄混ざっている、宝石流通の元がその方向なのか、船乗りシンドバットの冒険の世界だな。
多分あの土地に護衛付きで鉱夫を送るより、時々此方に来るこの鳥を仕留めた方が楽と言う話なのだろう。
そもそもあの土地をまともに探索できるのは、一般人や普通の冒険者から見るとよっぽど腕が立つか命知らずらしいが・・・
毎度の様に何時ものメンバーで探索して居るので大分危機感が薄れているが。
「これってオパールでしたっけ?」
灯が妙にデカイ石を摘まみ上げた、金属系の鉱物の中に青系の游色を浮かべたオパールが有る。
他の石が大きくても爪の先程、1㎝有るか無いか程度だが、之だけ灯の握りこぶし大の大きさだった。
「アイアン・ボルダー・オパール?」
ボルダーとは「岩の塊」を示す、鉄系の鉱物の間にオパールが混じって居る物だ。
何処と無く、オパールや金属部分がCPUのデジタル回路を思わせる模様を浮かべて居る。
「独特の模様付いてますね?」
灯も同感だったらしい。
「?」
灯が不思議そうな顔で、石を眺めている。
「何だか何か言いそうですよ?」
灯が変な事を言い始めた。
追伸
一寸出そうと思ったら、普通に出しゃばってしまったガンダーラチーム、ちょい役の筈・・・
と言うか、こいつ等出るんなら、前作の第4章辺りに混ぜてよかったじゃないかと言うツッコミも有りなので、統合してしまいましょうか?
尤も、此奴らメインはじゃあないので以下略
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