第198話 潜りワニ
後退し続けて、扇のようになっている壁が段々と狭くなっていって……このまま狭い通路に逃げ込めば大丈夫だろうと、そう考えていた……のだが、床に潜りながら突き進んでくるワニを改めて見やった折、ふとある考えが頭に浮かぶ。
……床に潜れるこいつはもしかしたら、壁にも潜れるんじゃねぇか? と。
もしそうならば狭い場所へ逃げ込むのは全くの逆効果と言えて、瞬間足を止めた俺は、ワニのことを見やり、実際どうなのか、その動きから見極めようとする。
壁の中もああして泳げるのならば、それ相応の動きをするはず、壁を壁とは見なさねぇで、そういう生物独特の動きを見せるはず。
このまま通路に逃げ込めば組合の皆が攻撃を受けるかもしれねぇ、その前に確実に確認をと考え、後退するのを止めて壁際へとあえて近づいていくと……背中のポチが無言ながら俺の考えを理解してくれたのか、斬撃を連続で飛ばしてワニの意識をこちらへと向ける。
俺達を無視して通路にいかれちゃぁ大惨事だ、壁を背負う形で構えた俺も黒刀を大げさに振るってかかってこいとワニを煽る。
さっきはワニも俺達のことを挑発しようとしていたからなぁ、逆にこちらが挑発してやりゃぁそれなりの効果があるはず。
やつの頼りは視界、ならば大げさに大きく動いて、わざと隙を作ったりして……すると挑発が成功したのかワニが凄まじい勢いでこちらに突っ込んでくる。
それに対して俺達はあえて迎撃はせずに、回避することに専念し……結果、勢いよく突っ込んできたワニが俺達の背後にあった壁へとぶち当たることになり、ばしゃんと良い音を立てて壁の中へと潜っていく。
「やっぱりかこの野郎!!」
「ああもう、ここで倒すしかないじゃないですか!!」
俺が声を上げ、間をおかずポチが続き、とにもかくにも壁から距離を取ろうと駆け出す。
駆け出し、左右の壁のちょうど真ん中の辺りに立って、壁から来るのか床から来るのか、はたまた天井から来るのか警戒をして……直後、硬い床を踏みしめていたはずの足の親指が、砂浜のような柔らかいものを踏んだかのように僅かにだが下に沈む。
瞬間、何も考えずに床を蹴って空中で側転をするような形になりながら床に向けて黒刀を振るう。
すると黒刀の切っ先が床へと沈み込み、床の中で何かを斬り、斬った直後黒刀が弾かれたかのように跳ねて床からはじき出される。
そして着地、床は元通りの硬いものへと戻っていて、試しに何度か踏んでみても、黒刀を突き立ててみても変化はなく……どうやらワニはどこかへ行ってしまったようだ。
「僕がいることを忘れてとんでもないことしてくれますね」
爪を立てた手でがっしりと俺の頭を掴むポチがそんな声を上げる。
「咄嗟だったんだから仕方ねぇだろ、っていうか痛ぇよ、痛ぇ、爪立てんな」
周囲を警戒しながら俺がそう返すとポチは、
「こっちも咄嗟だったんですよ」
と、そう言ってから頭から手を離し、俺の頭にぐりぐりと押し付けてくれていた小刀を握り直し、しっかりと構え……言葉を続けてくる。
「さっきの感じ、ワニを斬ることは出来たんですよね? 深手を与えられましたか?」
「いや、回転しながら振ったってだけで、しかも当たったのは切っ先だからな、ざくりという感触があって鱗はしっかりと斬り裂いたんだろうが、それ以上はどうだろうな。
まとった炎で少しは焦げてくれりゃぁありがたいんだが……やっぱ両足を地につけて力を込めねぇと刀は駄目だな」
「……どうにかワニを引きずり出せれば良いんですけどねぇ、ああいう生き物は大体、お腹には鱗がなくて柔らかくなってるんで、そこを斬ることができれば……」
そう言ってポチは頭を悩ませ、俺も悩ませ……周囲の警戒をしっかりとしながら頭を悩ませていると今度は天井から何かが落ちてくるような気配がする。
確認をせずに床を蹴って飛び退いて、そうしてからそれが何かを確認しようとすると、床にとろりとした水滴が落ちて広がり、まるでそれは何かのよだれのようで……瞬間俺は黒刀を持ち上げ、顔の横にもってきて突きの構えを取る。
そうしながら視線は上へ、天井に潜んで奇襲を狙っているだろうワニのことを探し……ポチもまた小刀を構え、俺の狙いが上手く行くようにと構えてくれて……そこにワニが、なんとも都合の良い具合に天井からの落下攻撃を仕掛けてくる。
普通に突っ込んだのでは回避されてしまうと学んだのだろう……落下の勢いを加算したそれは中々の速度だったが、そう来ると思って構えていた俺達には全く脅威じゃぁなかった。
すかさずポチが小刀でもう一つの目を潰し、俺は落下攻撃を回避するために蹴り飛んで……ワニの腹側へと回り込む。
そうしたなら後は考えることなくただただ黒刀を突き出して……鱗のねぇワニの腹を全力で貫く。
貫いたなら刃を上に向けて、落下し続けるワニの体を斬り裂いていって……斬り裂かれたワニの体が燃え上がりながら床へと叩きつけられる。
そしてワニの体がすぅっと消え始めて……どうやら無事に決着となってくれたようだ。
ドロップアイテムは……なんとも大きな金と銀の塊で、ごつごつとした金平糖のような形をしている。
大きさとしては人の頭くらいのもんで……これだけの大きさならそれなりの価値となってくれるだろう。
そして大ワニなんかのドロップアイテムも部屋の中のあちこちに散らばり……それらを回収するためかエルダーがこちらへと駆けてくる。
「まったく無茶しおる」
「ダンジョンの外側といったら良いのか、内側といったら良いのか、私達にはいけない場所をいくモンスターですか」
「厄介なくせにドロップアイテムはいまいちですねぇ」
なんてことを言いながら駆けてきて……そしてクロコマとシャロンは心配させるなとか、そんなことを言いながら俺とポチのことを労ってくれる。
俺達がそうしている間にドロップアイテムの回収が終わり、進むにせよ戻るにせよここらで休憩した方が良いだろうとなり……そうして俺達は水筒弁当を取り出しての、休憩を開始するのだった。
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