第152話 流し針


 とりあえずの方針が決まって……たっぷりと寿司を食って。

 そうしてゆったりと体を休めて、明日辺りにダンジョンに行くかと話し合って。


 そうやって今日はもうお開きで良いかと、そんなことを話し合っていると、ドタドタと聞き慣れてしまった足音が廊下から響いてくる。


「はいはいはーい! ちょっとまってくださーい! 解散の前にワタシの話も聞いてくださーい!

 有益な話を持ってくることに定評のある、ワタシ深森の話を聞いてくださーい!!」


 更にはそんな声まで聞こえてきて……やれやれと俺や彼女の存在に慣れた面々が呆れ顔をする中、ボグとペルはきょとんとした顔をし……それらの音が響いてくる方へと視線をやる。


 そうやって一部の視線が集まる中、戸が勢いよく開かれて、何かの包みを抱えた深森エンティアン……江戸城務めのハーフエルフの姿を見せる。


「聞きましたよ聞きましたよー、この長い耳ではっきり聞きましたよー。

 あの植物モンスターが出るダンジョンに挑むそうですねー!」


 姿を見せるなりそう言って、適当な席に腰を下ろした深森は、出前桶の中に残っていたいくらかの寿司をつまみながらきらきらと輝くその目をこちらに向けてくる。


「……何処で聞いてたのかは知らねぇが、そんな風に堂々と盗み聞き宣言をされちまうとなぁ……。

 というか流石に初回攻略でいきなり調査ってのは無理だぞ? お前の安全を保障できねぇからな」


 そんな深森に対し俺がそう返すと、深森は口いっぱいに入れた寿司をもぐもぐと咀嚼し、飲み込んでから言葉を返してくる。


「はいはいはいはい、分かってます分かってまーす。

 それについては分かってるんですがー……犬界さんは分かってませんねー、ワタシあれですよ、エルフの端くれなんですよ、エルフの端くれってことはですねー……かつてのエルフ達がどうやって植物モンスターを攻略したかって情報も、簡単に手に入っちゃうんですねー!」


「そりゃぁあれだろ? エルフの魔法ってやつだろ?

 魔法で攻略したなんて言われても、俺達にエルフの魔法は使えねぇんだ……そんな情報なんか今更―――」


「―――いえいえいえ、もちろん魔法も使いましたけどね、魔法が決め手じゃーないんですよー。

 っていうか魔法が決め手だっていうなら流石のワタシでもわざわざ教えに来たりしませんってー。

 決め手はこちら、エルフ達が植物モンスター用に作った武器になります!!」


 俺の言葉の途中でそう声を上げて深森は、手にしていた包みを俺達の前で広げる。


「……なんだこりゃ、やじりか? ……いや、それにしては大きいし重そうだし……そうすると槍の穂先か?」


 その包みの中にあったのは、そんな言葉を思わず上げたくなるような、何本もの不思議な鉄の筒だった。


 細く長く、筒状になっていて、先端は斜めに切断されて、鋭い槍のようになっている。

 そして先端部分と根元部分に横に出っ張った引っかかりというか、釣り針なんかにあるような返しがついていて、一度刺さったなら簡単には抜けないようにとの工夫がされている。


 そうした構造を見ると鏃のようにも、槍の穂先のようにも思えてくるのだが、それならばわざわざ筒状にする意味が分からず……なんだってまたそんな風に耐久力の低い、武器に不向きな構造となっているのだろうか?


 と、それを手に取りながら、そんなことを考え込んでいると、同じく手にとった深森が、皆に見えるように持ち上げながら解説をし始める。


「こちらは鏃にしても良いですし、槍の穂先にしても良いですし、このまま手で掴んで使っても良いんです。

 つまりはまー……これで完成してる武器ってことですね、ご先祖様達は垂れ流し針、または流し針と呼んでたみたいですね」


 垂れ流し? 何を? これを使って……これを刺して……?


「お、おいおいおい、まさかこいつは、相手に刺して相手の血を抜くというか、垂れ流しにするもんだってのか?

 いくら返しがあるったってこんなもん、血が垂れ流しになるくらいならって無理矢理に引き抜くんじゃねぇか?」


 その解説に反応して思わずといった感じで俺がそんな声を上げると、深森は手を激しく左右にぶんぶんと振ってから、笑い声混じりの言葉を返してくる。


「あはははははー、相手は植物モンスターだって言ってるじゃないですかー!

 これは血液じゃなくてですねー、相手の体液というか樹液というか、そんなのを抜くものなんですよー!

 植物モンスターはこう……体内に水分がたっぷりと入っててですねー、そこにこう雷のようなもの……電気信号を流して、水分の圧力を変えることで動いているようなんですねー。

 まぁ、解剖とかをした訳じゃないんで、あくまで仮説なんですけど、色々と試した結果、水分がないと動けなくなるっていうのは確かなようでして。

 更にですね、植物モンスターには痛覚がないものですから、これを刺してもですね、刺されたことに気付かないんですよ。

 戦闘が終われば気付いて抜いたりするそうなんですけども、戦闘中は戦闘に夢中で全然気付かなくて……これを刺しまくって針の山のようにしちゃえば相手の動きを完全に奪えるって訳ですねぇー!

 傷をすぐに癒やす再生力も、体にしっかりと食い込んだ異物の排除まではできないみたいで、ご先祖様も楽勝だった訳じゃなくて、苦労の末にこれを作り出して、そうしてあのダジョンを攻略したようなんですねー!」


 そんな深森の言葉を受けて、まずポチが「なるほど!」と声を上げ、次にシャロンとクロコマが声を上げ……ペルまでが「ははぁ、面白いもんだなぁ」なんて声を上げて納得をした様子を見せる。


 俺としてはぽかんとしたままのボグと同様、まだ分かったような分からないような、首を傾げてしまうような状態だったんだが……ポチ達がそういう風に納得しているのなら、実際に効果があるものなんだろうと納得し……改めてその流し針とやらを手にとってしげしげと眺める。


「するとあとの問題は、これを敵にどうやって刺すかってことになる訳か……。

 手でもって危険を承知で敵に肉薄してぶっ刺すか、あるいは―――」


「―――ご先祖様はさっきも言ったように、これを鏃にして矢を放ったり、槍の穂先のようにして敵に突き立てたりしてたたみたいですねー!

 どちらにしてもちょっと構造が悪いっていうか、矢にしたら全然まっすぐ飛ばないし、槍の穂先にしたら突き立てにくいしで、大変だったみたいですけど、効果は抜群なものですから、仕方なく使ってたみたいですねー!」


 眺めながら俺がそう声を上げると、深森はまたもそんな風に声を被せてきて……すっかりと慣れてしまった俺は気にせず頷く。


 頷き自分ならどうこれを敵に刺すかを考え……同時に、これを具足師の牧田に頼んで量産してもらわねぇとなと、そんなことを思うのだった。




――――そしてお知らせです。


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イラストレーターは、はてなときのこさん!


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キャラデザにつきましては近況ノートで公開しますので、ぜひぜひチェックしてみてください


キャラの外観設定もWEB版と書籍版では大きく違っていますので、そういった部分やこのキャラ達が活き活きと動き回る素敵イラストも楽しんでいただければと思います!

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