第46話 第二ダンジョン突入
五日後。
俺達はしっかりと装備を整えて準備を整えて、アメムシが出るという第二ダンジョンの入り口へとやってきていた。
装備の内容は薬液を塗ってもらった革装備に、ゴーグルにマスクに腰に刺した刀といういつもの品揃えと……牧田に拵えてもらった俺用の鉄製大盾と、ポチ達用の鉄板を張り付けた木製小盾と……念のためにと持ってきたそれぞれの体格に見合った大きさの鉄の棒、となっている。
基本的にはアメムシの攻撃を盾で防ぎ、防ぎながら盾でアメムシを潰すという戦い方になるが、盾で攻撃できないような想定外の状況があるかもしれないと、武器とも言えないような鉄の棒を牧田の工房から借りてきたという訳だ。
鉄の棒には持ちやすいようにと持ち手部分に革を巻いてあるものの、特にこれと言った加工はしておらず、邪魔になったらそこらに捨てても問題ない程度の代物となっている。
盾に関しては上手く扱えるようにと昨日までみっちりと練習していて……保育園の子供達にも手伝ってもらったおかげで、中々の習熟度となっている。
『アメムシの関しての資料を読んでいて気づいたのですが、アメムシの攻撃方法って保育園の子達のじゃれ方に少し似ていますよね。
群れで行動し、飛びかかっての酸での攻撃が主、酸を吐き出しての遠距離攻撃もあるが稀。
……この練習用の木の盾を保育園に持っていって、子供達の飛びつき攻撃と、興奮しながら撒き散らすよだれを防ぎきれるかどうか、試してみるのも良いかもしれませんね』
なんてポチの一言を受けて、保育園の子供達をアメムシに見立てての実戦訓練をしてみた訳なんだが、中々どうしてこれが良い練習となってくれた。
流石に子供達を攻撃する訳にはいかないので、ただただ盾でもってその飛びつきと涎を受けるだけの内容だったのだが、それでも本気で……コボルトのうちに潜む狩猟本能を全開にしながら襲いかかってくる子供達の攻撃は中々に厄介で、盾で受けきれなかった場合は子供達が満足するまで舐められてしまい……顔も身体も服も何もかもがよだれまみれとなってしまう為、相応の危機感をもって経験を積むことが出来たという訳だ。
と、俺がそんなことを考えていると、半目で頬を引きつらせたシャロンが、
「うふふふ……ついに実戦ですね。
訓練でたまった鬱憤をここで晴らさせていただきますよ」
なんて言葉を口にする。
全力で襲いかかって良いとの許可を得たことにより一切の遠慮がなくなった子供達の、俺やポチであっても受けきれないその攻撃を、シャロンはいくらか多めに……何度も何度も食らってしまっていて、そうして溜まりに溜まった鬱憤を、アメムシ達にぶつけるつもりのようだ。
当然シャロンはいつもの投げ紐と……背負箱いっぱいの塩と石灰も用意していて、それらの使用に関してはシャロンの判断に任せてある。
石灰に関しては色々と厄介な反応が起きるようで、取り扱いは慎重にしてくれと頼んであるが……この様子だとあまり期待は出来ないようだ。
……まぁ、それでも無茶なことはしねぇだろうと、そんなことを考えながら「行くぞ」との一言を口にして、ダンジョンの入り口へとゆっくりと近付いていく。
そうして入り口に手を触れるといつものあの感覚があり、いつものように歪んだ光景がゆっくりと正されていって……小鬼のダンジョンとは全く違った雰囲気の、湿気って苔むした石壁洞窟の光景が視界に入り込む。
天然洞窟……ではないようで、人の手で掘り進んだものと思われる真っ直ぐ正面に進んでいる道の掘削跡を、壁にかけられた松明の灯りがゆらゆらと照らしている。
以前のそれとは違う天井と壁がしっかりとあるその光景に、ちょっとした驚きを抱きながら、そっと壁へと手を伸ばしてみる……が、壁に触れることは出来ず、その手前にあるらしい見えない壁に行く手を阻まれてしまう。
松明に触れることも当然出来ず、近付いてみてもその熱を感じることは出来ず……ただ灯りだけがこちらに届いているようだ。
試しに鉄棒を振ってみるが、壁にも天井にも床にも届かず……相変わらずの見せかけの光景、見せかけの世界という訳か。
「……相変わらず匂いだけはしっかりするんですねぇ」
と、ポチ。
「ですねぇ、カビ臭いしジメジメしてますし……なんだか嫌な感じです」
と、シャロン。
二人は俺には分からないような、かすかな匂いを嗅ぎ取ろうと鼻をすんすんと鳴らし……そうやって周囲の様子を確かめながら前へ前へと足を進めて……そうして何かに気付いたらしく、ぴくりと反応してから声を上げてくる。
「どうやら先行している人達が居るようですね……この匂いは以前すれ違った方々、なのかな」
「ああ、金棒を持った方々ですか。
……うぅん、嫌な汗の匂いと荒い息遣いの音……あまり良い状況では無いようですねぇ」
ポチ、シャロンの順番でそう言って……直後前方から、件の男達のものなのだろう、激しい足音が響き聞こえてくる。
何かから逃げてくるようにドタバタと慌ただしく音を響かせて……汗まみれの男達が顔を見せて……そうかと思えばそのまますれ違うかのようにしてダンジョンの入り口へと触れて脱出していく。
その最後尾の一人、甲冑姿の武士だと思われるいかつい男が、俺達を見るなり息を切らしながら声をかけてくる。
「お、おい、お前らもすぐ逃げろ!
こ、ここのダンジョンの魔物共はとにかく数が多くて、倒しきれたもんじゃねぇんだ!!
俺達でさえ突破できず何十日もここで足止めを……」
そう言いながら男は姿勢をどうにか立て直し、満足に構えることも出来ずに引きずっていた得物……俺の身長程はありそうな金棒をどうにか構えてから俺達のこと見やってくる。
「……って、なんだぁ、その格好は!?
つうか鉄板張りの盾にそんな頼りねぇ鉄の棒って、んなもんが何の役に―――」
と、そんな男の言葉の途中で……ちゃぽん、と水を入れた革袋を放り投げたような、そんな音がダンジョンの奥から響き聞こえてくる。
ぬちゃりちゃぽん、ずるりどろり、
音の主は一匹や二匹ではないようで、響く水音が重なり合っていって……それを受けて俺達は盾を構えての戦闘態勢を取る。
そんな俺達を見て何を思ったかは知らないが、男はそれ以上何も言うことなくダンジョンの入り口の方へと駆けていって……そのまま外へと帰還する。
その様子をちらりと確認した俺は、意識を音の方へと向けて、ずいと前に踏み出して……アメムシよかかってこいと、鉄の大盾をぐいと構えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます