第27話 ダンジョン再突入


 翌日。


「今回の具は何なんだ?」


「秘密。その方が楽しめるでしょ?

 ぽっちゃんも、匂いで分かるからって言っちゃ駄目だよ。

 シャロンちゃんの分も作ったから、合流したら渡してあげてね」


「おう、ありがとうよ。

 こいつがなければダンジョン探索はやってられねぇからなぁ」


 妹のリンとのそんな会話を済ませて、握り飯を受け取った俺とポチは、鉢金に当てていたゴーグルをぐいと下げて、顎に引っ掛けていたマスクをぐいと上げる。


 そうやって新たな装備を通して見る新たな視界に己を馴染ませながら……怪しい格好となっているらしい俺達を物凄い目で見るリンに別れを告げてから屋敷をあとにする。


 そうしてシャロンが住まう屋敷へと向かい、装備とゴーグルとマスクを装着したシャロンと合流し……ゴーグルマスクの三人組となって、花のお江戸をのっしのっしと歩いていく。


「おい! お前その装備……まさか狼月か! なんてぇ格好だよまったく!」

「ぶははははは! おもっしれぇ格好をしてんなぁ!」

「……今度の金稼ぎのネタはそれか!? それがありゃぁお前みたいに豪遊できるのか!?」


 そんな声をかけてくる顔見知り連中に適当な言葉を返しながら足を進めていって、大手門へと向かい……以前のそれとは全く違う、興味津々……というか刺さるような視線を向けてくる同業者連中の合間を縫って、あの蔵へダンジョンの入り口へと向かう。


「よく来てくれた犬界、ポバンカ、そしてシャロン・ラインフォルト。

 待っていたぞ」


 そして当たり前のようにそこにいる吉宗様が、そう言って笑顔を向けてくる。


「お待たせしたようで申し訳ありません。……して本日はどのようなご用件で?」


 まさかの将軍との邂逅にシャロンが泡を食って頭を下げる中、俺がそう言うと、吉宗様は手にしていた書類の束をこちらへと渡してくる。


「ダンジョン関連法の草案だ。

 今は何の法も制約も無く、好きなダンジョンに入らせているが、これまでの様々な結果と、お前達が出した結果を考慮し、法の力でそれを縛ることにした。

 何処の誰であってもダンジョンに挑むのは難易度の低いダンジョンから順番に……その最奥まで突破してから次に挑むこと。

 攻略具合の確認の魔具を必ず携帯すること、装備や食料など十分な準備をしていない者に対し攻略禁止令を発することもある……と、大体はそういった内容になるな」


 吉宗様の言葉が一旦止まったのを受けて、書類へと目を落とすと、今しがた説明のあった法案についてが書かれていて……かなり厳しく細かい条件が課される上に、違反した場合の罰則も相応に厳しいものとなっていることが分かる。


 書類に書かれた文字を見逃すことにないように読んでいって、読み終えたら足元のポチに渡して次を読んで、読み終えたらポチに渡して……と繰り返していると、それまでとは全く違う内容の地図の書かれた書類が顔を見せる。


「それはダンジョン特区開発に関する書類だな。

 ダンジョン攻略を効率化するために、北桔橋門側の一帯にダンジョン特区を設けることとなったのだ。

 今の段階で特区には幕府の研究機関、ダンジョン素材の買取窓口、澁澤の商店などが設置されることになっていて……お前達の活躍次第では更に施設が増えることもあるかもしれん。

 研究機関からの攻略依頼、素材収集依頼なども発布されることになっていて、無事に依頼を達成した暁にはかなりの報酬を用意してくれるそうだ。

 特区が出来上がったら顔を出して見ると良い」


 特区に関する書類も丁寧に読んでいって……そうしてすべての書類を読み終えた俺は、吉宗様に向かって声を返す。


「随分と力を尽くして頂いたようで……たったの数日でここまでとは驚かされました」


 吉宗様は幕府の脊髄だ。

 ダンジョンの件がなくとも手ずから処理している仕事の量は膨大で……これだけの仕事をこなすには相当の苦労があったことだろう。


 そんな想いを込めての俺の言葉に吉宗様は苦笑を返してくる。


「命を賭けてくれているお前達に比べたらこの程度はなんてことではない。

 むしろ未だにこれしか手が打てていないのかと、己で己のことが恥ずかしくなる程だ。

 ……そして、だ。この法案は早ければ明日にでも発布されることになっている。

 そうなればここは……誰もが最初に攻略しなければならぬこのダンジョンは、多くの者達で溢れ返ることになる。

 お前達がお前達の歩調で、ゆったりと攻略出来るのは今日までかも知れん、覚悟しておくと良い。

 ……さて、急ぎの用事があるのでな、余はこれで失礼させて貰うぞ」


 そう言い残して吉宗様は、足早に蔵をあとにする。


 その背中をしっかりと頭を下げて見送った俺達は……受け取った書類をしまい、お互いの装備やゴーグルの確認をした上で、息を整え、三人同時に裂け目へと手をのばす。


「わ、わ、わ、わ~~~!?

 なんですかこれ~~~!?」


 ダンジョンに入る際の、あの独特の景色と感覚に驚いたのか、シャロンがそんな声を上げて……その声が響き終わるのと同時に、ダンジョンのあの光景が視界に入り込んでくる。


 これが明日から人が殺到するであろうこのダンジョンを、自由に攻略できる最後の機会。


 吉宗様から与えられたこの機会でもって見事にあの鬼を討ち取って、このダンジョンを隅々まで堪能してやるぞと一層の気合を入れた俺達は、装備が仕上がるまでの三日で仕上げた連携を試す為にとそれぞれの武器を手に取って、奴らと戦う為の支度を整えるのだった。


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