第6話 予感
その後にも吸血事件は続いた。とくに学校の周辺で多い。襲われるのも決まって学生であったり、教員であったりと学校関係者ばかり。寮に篭り登校を拒否する学生が増えて、たちまち事態は大きくなっていった。
普段と打って変わり、静まり返った寮の部屋にてルイスは深くため息を吐く。そんなルイスに高良は読んでいた本から顔を上げた。
「平気か?」
「……もちろん」
事態を重く見た学校は一時的に学内の全ての活動を休ませることを決定した。寮暮らしの学生たちは寮からの外出を禁じられた。近くに実家のある者はそのまま家に帰ってしまい、現在の寮には高良と同じような留学生や、ルイスのように保護者が入院で家に不在だという学生しか残っていない。
事件解決を目指して調査をしていたものの、結局は何も出来ていないとルイスは再び大きくため息を吐いた。
そのとき、高良の携帯が鳴った。本を棚の上に置き、高良が通話に出る。
「あぁ、お前か。どうした? ……へえ、待て。ルイスに代わる」
「誰?」
「ワンだ」
高良がルイスへ携帯を投げる。それを慌てて受け取り、耳に当てた。機械の向こうからワンの声が聞こえてくる。
「ワン?」
『ハイ、ワンよ。ねえ、ルイスはもう事件の解決を諦めてしまうの?』
「い、や。そんなことはないよ」
『そうよね、ねえ。この機会にもう一度、事件のことを考えてみない? こんな騒ぎになって何もしないままでなんていられないでしょ』
「そ、れは、そうだけどさ。どうかな……こんな大ごとになってしまって、それにもしも本当に吸血鬼だったなら僕らに出来ることなんて……あるのかなってさ」
『やだ、そんなの今更じゃない』
クスクスと笑い声だけが聞こえてくる。
『そもそも単なる学生に出来ることなんて何もないわよ。事件の解決や、犯人の逮捕は本当なら警察の仕事なんだから』
「そうだよね……」
『あらま、本当に悩んでいるのね? でも私は諦めるつもりはないからね、きちんとはっきりと明らかにするまでは。……続ける覚悟が決まったら電話してくれる? そのときにちゃんと話しましょう』
「ああ、ごめん。僕が始めたことなのにさ、こんなで」
『いいのよ、思い悩むのは若者の特権よね。こっちも同室の子が入院しちゃって考える時間はたっぷりとあるもの……』
ワンの言葉に問い返すと、女子寮も男子寮と変わらず、人がいなくなり閑散としているらしい。しかもワンのルームメイトは何度目かの事件の被害者になってしまい、今も入院中なのだとか。
ルイスの眉間の皺が一段と深まった。なるほど、ワンが調査を続けることに乗り気な理由が分かった。ふと、何かがひっかかった。
「まって、それじゃあ君は今、寮に一人きりなのかい?」
『ええ、それがどうかした? ア!』
「どうした? ワン」
『ううん、なんでもない。ブレーカーが落ちたみたい……もう、誰もいないのにツイてないわ……ちょっとブレーカーを上げるてくるから切るわね』
「切るな!」
携帯に向かってルイスが叫んだ。
しかし一足遅く、携帯の向こうから聞こえてくるのはツー、ツー、という電子音のみだ。携帯を握りしめてルイスの脳裏を目まぐるしく浮かぶのは吸血事件の一連の出来事についてだ。
「高良! 行かないと!」
「え、どこにだよ」
「ワンのいる女子寮だ。急ごう、もしかしたらワンが危ないかもしれない!」
自然公園から学校までは、それなりの距離がある。
ワンが被害者となった初めの事件のときには公園近くの飼い犬が軒並み姿を消していて、普段はいるのだろう飼い犬の散歩をする人たちがいなかった。つまり、事件の日の誰もいない公園というのは、もしかすると意図的に作られた状況だったのではないだろうか。
そして今、学校を襲っている事件についてワンの時のような計画性があるようには感じられなかった。見境がない。被害者には学校の関係者という共通点だけしかない。
もしも一連の事件がワンを狙ったものなら、寮の人が減った今の状況は犯人にとって願ったり叶ったりな状況ではなかろうか。
そしてたった今、起きた女子寮の停電。嫌な予感ばかりが膨らんでいった。高良とともにルイスは女子寮へと急いだ。
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