第24話:勝利者インタビューと女子アナウンサー【女子アナウンサー:葉月優佳】
『工藤監督。今日の試合の継投は予定通りだったのでしょうか?』
「そうですね……松葉君の調子は良かったですが、球数は100球超えていました。まだ投げられるとは思いましたが、球威、変化球のキレや精度は確実に落ちていたので今宮君にスイッチしました」
『その今宮君ですが、一年生にこの大舞台を任せることに躊躇はなかったのですか?』
「もちろんです。今宮君の能力であれば桐陽高校さん相手でも十分通用すると思っていました」
試合終了後恒例の勝利高校の監督インタビューを受ける工藤監督。理路整然とした受け答えで応じていく監督とは対照的に、選手インタビューを受けているのは全打点をたたき出した悠岐だった。
『坂本君! 二打席連続の素晴らしいホームランでしたね!』
「いえ。岩田投手のチェンジアップもストレートも素晴らしかったので、ホームランに出来たのは紙一重です」
『次の対戦相手はまだ決まっていませんし時期尚早かと思いますが、すでに二本の本塁打を放っているので、大会記録まで後四本。狙っていくんですか?』
「………僕はエース、いえ、チームのために打つだけです。それが本塁打でもタイムリーでも関係ありません。記録は意識せず、打席に立つだけですから」
普段の唯我独尊の雰囲気はどこかに忘れてきたのかと思うくらい、悠岐は丁寧に受け答えに応じていた。
そして、桐陽高校打線を相手に3回を
「今宮君! お疲れさまでした! っあ、私、今年の『熱戦甲子園』のMCを担当している
葉月優佳。入社三年目の若手アナウンサー。赤茶の入った髪色に緩くウェーブのかかったセミロング。上がり目で可憐な容姿で世の男性陣を魅力している人気アナウンサーだ。
急遽番組のMCに抜擢されたが、その時は全くの野球素人だったが番組が始まるまでのわずかな期間で猛勉強して共に番組を進行する元プロ野球選手の解説者も舌を巻くほどの知識を身に付けたまさにプロ。このことが男性のみならず女性にも好評で、視聴率も上々のようだ。
「別にかまいませんが……テレビ的には一年生の、それも背番号18の俺よりエースの松葉先輩の方がいいと思いますけど?プロ注目の本格左腕ですよ?」
夏の風物詩の一つともいえるテレビ番組『熱戦甲子園』。
毎試合ごとにどちらかのチームにスポットをあててドラマ仕立てに編集を行い、時には視聴者の涙を誘う演出を行う30分番組だ。有名なのは無音編集。舞い上がる白球をカメラが追い、様々なカット絵を入れるがその際音は一切入れない独特の演出は感動を呼ぶ。メインMCが現場に出て取材をすることも有名で、どうやらその一環でこの女子アナは俺のところに来たようだ。
「フフッ。謙遜しないでください。一年生ながら優勝候補の桐陽高校を相手に一人のランナーも出さない完璧なピッチング。プロ入り間違いなしの北條君を相手に真っ向勝負を挑んで見事に三振に抑えたマウンドさばき。明秀高校を二回戦進出に導いた原動力を取材しないなんて、『熱戦甲子園』ファンからクレームが来るわ!」
「……ハァ。そうですか?」
「そうなんです! 上からの命令ですし、私個人としても今宮君には何としてでも取材をしたいんです! 安心してください、学校と監督さんの許可は得ていますから!」
さすがメディア。手が早い。監督も許可しているというのなら俺には拒否権はない。ここは甘んじて取材されよう。宜しくお願いしますと頭を下げる。女子アナの葉月さんはパァアっと明るい笑顔を浮かべて、
「ありがとうございます! それでは早速、今日から密着取材させていただきますね! 宜しくね、今宮君」
葉月さんは左手を出して握手を求めてきたので俺は快く応じた。投手の命でもある利き手とは逆の手で握手を自然と求めてくるあたり、彼女は本当にプロだ。失礼だと思うが、俺は素直に感心した。
「フフッ。じゃぁ、あとで色々聞かせてね? 早紀との話も含めてね?」
離れ際、葉月さんは俺の耳元でささやいた。どうしてここで早紀さんの名前が出てくるのかと驚きもしたが、それ以上に彼女のような美人に耳元で囁かれたことに対して俺は言葉を失った。
またねーとのんきに手を振りながら去っていくお茶目な女子アナウンサー。
最高の勝利の余韻に浸りたかったが、嵐の到来を予感して、俺はため息をついた。
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