第2話 教え子
「お願いだから、ね?いいじゃん一生のお願い。」
拝むように私にお願いをする親友の瑠美。彼女は学生の時からの親友でクラブのオーナーをしている。今、親友に何をお願いされているかというと、私にクラブに来て欲しいということだった。私だって普通のお願いだったらいいよと一つ返事で了承するのだけど、このお願いというのは少々厄介なお願いだったりする。
「杏南が来ないとダメなんだって。女の子達待ってるんだから。」
「嫌だよ。あの服装でなんでしょ?あんなの私らしくないし、それに、態度までかえなきゃいけないじゃない。」
「そこを何とか…!それに、連れてくるって言っちゃったし。」
「ちょっと瑠美!」
「まぁいいじゃん、私を助ける為だと思って」
「もう!」
瑠美のお願いは決定事項だったらしい。私らしくこのまま行けるのなら問題ないのだけど、瑠美の要求というのが一番の難点だった。服装指定に態度変更。態度を大きくという事なんだけど、瑠美にはメヒョウの様にと言われている。なんだか、私の容姿がそれにピッタリなのがメヒョウらしい。いまいち自分では納得いかない設定なのだけど。
以前、瑠美に無理やり着替えさせられて店に連れられて行ったことがあった。それを何度かさせられていた私。
最初は、何が何だか解らず、黙って誰にも話すこともなく、瑠美にひっ付いて回っただけだった。だって、いつもの服装じゃないし、恥ずかしいやら、他の人の視線が気になるやらで。そしたら、何かそれがいけなかったのか、クールな女性と勘違いされたらしい。そのうち、なぜか、女の子にモテだした私。
瑠美がいつも予告していたのかは定かではないけど、そのうち、待ち伏せしてる女の子、プレゼントを渡してくる女の子達に囲まれたりするようになった。一番困ったのは、1人の子が私を杏南様と様付けで呼ぶようになってしまったことで、他の子たちも様付けで呼んでくるようになった。いつの間にか今では、私のファンクラブみたいなものが結成されているらしい。瑠美曰わく、私のファンの子たちが杏南様はいつ来られるんですか!?ととてもしつこいらしい。
「いい?あんたはメヒョウよ?」
「わかったから。もう最後だからね!」
再度確認されクラブ入った瑠美と私。メヒョウのように鋭く獲物を刈るようにという意味だろうか。獲物って何?とは言いたくはなるけれど、私は考えても仕方ないから瑠美の言われた通りに、横柄に態度を大きくするようにというイメージで自分を作ることにする。演技は昔演劇部だったから多少は自信があった。店に入ったとたんに女の子の視線がこちらに向いた。
あ、確かあの子はと思ったのは、以前最初に杏南様と呼んだあの子だった。手を振ったら、顔を赤くするあたり、やはり私のことが好きなのだなぁと他人事みたいに思えて。そしたら、また他の女の子がこちらにやってくる。顔が赤いのは私のファンということで間違いなさそうだ。
「杏南様これ受け取ってください。」
そう言われ、渡されたブランドの紙袋。そんな高価なプレゼント受け取れない。
「高いでしょ?それは受け取れないわ」
「でも、杏南様の為に買ったものですから。受け取ってください。」
何だか泣きそうな顔してるから、受け取ることにした。こんな私にこんな高価なプレゼント買うなんてと思って、ごめんねという意味も込めて、彼女の髪に触れ、ありがとうと言う。
「はぁ・・・いえ」
蒸気した彼女の顔を見て戸惑うけど、表に出さないように、クールに務めた。
「杏南すごいわ・・・」
「え?」
「流石杏南様ね。」
そう言って感心する瑠美に、ちょっとやめてよと会話していた。そしたらふと見た先に知った顔があったしかもバッチリ目が合った。やばいと思って目をそらす。
私のクラスの教え子だった。遠藤さんがどうしてここに?目が合ったことに焦っていたら瑠美がどうしたの?というので、自分の教え子が来ていると教えた。
瑠美はここのオーナーだから、高校生が来るのははっきり言って困る私が帰るように言おうかと尋ねてきた。でも、私も担任だから。しかも、しっかり目が合ったことによって、私がいることがわかっただろうし。でも自信ないな。相手は遠藤さんだし、彼女ははっきり言って問題児だ。学校をサボったりするのはしょっちゅうだし、来たと思ったら、途中からいなかったりするそんな問題児にはっきりと帰りなさいなんて言えるのだろうか。
学校の私を見ている彼女には私がそんなに強く言えないのは分かってるだろうし。それに私が言って、いうことを聞いてくれるかも自信がない。瑠美が何ぐずぐずしてるんだと言う。
「杏南はメヒョウよ!大丈夫びしっと言ってやりなさい。それにこの店でその恰好の時はキメてよね杏南様?」
瑠美にそう言われたら仕方がない。渋々、彼女の側まで歩いて行き、遠藤さんに注意することにした。
側に来た私を見て驚いたような顔をする遠藤さんに、帰るように言った。結構強い口調で言ったから、遠藤さんは怒ったらしく、睨んできた。それに、私が誰だかわからなかったらしい。だから、仕方なく名刺を渡した。確認した彼女はかなり動揺している。半ば強引に私は彼女を外に追い出した。
それからしばらくクラブで遊んでから帰宅した。遊ぶと言っても、普通に話したり座ってお酒飲んだりするだけだけど。
あれから数日がたった。遠藤さんは最近私を睨む。それに、学校に来ることがあまりなくなった。サボったりすることもしょっちゅう。
これはいけないとは思っている。でも、私はハッキリ言えないでいた。普段はハッキリ言えないのが私の悪いところ。教師に向いてないと言われるけれど、それは私も担任をもってから嫌と言うほどわかっていた。
あれがいけなかったのかな。あのクラブでの出来事。今の私からはかけ離れたあの恰好。それに態度だってそう。遠藤さんが動揺するのもわかる。
一応、担任な以上彼女が学校に来ない現状はどうにかしないといけないと焦っていた。今日、遠藤さんは欠席していた。私は言を決して彼女の自宅に訪問することを決めたのだった。
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