邂逅の戦場(10)
「これ以上、返り血で染めさせない。その機体、今度は自分の血で染めなさい!」
大きさに似合わず急加速を見せるデュープラン。
「できるもんならやってみれば? 目立ちたがりの高飛車女!」
「わたくしを罵倒して生き残っているのは剣王くらいのものよ! 過去に倣いなさい、小娘ぇ!」
「じゃあ、あたしで二人目だし!」
ブレード同士のぶつかり合いが火花を散らす。二合ののちにニーチェは相手に足を向けて機体を裏返らせる。頭部と脚があった位置を左右からビームが通過していった。
(今、視えた。プリシラ先輩からの感情の流れがピュンって)
それで攻撃位置を感覚的に知り、回避ができたのだった。
(微かだけど視える。きっと強く意識するからだし)
動作制御に意識が走り、そこに感情が混じるのだろうと強引に理解する。
「よく動く。気合い入れなさい、プリシー。デュープランは大部隊を一機で相手できる機体なのよ」
「たった一機。畳み掛ければ持ち堪えられない筈です、姉上」
「ええ、わたくしとあなたなら数百を怖れる必要もない。ライナックの正義の象徴になれるわ」
出鱈目な論理をこねている。
「そうやって何もかも正義にこじつけるし! そんな奴らがこの国をダメにしたって分かってる?」
「理解できない? 分からせてあげる。強い者が正義なのよ!」
「無法者の理屈!」
ニーチェは吠える。
「そんなの通用しない! 虐げられる者だって黙ってないし!」
「黙って守られる者が弱者。逆らうのは悪」
「悪でいいし! あんたが正義なら喜んで悪をやる!」
自在に飛び回る機動砲架から放たれるビームをぎりぎりで躱しながら切り込む。すり抜けたと思ったら真正面からビームカノンが狙っていた。
ジェットシールドで弾くも、衝撃でルージベルニが揺らぐ。連続するブレードの突きにニーチェは防戦一方になる。だが、この間合いなら死角からのビームはない。
「そう。自ら悪を認めるなら好都合」
嘲笑う声が聞こえる。
「だって悪は正義に滅ぼされるのが宿命なんだもの」
「バッドエンドだってあるかもだし」
「それはないわ。わたくしが居るんだもの。あなたもここで終わり。そして魔王の野望もここでつい
ニーチェの意識が真っ赤に染まる。
「させるか! させない!
「二度も? それはどういう意味?」
「戯言よ!」
(絶対にさせない!)
頭の芯が熱く灼ける。
『同調率、基準値に達しました。ボールフランカー、ブレードモードで使用可能です』
システム音声が何らかの変化を告げる。
「何でもいいから、いけー!」
「なんなのよ!」
目前に迫っていたビームブレードが弾かれる。左手に握らせたフォトンブレードの刃ではない。右肩を前にしていたのだ。
「花が咲いた!?」
「違います。あれはブレード?」
ボールフランカーの
「斬る!」
肩から体当たりを掛ける。咄嗟に後退したデュープランの胸部装甲が浅く削られた。
「よくもー!」
「姉上!」
浅くとも、プライドにつけた傷は深かったらしい。
黄色い機体が突進しようとするところへ機動砲架の一基が割り込む。カウンターで左肩のボールフランカーを回転させて突き出したが、その一基を両断するだけで躱されてしまった。ビームチャンバーが小爆発を起こして二機は分かれる。
「援護します!」
随伴機からの声。
「近付いては駄目!」
「邪魔ぁー!」
左上からの砲撃は回転する三枚の刃で弾く。振り下ろしてくるブレードを躱してクラブを立てる。そうするとプロペラのように回っていたフォトンブレードは円錐状のドリルへと変貌した。
そのまま肩ごと押し込むとドリルは胴体中央を貫く。対消滅炉を半壊させた一撃は敵機を閃光に変えた。
「これならぁ!」
左肩のブレードは解除し、高速回転させて連射する。デュープランはジェットシールドで弾くがすぐに過負荷で弱まってくる。ところが残り三基の可動砲架が前に入り込んでくると莢が割れるように口を開いた。
皮肉にも、三方向へ開いた口はブレードモードのボールフランカーに似ている。しかし、その機能は異なるようであった。連射は開いた口のところで弾けてしまっている。
(盾?)
そんな機能もあるのかとニーチェは思った。
(げ、違うかも!)
その中心に光が生まれると、多方向に向けてビームが放たれたのだ。
(拡散ビーム砲!)
射線の読めない攻撃に堪らず右肩を前に出してブレードを高速回転させて防ぐ。彼女はもうボールフランカーの新機能を飲み込んでいた。
そこからは一進一退になる。可動砲架が防御も担当するようになるとデュープランは堅くなった。と同時に、ルージベルニもブレードモードのフランカーを守りにも応用して堅くなる。
(決め手に欠けるし)
せっかく自機の新機能を引き出したというのに攻め切れない。ニーチェは歯痒くて仕方がない。
「このわたくしが小娘のアームドスキンなんかに手こずるなんて」
「認めましょう、姉上。ニーチェは強敵です」
「これはハードな戦闘になりそう。でも、必ず墜とす!」
灯りの色が激情に染まる。ニーチェも気合いを入れ直した。
「それはやめてもらおうか」
「パパ!」
ルージベルニの背後に寄り添うように漆黒の大型アームドスキンが現れた。
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