第240話

「フッ!」


「ギャウ!」


 軽く息を吐くと共に引き金を引く。

 それと同時に魔力の弾丸が発射され、エレファンテ・ウマノを撃ち殺した。

 エレファント・ウマノとは、象人間とも呼ばれる魔物で、その巨体から繰り出される攻撃はとんでもない威力をしている。

 特に長い鼻による攻撃を受けたならば、一撃で骨が折れることは間違いない。

 むしろ、骨が折れるだけで済めばマシと言ったところだろう。

 しかも、このダンジョンに現れるのはエレファント・ウマノの上位種であるため、パワーに加えて速度まであるというのだから相手するのも一苦労だ。


「フゥ~……、やっぱり下層へ向かうにつれて脅威度が上がっていくな」


 エレファント・ウマノを倒したケイは、肩の力を抜くように一息吐いて呟いた。

 あっさりと10層を突破したケイたちは、その後も順調にダンジョンの攻略を続けていた。

 20層、30層のボスも難なく攻略し、今は40層のボス部屋へ向けて攻略している最中だ。

 その40層に向かう途中、ケイは35層くらいから段々と魔物の質が変わってきたように感じていた。

 35より前の魔物も確かに強いが、ケイの従魔たちならなら簡単に倒せるレベルの魔物だった。

 しかし、従魔のキュウやクウの攻撃に反応してくる魔物が現れ始めたのだ。

 今ケイが倒したエレファント・ウマノも、キュウたちの攻撃を簡単には喰らわず、倒すのに少しの時間を取られるようになっていた。

 たまたま数匹のエレファント・ウマノに遭遇したため、ケイも手伝って倒したという状況だ。


【一撃で倒せなくなった……】


「ワウッ……」


 ケイはボス部屋以外は戦闘に参加せず、35層を越えるまではキュウとクウが出現する魔物を倒してきた。

 単純にキュウとクウが魔物を倒すのを楽しんでいるのと、主人であるケイの役に立てていると思っていたからだ。

 しかし、段々と魔物が強くなり、簡単に倒せなくなってきた。

 場合によってはケイの手も借りないと時間がかかってしまうようになり、キュウたちは若干落ち込んでいるようだ。


「特に問題なくここまで来れたのは、お前たちの協力があったからだぞ。気を落とすな」

 

【うん!】


「ハッハッハ……!」


 何だか落ち込んでいるようだが、別に気にする事ではない。

 このダンジョンの魔物は、本来強力な魔物だ。

 それを相手にして、ここまで何の問題もなく歩を進めて来れたのは、間違いなくキュウたちのお陰だ。

 そのため、ケイは労いと共に感謝を伝えるために、2匹をいっぱい撫でてあげた。

 ケイに撫でられたことで、2匹はさっきの落ち込んでいた空気は吹き飛び、とても嬉しそうな表情へと変わった。


「それにしても、このダンジョン何層まで下ればいいんだ?」


 もうすぐボスのいるであろう40層に着く。

 ダンジョンの1層1層が巨大なエリアになっており、多くの魔物が下層へ向かうのを阻止してくる。

 それをここまで進んで来たというのに、まだ終わりが見えてこない。

 ゴールが分かっていればもっと気分的には楽なので、ダンジョンがどこまで深くなっているのか知りたいところだ。


「とりあえず先を進もう……」


 ダンジョンの最後なんて大抵いきなり訪れるものだ。

 ここはエルフ王国にある訓練用ダンジョンとは違うのだ。

 終わりが分かるなんて期待は持たない方が良い。

 余計なことは考えず、ケイは先を進むことにした。






「おっ! いた……」


 多少魔物が強くなったとは言っても、ケイと従魔たちなら苦にならない。

 特に問題も起きることなく、ケイたちは40層のボス部屋へと到着した。

 そして、平原の広がる40層内を進むと、1体の魔物を発見する。


「リザードマンか……」


 発見したのは、リザードマンだった。

 このダンジョンだから当然というか、明らかに身に纏う空気が普通のリザードマンとは違う。

 相手もケイのことに気付いているらしく、盾と片手剣を装備して待ち構えている。


「人間のくせにここまで来るとは、なかなかやるな」


 ケイが一定の距離まで近付くと、リザードマンが話しかけて来た。

 ここまでの階層ボスはみんな話すことができていたが、やはりここのボスも同じらしい。

 なんとなく予想していたため、ケイとしては驚かない。


「戦う前に聞きたいことがあるんだが?」


「……何だ?」


 自分は侵入者を殲滅するために生み出された存在だが、初めて遭遇した人間だ、

 殲滅よりも少し話したい気分が勝ち、リザードマンはケイの質問を受け入れることにした。


「このダンジョンは何層まであるんだ?」


「与えられた知識からすると、100層だったはずだ」


「100か……、先は長いな……」


 ダンジョンに生み出された存在なら、もしかしたらこのダンジョンが何層で出来ているのか分かっているかもしれない。

 ふとそう思ったケイは、駄目元で聞いてみることにしたのだ。

 そのケイの質問に対し、ボスのリザードマンはあっさりと答えた。

 どうやら隠しておくほどの知識ではないようだ。

 普通の人間が聞いたら、絶望を感じていることだろう。

 もしかしたら、侵入者の脱出する気力を削ぐために明かしているのかもしれない。


「先のことなど心配する必要はない。お前はここで死ぬのだからな!!」


 たしかに普通の人間なら気持ちが折れていたかもしれない。

 しかし、ケイはそんなこと何とも思わない。

 ちょっと時間かかるなくらいの気持ちだろう、

 そんなケイに対し、リザードマンは離し終えると共に先制攻撃を仕掛けてきた。

 ケイが武器を構えていないことを、隙と捉えたらしい。


「……それはない!」


「っっっ!!」


 急接近と共に片手剣で袈裟斬りにして来たリザードマンの攻撃を、ケイはギリギリで躱す。

 見切ったように無駄な動作なく躱したケイの左手には、もう銃が引き抜かれていた。

 そして、ケイはその銃を、攻撃し終わった状態のリザードマンに向ける。


「ガッ!!」


 ボスのリザードマンが、自分との速度の違いに気付いた瞬間、ケイが銃の引き金を引いた。

 その一撃で、リザードマンは脳天に風穴を開けて、その場に崩れ落ちた。


【さすがご主人!】


「ワウッ!」


「ありがとな」


 40層のボスまでも1撃で倒した主人を、キュウとクウは褒めるようにすり寄る。

 その2匹に対し、ケイは感謝の言葉と共に優しく撫でてあげる。


「本当か分からないが、とりあえず100層目指して頑張るか……」


【うんっ!】「バウッ!」


 ボスを倒したことで、次の階層の扉が開く。

 リザードマンが言っていたことが本当かどうかは分からないが、ケイたちはとりあえずの目標として100層を目指して先を進むことにした。


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