第213話
「他に人もいないし、これはいらないな……」
日向へと向かう船の上で、四魔王の1人であるサンティアゴと遭遇したケイと息子のカルロス。
船の上での戦闘はトラウマのある父が全く役に立たないと判断したカルロスは、近くの島を戦場として利用することを選択した。
念のため周囲を探知をしてみると、人間がいるような気配はない。
どうやらここは無人島のようだ。
その方が都合がいい。
巻き添いを気にせずに全力で戦闘に当たれるからだ。
人族のいる所では、最大の特徴である長耳でエルフとバレてしまう。
そのため、ケイたちは特殊なカバーを耳に付けていたのだが、付けているだけで結構窮屈だ。
サンティアゴ相手に余計な気を取られたくないので、他に人がいないと判断したケイとカルロスは、耳に付けていた耳のカバーを外して魔法の指輪に収納した。
「ムッ! なんだ、お前らエルフだったのか? そっちはハーフか……」
ケイたちの長耳を見たサンティアゴは、2人がエルフだと気が付いたようだ。
しかも、カルロスの耳の長さがケイ程ではないことに気付き、すぐにハーフだと分かったらしい。
「ソフロニオの奴はエルフが気になっていたようだが、もしかしてこっちに来た方が正解だったのかもな」
「っ!? まさか他にも魔王が出現しているということか!?」
ケイたちがエルフだと気付いたサンティアゴは、顎に手を当てて独り言を呟く。
その呟きが聞こえたケイは、嫌な考えが頭に浮かんだ。
四魔王と呼ばれる存在がどこかに生息しているということは、以前倒した魔族が話していたので分かっていた。
しかし、それといつどこで逢うことになるかまでは分からなかった。
出現したとしても、それぞれの大陸に異変が起きてから行動を起こすしかないと思っていたが、先程のサンティアゴの言葉からするに他の魔王も動き刺しているということになる。
そのため、ケイは確認するようにサンティアゴに問いかけた。
「その通りだ。それぞれ好き勝手の場所を拠点として、餌となる人間の繁殖をおこなおうという話し合いになったのだ。今頃狙いを定めて向かっていると思うぞ」
サンティアゴは、ケイの問いに返答する。
人間が餌などと平気で言うが、聞いただけで不愉快になるような話だ。
しかし、サンティアゴはそれ以外にも気になることを言っている。
そのため、カルロスは確認するようにサンティアゴへと問いかけた。
「人の繁殖……? それがお前たち魔王の狙いか?」
「あぁ、我々魔王にはそれぞれ味の好みが違うからな。それぞれが好みとなる種族を狙うことにしたのだ」
カルロスの問いにサンティアゴは平然と返答した。
人を普通に餌扱いしていることも不愉快だが、それ以上に味の違いがあるという言葉にますます気分が悪くなる。
つまり、ひと通りの人種を食した経験があるということだ。
そのなかにはエルフも混じっているのだろう。
いつ食べたのかなどと言うのは聞きたくないが、ケイとしては他に聞きたいことがある。
「四魔王の中にエルフを狙った奴がいるのか?」
「いるぞ。私は日向を目指して東へ向かって来ていたのだが、ソフロニオという奴はエルフがいると言われている島へ向かうと言っていたな」
サンティアゴの返答が本当なら、レイナルドたちの所にも魔王が出現している可能性がある。
隠すつもりがないのか、サンティアゴは聞いたことをすぐに返してくれる。
自分たちのことを舐めているのかもしれないが、聞きたいことは聞いておこうと、ケイたちはそのままサンティアゴの話の続き聞くことにした。
「アマドルはドワーフの所に行っているはずだし、質より量といってカンデラリオの奴は北へ向かったな」
「ドワーフ王国、エルフ王国、そして日向と人族大陸か……」
つまり、四魔王と呼ばれる魔族の王が、東西南北の地へ姿を現したということになる。
人族以外の国には魔王の存在を知らせてあるし、その時のために対策を練るように言ってある。
ドワーフ王国は魔人大陸と獣人大陸の間にある島だ。
その顔の広さを生かして、両方から援軍を頼むだろう。
魔人ならエナグア王国のラファエルが、獣人ならカンタルボス王国のリカルドをはじめとした各獣人国の猛者たちが駆けつけているはずだ。
ラファエルは自分が指導したし、多少老いたりとは言えリカルドが簡単にやられるはずがない。
なので、彼らがそう簡単にやられることはないだろう。
「北は人族の地だ。まずは放って置こう」
「あぁ」
問題があるとしたら、人族大陸北に向かったというカンデラリオとか言う魔王ぐらいのものだ。
何も知らない人族は、成すすべなく多くの者が殺される可能性がある。
しかし、ケイとカルロスはそれを完全にスルーすることにした。
人族はこの世界において最大の大陸に住む最多の人数が存在している。
純粋なエルフがケイ1人になってしまったのも人族のせいなのだから、多少の犠牲が出ようと気にする事ではないと判断したからだ。
何なら、国の1、2個無くなってしまっても構わないくらいだ。
「人族なんかのことより、島のレイナルドたちが心配だ」
サンティアゴの言うことが確かなら、ソフロニオとか言う魔王がエルフの国に出現している可能性がある。
レイナルドや島の住人たちは、対魔王の時のことを考えてダンジョンを利用した修行を受けている。
それによってかなりの実力を得ているため、大丈夫だとは思うがそれでも心配だ。
「兄さんがいれば大丈夫だと思うけれど、何にしてもいつまでも相手にしているわけにはいかないね?」
「あぁ」
ケイ同様、カルロスも兄のレイナルドを始めとした島の住人のことが気になっている。
そのなかには、自分の妻や子もいるからだ。
島の場所からすると、母のルーツとなる日向はそれほど遠くない所にあるようだが、それよりもエルフの島のことの方が優先だ。
そのため、カルロスはケイとアイコンタクトを取りつつ話しかける。
ケイも短い返答と共に頷きを返した。
「2人がかりで行くぞ!」
「分かった!」
魔王という存在がどれほどの強さをしているか分からないが、自分たち2人なら何とかなるだろう。
もしものことを考えて魔王対策を練ってきたのは、自分たちエルフが一番だ。
その自負のあるケイとカルロスは、2人でサンティアゴと戦うことを決め、それぞれ武器を構えたのだった。
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