第160話

「……………………」「……………………」


“バッ!!”“バッ!!”


 2丁拳銃スタイルのケイと、居合の構えをする綱泉佐志峰の姿をした魔族。

 お互い無言のまま、少しの間睨み合う。

 そして、何が合図になったのか分からないが、同時に地を蹴り、相手との距離を詰める。


「フッ!」


 剣の間合いに入り、佐志峰は小さく息を吐くことに合わせて抜刀する。

 その刀は、ケイの首目掛けて高速で迫った。


“ガキンッ!!”


「チッ!!」


 自分の剣がケイの首を斬り飛ばすと思った佐志峰だが、そうはいかずに手前で止まる。

 迫り来る剣を、ケイが左手に持っている銃で防御したからだ。

 攻撃を防がれ、佐志峰は舌打ちをする。


「っ!!」


“パンッ!!”


 剣を止められた佐志峰は、そのままその場にいることはできない。

 ケイは両手に武器を持っている。

 片手で止たのなら、もう片方は空いている。

 右手の拳銃が佐志峰の眉間へと向けられる。

 それに気付いた佐志峰は、すぐさま首を横に弾丸を回避する。

 そして、ケイからの攻撃が更に飛んで来るのを避けるため、一気に後方へと飛び下がる。


「おかしな武器を使うな……」


 後方へ下がったさ佐志峰は、納刀してまたも居合の体勢へと入る。

 そして、ケイとの衝突で感じたことを小さく呟く。

 弾を飛ばすだけとは言っても、その威力はかなり強力だ。

 武器の形状から、至近距離なら自分に利があると思っていた。

 しかし、至近距離でもキッチリ反撃してくるところをみると、それもたいした利にならないようだ。


「特注品でね。それよりもいいのか?」


 ケイの武器が面倒そうな代物だと思われたのなら、それは別に構わない。

 それよりも、距離を取ってもらった方が戦いやすい。


「何がだ?」


 佐志峰はケイの言葉に首を傾げる。

 何が言いたいか分からなかったためだ。


「この武器相手に距離を開けることがだ!!」


“パンッ!! パンッ!!”


「っ!?」


 距離があった方が、ケイにとっては戦いやすい。

 機動力を削ぐためなのか、佐志峰の足へ向かって飛んで来る

 両手の拳銃を刺身尾根へ向けて、連射攻撃を開始した。

 慌てて佐志峰はその攻撃を避けるが、ケイとの距離はドンドンと離れて行く。


「くっ! チッ! 言い直そう。厄介な武器だ……」


 居合の攻撃ができる距離になかなか近付けず、佐志峰はイラ立つようにケイの攻撃を躱していく。

 このままでは避けることを続けるしかできず、体力を消耗することしかできない。


「だろ?」


 自分の間合いに敵を釘付けさせることは、ケイにとっては普通のこと。

 その場にとどまれば攻撃をして、動き回るようなら、攻撃せずに銃口を向けるだけで佐志峰は近付くのを躊躇う。

 ケイからしたら、とても戦いやすい相手だ。






“キンッ!!”


「っ!?」


 ケイの攻撃に悪戦苦闘していた佐志峰だったが、その状況も次第に変化が起きていた。

 佐志峰が、次第にケイとの距離を縮めて来たのだ。

 そして、とうとう佐志峰の刀が届きそうな距離まで近付いてきた。

 近付きさえできれば、刀による攻撃ができる。

 銃での攻撃が通用しないとでも言うように、佐志峰は居合による攻撃を繰り出す。

 ケイはそれを難なく後方へと飛ぶことで躱す。


「いつまでも通じると思うなよ! 速いとはいえ直線的な攻撃だ。ならば避けるなり弾けば済む話だ!」


 下がったことで、またもケイとの距離がケイとの離れてしまう。

 しかし、佐志峰は大したことではないように呟く。

 それもそのはず、ケイの武器から放たれる攻撃はたしかに速く、なかなか近付けなかった。

 しかし、その特性に気付けば、対処法を導き出すのは簡単なことだ。

 銃口の直線状にいないようにするのと、たとえ攻撃されようとも、弾き、躱すことで距離を縮めていけば良いだけのこと。

 それができるようになった今では、もうケイの武器への苦手は克服できた。


「少しは楽しませてもらった。が、もう死んでもらおう」


 後は攻撃を当てるだけで勝利を得られる。

 他にも周囲を囲む兵たちの相手をしなければならないため、佐志峰はケイを殺すことにした。

 そして、またも居合の体勢に入り、ケイが動くのを待った。


「……随分剣技を磨いているんだな?」


「……何だ? 何かの時間稼ぎか?」


 ケイが攻撃をしてくれば、今度は間合いに入って斬り殺すだけ。

 そんな佐志峰に、ケイは突如関係ないような話を投げかける。

 あまりにも突拍子もない話に、佐志峰も何かあるのかと勘繰る。


「違う。単純な疑問だ」


 言葉の通り、ケイはただ単純に佐志峰の剣技の高さが気になっていた。

 隠れて訓練していたにしては、ケイが見た日向の剣士たちと比べてもトップレベルの鋭さだ。

 佐志峰に成り代わるまでに、相当な訓練をしてきたのだということが窺え知れる。


「長いこと生きてきたのでな……」


 今の姿は人間でも、元々は魔物。

 いつ生まれたのなんて、覚えていないほど大昔だ。


「そこまでなるには、長生きしてるって理由だけでなく、日向の人間に師事したのだろう?」


「左様。まぁ、その時はこの顔ではなかったがな……」


 佐志峰の剣を見ていると、とてもしっかりとした型ができている。

 とても我流で訓練したようには思えない。

 そうなると、もしかしたら誰かに教わったのだろうと思ったが、返事を聞く限り思った通りだった。


「だからか……」


「何がだ?」


 この質問の答えを聞いて、ケイが佐志峰へ持っていた疑問はほぼ解消された。

 佐志峰は、ケイが思っていた最悪の存在ではなかった。

 そのためか、安心したケイは笑みを浮かべた。


「何が分かったというのだ?」


 幾度かの攻防によって、ある程度この魔族のことが分かってきた。

 その発言に対し、佐志峰のは反応する。


「お前はアジ・ダハーカなんかじゃないってことがだ」 


「…………最初からそんなものだと言った覚えはないが?」


 最佐志峰が言うように、アジ・ダハーカかもしれないということは、ケイが勝手に思ったことだ。

 しかし、ケイからすると、それはかなり重要なことだった。

 アジ・ダハーカは、千の魔法を使うという話もある。

 それだけ魔力が豊富だということになる。

 エルフであるケイも魔力には自信があるが、魔力頼みな所がある。

 なので、自分よりも魔力を持っている敵と戦うのは、かなり危険なので出来れば避けたい。

 ましてや、アジ・ダハーカは魔法だけでなく毒などの攻撃も危険な相手。

 戦って勝てる保証がどこにもない。

 目の前の佐志峰がアジ・ダハーカであったならば、いくら人間の姿の状態であろうともその片鱗が見えるはずだ。

 しかし、戦っていて確信を得た。

 

「お前何で魔法を使わないんだ?」


「………………」


 ケイと戦っている時、佐志峰は一度として魔法を放ってこなかった。

 魔闘術は使っており、攻撃はかなり鋭い。

 しかし、ケイの銃撃に対して、佐志峰は一度として魔法を使用せずに向かってきた。

 魔法を使えば、ケイへ接近することは難しくないはずだ。 

 ケイの問いに、佐志峰は黙り込む。


「いや…………使えないんだろ?」


「………………」


 そもそも、遠距離での戦闘になったなら、魔法で攻撃をすれば良い。

 なのに、一度も放たないのは、使いたくても使えないからだろう。

 そう確信したケイに、佐志峰はまだ無言のままでいる。


「……それが分かった所で、何だというのだ? 貴様が今劣勢に立たされていることには変わりはないだろ?」


 否定しない佐志峰のセリフで、完全にケイの考えが正解だったということになる。

 佐志峰の方からすれば、もうケイは脅威ではない。

 それを知られたところで、勝利は揺るがない。


「劣勢? 全然そんなことないが?」


「フンッ! 虚勢を張るとは……」


 ケイの銃による攻撃は、威力も速度も完全に把握した。

 勝ち目がないのにもかかわらず軽口を利くケイに、武人としての潔さを感じず、佐志峰は不愉快そうに鼻を鳴らした。


「ハッ!!」


“ボッ!!”


「っ!?」


 ケイが気合いの籠った声を出すと、これまで纏っていた魔力の量が一気に増えた。

 それを見て、佐志峰は目を見開く。

 魔闘術は纏う魔力の量によって、使用者の強化度合が変わる。

 ただ量を増やせば良いだけではなく、コントロールできなくては強化されず魔力の無駄にる。

 しかし、魔力を増やしたケイの魔闘術は、きちんとコントロールされている。

 攻撃も防御も桁が一つ上がったことだろう。


「なっ?」


 さっきの勝つ気満々だった佐志峰とは反対に、今度はケイが自信ありげに笑みを浮かべた。


「くっ!!」


 ケイの魔闘術を見た佐志峰は、その魔力量に冷や汗を流す。

 さっきの自分の勝利を確信していたような言葉が、井の中の蛙だったように思えて恥ずかしくもなって来る。


「シッ!!」


 色々な感情が湧いた佐志峰は、冷静さを失い、思わず剣を抜いて攻撃を計った。

 これまでの中でも最速の攻撃ではあった。


「っ!?」


 ただ、佐志峰の剣がケイに当たらない。

 何故なら、その場にいたはずのケイが、いつの間にか消え去っていたからだ。


「当たんねえよ!!」


「っ!?」


 攻撃したままの体勢でいる佐志峰の耳に、背後から声が聞こえて来た。


「がっ!?」


 背後からの声に反応して振り返ると、ケイの蹴りがもう目前に迫っていた。

 その蹴りは、佐志峰の顔面に直撃し、かなりの距離吹き飛ばした。


「くっ!!」


 ケイに飛ばされた佐志峰は、空中で体勢を立て直し、何とか着地に成功する。

 しかし、強烈な一撃に口の中が鉄の味でいっぱいになる。


「この野郎!!」


“ペッ!!”


 ザックリと切れた口の中と、蹴られたことによる顔面の痛みに、佐志峰は怒りが沸き上がった。

 蹴りを入れられたのには腹が立つが、佐志峰はケイの失敗に気付く。

 口が切れて血を出してしまったことだ。

 佐志峰は口の中の血を、ケイに向かって吐き出した。


「シャーー!!」


 その血液は変化をし、蛇へと変貌を遂げた。

 アナコンダ程の大きさの蛇は、すぐさまケイへ向けて威嚇の声をあげる。


「血液に魔力を加えるだけで魔物が生み出せるなんて、魔族ってのは便利だな……」


 その蛇を見ても、ケイは全然慌てない。

 それよりも、血液から魔物を生み出せるということに感心し、面白そうに蛇を眺めた。

 完全に実態があり、普通の魔物に見える。

 これが血液から生み出せるなんて、不思議だが興味がそそられる。

 ケイの家族が住むアンヘル島で似たようなことができれば、何もしないでも狩りができるし、小さい子供の護衛代わりにできる。

 結構役に立つ能力に思える。


“パンッ!!”


「まぁ、それほど必要ないか?」


 魔物は大人が狩れば良いし、子供も大人がみんなで育てればいい。

 何もわざわざ魔物を作り出す必要性はない。

 蛇の観察を終えたケイは、もう用がなくなったので蛇へ弾丸を打ち込む。

 たった一発で蛇の頭は吹き飛び、そのまま動かなくなった。 


「馬鹿なっ!?」


「驚いている暇があるのか?」


「っ!?」


 血液から作り上げる蛇は、かなりの強度をしている。 

 それが一撃で殺されてしまうなどとは思わず、佐志峰は驚きの表情へと変わる。

 それが隙となり、ケイの接近を許してしまう。


「うがっ!!」


 至近距離で自分に向けられた銃口から体をずらす佐志峰。

 だが、ケイはそれを読んでいた。

 避けた方向へ向けて膝蹴りを放ち、佐志峰の鼻を蹴りつぶした。


「おのれ!!」


 鼻の骨が折れ、噴き出した血と痛みに怒りで表情を歪ませた佐志峰は、急に肉体を変貌させていった。


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