第40話

「うっ、うぅ……!?」


 西の海岸に流れ着いた獣人たちの内、助かった1人の男性が目を覚ました。


「あっ!? ねぇ、ケイ!」


「ん?」


 そのことに気付いた美花が、土魔法で簡易の竈を作って調理をしていたケイに呼びかける。

 彼らがいつ流れ着いたのか分からないので、空腹だった時のことを考えて軽食を用意していた。


「あぁ、起きたか?」


 もう大体完成していた調理を終え、ケイは目を覚ました男性のところへ近付いていった。


「やぁ、目醒めたかい?」


「あぁ……」


 目を覚ましたのは、ケイより少し年上くらいの男性。

 頭に耳が付いた茶髪茶目のガッシリした体格の持ち主だ。

 獣人には獣人で色々な種族がいて、その種族によって身体能力に差があるらしい。

 ただ、共通しているのは、総じて身体能力が高く、魔力が少ない。

 彼らがどんな種族なのかは分からないが、見た感じ強そうだ。


「……まずは、助けていただきありがとうございました」


「どういたしまして。ん? 気が付いていたのか?」


 若く、体力があるからだろうか。

 ケイたちが救出する時、一番先に回復させた相手だ。

 全員意識がないように思えたが、彼は気が付いていたのだろうか。


「意識がなくなるギリギリ前に少しだけ声が聞こえました」


「なるほど……」


 どうやらキュウに指示を出した時の声が辛うじて聞こえていたらしい。




「悪いな。全員は救えなかったが……」


「親父……」


 少しだけ話をした後、ケイは彼(ルイス)を並べた亡骸たちの所に連れて行った。

 すると、ルイスは一番損傷の激しい男性の亡骸の所に近付いていき、涙を流し始めた。


「……親父さんか?」


「えぇ……、漂流していたら天気が悪くなってきて、波が荒れ、そこに鮫のような魔物に船が襲われて……」


 2日前この島も天候が悪かったが、その時に船が魔物に壊され、皆海に落とされたらしい。


「親父とそっちの小父さんが相手したんですけど、親父が噛みつかれて、その隙に小父さんが攻撃したんだけどすぐには死ななかったらみたいで、暴れた鮫が体当たりしてきて船が転覆しました」


 ルイスの父親の隣に寝かされている男性を指さし、ルイスは転覆した時のことを詳しく説明してくれた。


「そもそも何でこんな人数で海に出たんだ?」


「魔物のスタンピードです。村に大挙で押し寄せてきました」


 魔物のスタンピード。

 何のきっかけか、魔物が大量繁殖して人間に多大な被害が及ぶことだ。


「うちは小さい村で、対抗のしようもなくみんな散り散りに逃げました。俺たちは皆海の近くに住む近所の住人で、逃げる場所が海しかなかった。それで皆と話し合って、近くにあった船に少しの食料と乗れるだけの人間を乗せて、村から離れようって海に出ました」


「なるほど……」


 たしかに規模にもよるが、小さい村ではスタンピードに対処できないのも仕方がないだろう。


「何で漂流したの?」


「…………慌てて海に出たため、船と海の扱いに長けた者がいませんでした」


 この島から獣人が住む大陸は見えない。

 なので、相当な距離があると思う。

 最初漂流したと言っていたが、魔物から逃げるにしても陸から離れすぎていないだろうか。

 そう思って聞いたら、なんと言葉を返していいか分からない答えが返ってきた。

 ケイの言いたいことが分かっているのか、ルイスも言いにくそうな表情をしている。


「お母さん!! お父さん!!」


 どうやらもう1人目を覚ましたようだ。

 少女の獣人がケイとルイスの方に向かって来た。

 小さい子供で助かったのはこの子だけだった。

 背丈などから考えると、ケイの息子のレイナルドより少し年下くらいの金髪茶目の子だ。

 向かって来た少女は、そのまま両親と思しき2人の亡骸に縋り寄り、大きな声で泣き叫んだ。


「セレナ……」


「……ルイス兄ちゃん! お母さんが……! お父さんが……!」


 後で聞いた話だが、ルイスは近所の子の面倒をよく見ているせいか、近所のお兄さん的立場らしい。

 ルイスが優しく少女の頭を撫でてあげると、少女はルイスの胸に抱き着き更に泣き続けた。 

 助かった人間はルイスとセレナ以外に、他にも20代前半の女性、成人(15歳)したてくらいの男女だ。

 彼らも少しして目を覚ますと、親や兄弟の亡骸の前で涙を流した。


 ケイと美花は、とりあえず獣人たちの気持ちが落ち着くまで待つことにした。

 そして、皆落ち着いた頃を見計らって、ルイスに声をかけた。


「みんなお腹は空いていないか? 軽めに卵粥を作ったんだが……」


「ありがとうございます。皆! 悲しいだろうが、体が弱ったままではいけない。甘えさせて頂こう」


「「「「…………」」」」


 ルイスに誘われたみんなは僅かに頷き、ゆっくりとケイが作った料理の方へ向かって行った。


「ルイス……」


「何でしょうか?」


 皆、美花が配った卵粥を食べ始めるが、無言だ。

 時おり思い出したかのように涙を流している。

 気持ちは分からないではないので、ケイは話ができそうなルイスに話しかけた。


「食事が終わって少し休んだらここを離れたいんだ」


 ケイたち家族しか住んでいないこと、ここは危険な魔物(猪)が来る可能性があること、安全な所は東の端になることを、ケイはルイスに説明を始めた。


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