第15話
以前、岩場に水死体が流れ着いた。
申し訳なく思いつつも、その死体から手に入れたナイフを少し使い、大工道具のノミを作った。
そのとき残った金属部分を使い、ケイは新しく武器を作ることにした。
とりあえず西の陸地に行くための問題が解決したが、行ったらきっと魔物との戦闘が起きると思う。
ケイの今の魔法の実力では、少々不安な点がある。
というのも、強い攻撃魔法を撃つとき、まだ少しタメが必要になる。
探知術も結構な距離使えるようになり、遠距離から魔法で攻撃をできるようになった。
なので、タメにすこし時間がかかろうとも大丈夫だとは思う。
しかし、一撃目を躱すような俊敏な魔物と対峙したとき、この小島まで逃走できるだけの時間を稼ぐことができないかもしれない。
一撃で仕留める威力がなくてもいいので、速さを重視した敵を足止めできる武器が欲しい。
最初、異世界なら剣を考えたが、この体で肉弾戦は極めて危険。
そして思いついたのが、中距離・近距離でも攻撃できる銃だった。
「ただ、構造が分かんないな……」
錬金術で銃を作ろうと思っていたのだが、一つ問題があり、銃の構造が全くわからない。
残り一つしかない貴重な魔石、構造までしっかり分かっていないで錬金術を行い、形だけで実用できない物ができたとしたら目も当てられない。
橋を作る時に気付いたのだが、組み立てるための溝を作る時、気まぐれにノミを魔力で纏って手製の木槌で打ったら、子供の力で打ったとは思えないほど軽く木を削れた。
その時の感覚から、魔力を纏った物は強化されるのではないかと考えた。
そうなってくると、わざわざ実際の銃でなくても、弾が発射されればいいだけではないかと思い至った。
魔力を纏った銃なら、本来は威力が弱くても強力な弾が発射できるはずだ。
それを考えると、ケイには弾を飛ばす銃で構造を理解しているものがある。
100円ショップでも売っているような銀玉鉄砲だ。
安いから大した威力もなく怪我をする心配がなかったため、数人のチームを作ってサバイバルゲームっぽいものを、小さい頃に友達とした思い出がある。
密かに威力を上げようと、分解して改造したりしたので、構造は理解している。
普通の銀玉鉄砲で魔物と戦うなんてただの馬鹿だが、魔法のあるこの世界ではこれが十分武器として使えるはずだ。
「よし! 試し撃ちだ!」
昨日の夜、寝る前に錬金術で作り魔力を纏わせずに撃ってみてが、ちゃんと弾がとんだ。
弾はケイがナイフでチマチマ削って作ったただの木の球。
結構時間がかかる細かい作業なので、10発分しか作れていない。
久しぶりにこの鉄砲を撃ったが、思ったよりも速く飛ぶことに驚いた。
「………………」
“パシュ!”
魔力を纏い、狙いをつけ、樹の的へ向けて引き金を引く。
“ガッ!!”
飛び出した弾は高速で飛んで行き、樹の的に穴を穿った。
「おぉっ! 思ってたより威力あるな……」
的にした樹は結構太いのだが、弾が当たった場所には半ばまで穴が開いていた。
これほどの威力があれば、敵もうかつに近付くことはできないだろう。
「これで西への行き来ができる」
探知術で拠点にしている小島を探索したが、魔物が全然見つからない。
魚介類や海藻で食べ物は何とかなっているが、結構飽きてきた。
昆布が手に入り、出汁がとれるようになってそれも幾分解消されたが、昆布はそれほど取れていない。
もっと沿岸に生えているのか、時期が早いのだろうか。
気候も少しずつ暖かくなってきて、もうすぐ植物も芽吹き始めるだろう。
野草が採取できるようになればもう少し余裕ができるだろうが、今いる島は小さい。
西の陸地はまだどれほどの大きさなのか、人が住んでいるのかが分かっていない。
「もしかして、ここって獣人大陸なのか?」
人族の住んでいる大陸の西には、魔人大陸と獣人大陸が存在している。
その名の通り魔人が住んでいる大陸と、獣人が住んでいる大陸だ。
魔人大陸と獣人大陸は北と南に分かれていて、人族大陸の南西の海岸から西の海へ出たアンヘルが、もしかしたらそのまま獣人大陸に流れ着いたとも考えられる。
だが、日数的に考えると、獣人大陸にたどり着くのにはいくら何でも短すぎる。
人族大陸と獣人大陸の間に島があるとは聞いたことがないが、もしかしたら自分が知らなかっただけで存在していたのかもしれない。
「となると、ここは無人島か?」
アンヘルが持っていた地図は大分古いようで、まだエルフ族が平和な時に手に入れた物らしい。
載っていなくても仕方がないかもしれない。
「ここが無人島なら、何かテンション上がるな……」
テレビでよく見た無人島生活、それが頭をよぎった。
あの時見ていたケイは、自分もやってみたいと何度も思ったものだ。
「……でも、数日ならともかく、ずっと一人でって……」
テレビでやっていた芸人は
それに比べて、自分はずっとというのはちょっと気が遠くなる。
しかもエルフは長命。
何百年生きられるか分からないが、ずっと一人で生きていくのは寂しい。
そう考えるとケイは思わず口に出していた。
“スリスリ!”
「……そうか。お前も一緒だから一人じゃないか?」
ちょっと落ち込むケイが気になったのか、ポケットの中のキュウがすり付いて励ました。
それが分かったケイは、キュウをポケットから出し頭を撫でてあげた。
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