第433話 大寒波襲来(14)

 ナイルさんとメディーナさんにお風呂を勧めたあと、俺は一人、居間でパソコンを起動する。

機械音と共に、パソコンのOSが立ち上がる。

すると雪音さんが、お盆を手に居間に入ってくると、ちゃぶ台の上にお盆を置くと、「五郎さん、何をしているのですか?」と、興味深々と言った様子で話しかけてきた。


「今度、ルイズ辺境伯領の主都ブランデンに商店街を作ろうと思っているのですが、それのための勉強ですね」

「勉強ですか?」

「はい」


 近づいてくる雪音さんは、俺の横に腰を下ろすとデスクトップのモニターをのぞき込んでくる。


「ギャルリ・ヴェロ=ドダですか。ここって、とっても綺麗な調和の取れたアーケード街ですよね……」


 そう雪音さんが、俺がモニター画面上に映し出したフランスのパリ観光スポットの一つである場所を見て呟く。


「雪音さんは行った事があるんですか?」

「はい。大学生の時に一度だけ行きました。五郎さんも、海外で仕事していらっしゃたんですよね? 行ったことはないのですか?」

「――いえいえ、自分は、体調管理やコースの確認とか、通訳とか会社関係の付き合いとかパーティで殆ど時間が無かったですから」

「そうなのですか?」

「はい」

「それにしても、商店街ですか……。たしかに異世界でデパートなんて作ったら利権問題で大変な事になりそうですものね」

「はい。うまく既存の商人とやっていけないかと思っています」

「利益調整で大変な事になりそうですね」

「その辺は、藤和さんに任せようと思っていますので」

「藤和さんには、あくまでも商品の搬入、最終的な判断は五郎さんがした方がいいと思います。何かあれば責任を持つのは五郎さんになりますから」

「それを言われると、そうですよね……」


 雪音さんの言葉に俺は苦笑いする。

 

「そういえば、桜は、もう寝ているんですか?」

「はい。五郎さんが帰宅するのを待っていましたけど睡魔には勝てなくて、寝ていました」


 その雪音さんの言葉に思わず笑みが浮かんでしまう。

 

「どうかしましたか?」

「――いえ。こうして雪音さんと二人で桜の話をするのは久しぶりだと思いまして」


 俺は雪音さんが差し出した湯飲みを手にして、注いでくれたお茶を飲みつつ答えた。


「そういえば、ここ最近は、ずっと忙しかったですものね」


 俺の受け答えに雪音さんも答えてくる。


「そうですね。そういえば、雪音さ――」


 そこまで言いかけたところで、居間にフーちゃんが入ってくるとコタツの中へと潜り込んでいく。


「どうかしましたか? 五郎さん」

「いま、フーちゃんはコタツの中に……」


 話の腰を折られた俺は溜息交じりに応じる。


「さっき桜ちゃんと一緒にお布団に入っていたのに、もしかして五郎さんが気になってきたとか?」

「それはないですね」


 いままでフーちゃんが俺にデレた事は一度たりともない。


「たぶん雪音さんの近くに居ればご飯でももらえると思ってきたんですよ」

「そうですかね?」

「間違いないです」

「ふふっ、それよりも私も異世界にもう一度行ってみたいです」

「異世界にですか? 雪音さんから異世界に行くって随分と積極的ですね」

「はい。結婚するとなったら両家との結婚ともなりますから、お爺ちゃんやお婆ちゃんと一緒に辺境伯様に挨拶しなくてはいけませんから」

「あ、そうですね」


 そういえば、俺からの挨拶だけを考えていたが、雪音さんからうちの家の方への挨拶もあって然るべきだった。

 まぁ、地球側の月山家の方に関しては、俺と桜以外の肉親はいないし、妹の安否も分かっていない状況だから挨拶するとしたら異世界側の方しかないからな。


「分かりました。辺境伯には自分から話しを通しておきます」

「はい。お願いします。それにしても、辺境伯へは何を手土産にしていいのか考えてしまいますね。下手に、文明の利器を渡してしまうとアレですから、珍しい消耗品何かを渡した方がいいですよね?」

「そうですね……」


 正直、異世界人の知識は侮れないし、学習能力に関しても注意した方がいい。

 そうなると……。


「食べ物がいいかも知れないですね」

「やっぱり、五郎さんも、そう思いますか?」

「はい。この際、羊羹とかも良いかもしれないですね」

「そうですね」

「わんっ!」

「――ど、どうした? フーちゃん」

「何かあったの? フーちゃん」


 両家の結婚前の挨拶について雪音さんとい話をしていたところで、それを中断させるかのように、フーちゃんが吠えてきたように感じたが、きっとの気のせいだろう。


「わんっわんっ!」


 俺の問いかけにこたえるつもりは無いのか、フーちゃんは、数回吠えるとコタツの中へと潜っていく。


「何と言うか、あれですね」

「フーちゃんは、かまってもらいたいのかも知れないですね」


 横に座っていた雪音さんは立ち上がるとコタツの布団を持ち上げる。

 するとコタツの中心で臥せって寝ているフーちゃんの姿が。

 雪音さんは、フーちゃんを抱きかかえるとコタツの中に入る。


「何か疲れて寝ているみたいです」

「そうですか?」


 子犬だと、電池が切れたように寝るから、たぶんそういうことだろう。

 それにしても、雪音さんとせっかく話していたのに、フーちゃんの邪魔で……。

 まぁ、フーちゃんは犬だから邪魔をしようとしたわけではないと思うが……。


 


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