第416話 荷下ろし
つまり、個人で動いて物事を解決する貴族は異世界では殆どいないということか?
そういえば……、思い返してみればノーマン辺境伯も基本的に取引の際には人を使っていたな……。
これからは、その辺も考えて行動しないと駄目か。
「なるほど。まぁ、日本では、それが普通なので――」
「そうなのですか?」
「まあ」
国会議員、知事や市長レベルになれば秘書が付くから、まったく事情は変わってくると思う。
ただし、俺には、そっち方面のパイプは一切ないので詳しい所は知らないが。
その後は、他愛もない会話をしていると1時間も掛からずに月山雑貨店に到着することが出来た。
俺は雪音さんとアリアさんを店舗の駐車場に降ろす。
必要な日用雑貨はホームセンターで購入することは出来たが食料品の購入はまだなので、荷物を迎賓館に届けている間に買い物をしてもらっておこうという腹積もりで。
「それでは、雪音さん」
「はい。任せてください!」
「では、アリアさんも30分ほどで戻ってきますので買い物を済ませておいてください」
「分かりました。荷物は、入口に置いておいて頂ければ構いませんので」
「了解です。――では、行って来ます」
メディーナさんと共に迎賓館に向かう。
そして到着したあとは、メディーナさんが車の後部座席に載せてあった買い物した荷物を手に取ると迎賓館の入り口に積んでいく。
荷物を入口へ運ぶ作業は、身体強化が出来るメディーナさんが一緒に居てくれたおかげですぐに終わる。
「ゴロウ様、終わりました」
そう報告しながら、助手席に乗ってくるメディーナさんは自然とシートベルトを締める。
「どうかしましたか?」
「――いえ。ずいぶんとメディーナさんも日本に馴染んだと思いまして……」
「ゴロウ様のご命令ですから……。それに何かあった時に、シートベルトをつけないと危険だというのは、この乗り物に乗っていれば体に感じる振動からも理解できますので」
「そうですか。やはり馬も、そんな感じなんですか?」
「馬は、無理そうなら危険な道は走りませんから」
「なるほど」
俺は頷く。
同じ移動用として用いられていたとしても決定的な差がある。
それを、メディーナさんは肌身で感じたのだろう。
無機物である車と、有機物であり心を持った馬との徹底的な違いを。
「おかしかったですか?」
俺は頭を左右に振る。
「――いえ。全然、おかしくないです。むしろシートベルトをつける重要性を知ってくれていて良かったです」
そう、俺は言葉を返す。
プロのドライバーになるほど、シートベルトの重要性は肌身感じることになる。
だからこそ、プロやタクシードライバーやトラック、バスなどのプロドライバーは、必ずシートベルトを締めるようになる。
それは自身が運転をしていく上で、自然と理解するから。
その領域に、メディーナさんは既に踏み込んでいる。
「どうかされましたか?」
俺は頭を振る。
「何でも――。それでは、店に向かうとしましょう。雪音さんたちが待っていると思いますから」
「そうですね」
車のエンジンをかける。
すると一瞬だけ視線を感じる。
視線を感じた方へと、目を向ければ、そこはルイーズ王女殿下の部屋のベランダだった。
「あれは……」
「エメラス様ですね。どうやら、ゴロウ様が戻って来られた事に気が付かれたようです」
「なるほど」
俺は相槌を打ちながら軽く頭を下げたあと、車を走らせた。
――20分後。
月山雑貨店に到着した俺達を、すでに雪音さんとアリアさんは待っていた。
「お待たせしました」
「いえ。そんなに待っていませんから。先ほど、清算が済んだところです」
「そうですか。結構、購入されたんですね」
「寒波が来るそうなので、アリアさんに伝えて必要な食材の量について説明して用意しました」
「量的には2週間分ほどはありそうですね」
「そういうつもりで用意しましたから」
「そうですね。実際に寒波で雪が積もって身動きが出来なくなったら山の上まで運ぶのが大変になりますからね」
「はい!」
雪音さんと会話しながら、ワゴンRの後ろドアを明ける。
するとアリアさんとメディーナさんが協力して荷物を積んでいく。
そして雪音さんと会話が終わったところで――、
「ゴロウ様。搬入は終わりました」
荷物の持ち運びが終わったメディーナさんが報告をしてくる。
「分かりました。それでは、アリアさんとメディーナさんは車に乗り込んでください」
「はっ!」
「はい」
二人が車に乗り込んだのを確認したあと――、
「それでは、雪音さん。自分も行ってきます」
「はい。いってらっしゃいませ」
雪音さんに見送られる形で、また迎賓館までの道のりを車で走る。
そして迎賓館に到着したあとは荷物を車から降ろす。
迎賓館の入り口までは、メディーナさんとアリアさんが運んでいく。
しばらくすると――、
「ゴロウ様」
最後の荷物をメディーナさんが迎賓館の入り口まで運んでいると、丁度二人きりになったのか――、二人きりになるタイミングを見計らっていたのかアリアさんが話しかけてきた。
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