第414話 俺は車の中で寝かせてもらうぞ

「どうかしましたか?」

「ゴロウ様に、直接、お伝えすることなく奥方様へ話したことを申し訳なく思います」

「ああ。そのことですか」


 俺としては、女性同士、男には話せない内容もある事だと重々承知しているが、もしかしたら異世界では異なるのか? と、アリアさんの口ぶりから察してしまう。

 だからこそ――、


「気にしなくていいです。男には話せない内容とかもあると思いますから」

「ありがとうございます。女官長が居れば、話を通すのですが、私しか此方の世界には居りませんし、直接的に取り引きをしている専門の業者も居ませんから……」

「ああ。なるほど……」


 そうなると、藤和さんとかもアウトだな。

 何せ、男だし。


「まぁ、困ったことがあったらすぐに言ってください。ルイーズ王女殿下と、そのお付きの方々は、自分が生活基盤を保証する義務がありますから」

「はい」


 コクリと頷くアリアさん。

 しばらく車の中で待っているとコートを羽織った雪音さんが店の裏手側から姿を見せる。


「五郎さん、お待たせしました」

「いえ。それよりも留守にすることは――」

「はい、ナイルさんと根室さんに伝えておきました。あとは、桜ちゃんと和美ちゃんにも留守をお願いしておきました」

「了解です。――では、行くとしますか。とりあえずホームセンターで良いんですよね? 以前に暖房器具を購入したホームセンターでいいですか?」

「はい!」




 車を走らせること2時間近く。

 峠道を走り、県道から国道へと切り替え市街地へと入る。

そして大舘駅の近くのホームセンターに到着した。


「雪音さん。メディーナさんと共に買い物に行ってきてもらえますか? 自分は、ここで待っていますので」


 俺は財布を取り出し雪音さんに渡しながらお願いする。

 女性同士の買い物なら俺が一緒に行かない方がいいだろうという配慮。


「はい! それでは、メディーナさん、アリアさん、行きましょう」

「畏まりました。ただ、私はゴロウ様の護衛がありますので、ゴロウ様と此処で待っております」

「別に行ってきてもいいですよ? メディーナさん」

「――ですが……」


 俺は市街地に入ってから、気が付いていた。

目を輝かせながら色々なモノを見ていたメディーナさんの姿に。

そして思い至る。

彼女も、ナイルさんも田舎である結城村を知っているが本当の意味での日本の都会を見た事がないことに。

だからこそ、多種多様な商品についても気にはなるかも知れない。


「日本は、治安面から安全ですから」

「……」

「ナイルさんには内緒にしておきますから」

「……分かりました。主様が、そこまで言われるのでしたら! 奥方様の護衛に付いていきます!」

「お願いします」


 まったく兵士というのも面倒な職業だよな。

 何故か固まったまま動かないアリアさんをメディーナさんが連れて車の外へと出た。


「寒っ!」


 車の外に出たアリアさんが感想を述べていた。

 どうやら車の外に出たことに遅ればせながら気が付いたらしい。 


「……すっ、すごいですね! 異世界という場所は!」


 意識を取り戻したアリアさんの第一声が、それだった。

 

「ここもゴロウ様の領地なのですか?」

「いえ。ここは違う領主ですね」


 まぁ正確には領主ではなく大館市市長とかならいるんだが、それは領主でも貴族でもない市長選選挙で選ばれた人だ。

 ただ、それを言ったところで貴族制度が存在していて、それが当たり前だと思っている人に言っても意味はないし、言う必要もない。

 

 ――と、いうか民主主義に関して説明なんてしたら後々、面倒事になるのは目に見えているので、俺は曖昧に答えた。


「そうなのですか! それよりも、あそこは店ですか?」

「まぁ、そうですね」


 俺が、アリアさんからの問いかけに相槌を打ったところで、メディーナさんがポツリと、「あれだけ大きな店があるなんて――」と呟く。

 大きな声ではなかったが、俺の耳は確実に彼女の呟きを拾っていたが、余計な事は言わないことにする。


「それでは、雪音さん」

「はい」

「お願いします」

「任されました」

「あの、ゴロウ様。他領地で、私がゴロウ様と離れるのは、やはり危険だと思うのですが……」

「大丈夫ですよ。それよりも、こんなところで時間を潰している方が、もったいないので雪音さんと買い物に行ってきてください」

「――ッ!? ――わ、分かりました」


 素直に頷いたメディーナさんは、雪音さんの護衛ということでホームセンターの方へと歩いていく。

 俺は離れていく3人の後ろ姿を見たあと、車のシートを倒し目を瞑った。


 ――コンコン


「――ん?」


 ノックされた音と共に、俺は目を覚ます。

 どうやらいつの間にか寝ていたらしい。


 ――コンコン


「あ、はい。少し待っていてくださいねっと――」


 一人呟きながら車のエンジンをかけてからパワーウィンドウを下げる。


「五郎さん、お待たせしました」

「いえ。それよりも買い物は出来ましたか?」

「はい!」


 雪音さんの後ろには、大きなショッピングカートが2台見えて、そのショッピングカートには商品が山積みにされていた。

 それと同時に何を買ってきたのか察した。

 それは女性用の生理用品。

 まぁ、それならたしかに男の俺に説明は出来ないよなと、納得しながらワゴンアールの後部の扉を開けた。



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