第308話 山狩り(1)
車を、月山雑貨店の目の前の道路向かい側の駐車場に停める。
田口村長の運転する軽トラックも、俺の愛車ワゴンRから少し離れた位置で停止した。
「ゴロウ様、ご無事で何よりです。それよりも、メディーナ」
「はっ!」
「お前が付いていながら、ゴロウ様が魔物に襲われるなど職務怠慢だぞ!」
「申し訳ありません」
「大事には至らないようだったから、今回は、一週間の禁固に処するが異論はないな?」
「分かっています」
少し離れた位置で集まっている農家に聞こえない程の声量で、メディーナさんに注意するナイルさんだが、少し罰が重すぎるのではないか?
だが、今回の兵士の運用についての全権は、ナイルさんにある。
それに対して、俺が口を出すのは流石に不味いだろう。
「ゴロウ様、これで宜しいでしょうか?」
その言葉に――、
「いえ。俺としては、メディーナさんは良くやってくれていたと思っていますから、禁固は必要ないと思います。禁固刑に処したところで、結局のところ、護衛が減るだけですよね? それよりも罰は仕事で取り返した方がいいと思いますが? 」
「……わかりました。――ということだ。メディーナ、今回の件は不問とする。以後、気を付けるように」
「分かっております!」
「ならいい」
「それでは、メディーナさん」
「はい。ゴロウ様」
「雪音さんと、桜とフーちゃんを母屋に護衛して連れて行ってください。疲れていると思うので」
「分かりました」
俺は助手席側のドアを開けて出てきた雪音さんに、
「雪音さん。桜とフーちゃんと一緒に母屋に帰って休んでいてください。あとの事は、俺がやっておくので」
「わかりました。五郎さんも無理はしないくださいね」
「分かっています」
「おじちゃん、先に行っているの!」
「わんっ!」
「わわっ!? フーちゃん、赤いのが飛び散るの!?」
メディーナさんに、護衛されて桜地が母屋へと向かっていく。
その後ろ姿を見送ったあと、俺は村長の方へと視線を向ける。
視線の先には、村長と農家の人が、熊に関しての会話をしていた。
「村長、どうですか?」
「うむ。暁からの話だと、収穫は無事に済んだようじゃの」
「それなら解散でいいのでは? あとは、俺達の仕事ですし」
「そうだの」
村長は、農家の人達に解散していいと指示を出す。
その際に農家の人達からは、熊が出たことに関して心配だという声が上がるが――、猟友会に依頼をかけたことを伝えると渋々納得したようで、車に乗り込んで去って行った。
農家の人達も収穫物を放置しておくわけにはいかないのだろう。
あとに残ったのは、異世界から来た兵士と俺や村長と、村長の奥さんの妙子さんだけ。
「みんな帰りましたね」
「うむ。まあ、収穫後にすることは色々とあるからの」
「ですよね……。それよりも村長のリンゴ農園も早く何とかしないと不味いですよね?」
「そうじゃな。まぁ、猟友会が山狩りを行うのは早くても明日の正午付近になってからだからのう……」
「それまでは、収穫したリンゴは外に放置ですか」
「致し方ないのう」
「ゴロウ様」
「どうかしましたか? ナイルさん」
「リンゴの件ですが、ルイズ辺境伯領騎士団が山狩りを行いましょう。魔物相手との戦闘は、我々も、それなりに熟知しておりますので」
ナイルさんの提案に、俺と村長は顔を見合わせる。
そして、よくよく考えてみるとメディーナさんとかは、素手で熊を制圧していた。
そのことから、猟友会の到着を待つよりも近接格闘で熊を仕留める事が出来る辺境伯領の騎士団に山狩りを任せた方がいいのか? と、考えてしまう。
それに、本当に熊が、山里に降りてきたら被害は拡大するし……。
「ナイルさん」
「はっ」
「宜しくお願いします」
「ご、五郎? いいのか?」
「たぶん大丈夫です。メディーナさんは女性ですが、女性でも騎士団に所属している人は、素手で熊を倒していましたから」
「そ、そうなのか……」
「はい。それとナイルさん」
「何でしょうか?」
「これから夜になりますから、武器の携帯をした方がいいのでは?」
「そうですね……、ここの領地はゴロウ様の領地ですから許可を得ることが出来るのでしたら、異世界から武器を持ってきて山狩りを行った方が効率的だと思います」
「分かりました。それでは、すぐに武器を持ってきましょう。すでに日が暮れていますから、他の人に見られる可能性はありませんから」
すぐに、俺とナイルさんは、母屋側からバックヤードを介して異世界側へと出る。
そして、待機していた辺境伯領の騎士達にナイルさんが200人分の武器を店の中へと運ぶように指示を出した。
「すごい数ですね」
「200人分の武器ですから」
中には弓矢などもある。
主な武器は片手剣と言ったところで――、中には大剣なども混ざっていた。
「ナイル様! 武器の搬入終わりました!」
「うむ、ご苦労。――では、私は異世界に戻るがアロイス様には、演習の一環だと伝えておくように」
「はっ! ご武運を!」
シャッターを閉めたあと、俺とナイルさんは地球へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます