第215話 すき焼き
「お肉が、美味しいですうううううう」
リスのごとく、牛肉を食べていくリーシャ。
そんなリーシャを横目に、桜も恐る恐ると言った感じで牛肉を口に運び、一口食べたところで、
「美味しいの!」
目を輝かせて、笑顔を向けてくる。
「そうか、そうか」
俺は何度も頷く。
そして、俺も牛肉を頬張るが確かに旨い!
「これって……」
「お爺ちゃんが、冬に向かって何頭か牛を老人会の皆で捌いたのを持ってきてくれました」
「村長の所の牛か」
そういえば、村長も牛や豚や鶏とか飼っていたな。
「冬は大変ですから。食料とか――」
「たしか草とかフィルムで密閉して冬に備えていたりしていたような」
村を出る前だったから、完全にうろ覚えだが、手伝わされた記憶がある。
主にフォークリフトの運転とかで。
「はい。ただ、今年は牛が増えすぎたらしいので、その分を、肉に回したそうです。あとは、家に持ってきてくれる分も確保するって意味合いもあったみたいです」
「なるほど……」
俺と雪音さんが話している間にも、リーシャと桜が凄まじい速度で牛肉を食べていく。
「桜、肉だけじゃなくてお豆腐や野菜も食べなさい」
「はーい」
渋々と言った様子で、桜は長ネギを取って頬張るが、一瞬、辛そうな表情をする。
そう言えば、子供の頃って野菜が苦手だったなと思いつつ、
「ほら、しらたきも美味しいぞ」
しらたきは、無味無臭。
つまり、すきやきの出来に左右される。
そして、今夜のすき焼きのレベルは高い!
――と、いうことは、そのしらたきの品質は高いのだ。
「しらたきが美味しいの!」
「だろう?」
「わんっ!」
いつの間にかローストポークを食べ終わったフーちゃんが、桜の横で転がっていた。
「桜」
「ふぁい?」
口の中に食べ物を入れたまま、俺の方を見てくる。
「フーちゃんには、味の濃いモノは与えたら駄目だからな。犬や猫と言った動物は、味の濃いモノを食べさせると寿命が縮むからな」
「わかったの!」
口の中に含んでいたモノを呑み込んだあと、桜は元気よく返事してきた。
そして、リーシャと言えば、肉ばかり食べている。
「ゴロウ様! この肉は、美味しいです!」
「そうか。少しは遠慮しろよ」
「五郎さん。大丈夫です。お爺ちゃんは、10キロほど肉を持ってきてくれましたから」
別に、俺は肉が欲しくてリーシャにツッコミを入れた訳ではないんだが……。
まぁ、この怠い雰囲気を雪音さんが壊したくなくて、フォローしてくれているとしたら、余計なことを言うのは野暮ってモノか。
すき焼きを食べ終えて、食器なども洗い終わり、一家団欒していたところで――、
「あの……、五郎さん」
「どうかしましたか?」
湯飲みをちゃぶ台の上に置き、急須からお茶を注いだところで雪音さんが話しかけてきた。
俺は、雪音さんから湯飲みを受け取り。
「今日は、どうして、リーシャ様が来られているのですか?」
「話によると魔力が枯渇しかけているからだと」
「魔力ですか?」
俺は頷く。
その辺は、雪音さんには詳しく説明していなかった。
まぁ、俺も良く分かってないし。
「何でも魔力が枯渇すると生命維持が困難になるそうです」
「そうなのですか?」
リーシャの方を見る雪音さん。
すると、雪音さんに視線を向けられたことに気が付いたリーシャが、畳の上で寝そべりながら頷くと口を開く。
「ゴロウ様の言う通り、異世界に来た存在は、魔力が枯渇すると生命維持が困難になります。その為に、定期的に元の世界へ帰る必要があるのです」
「そうですか……。それで、今日は、こちらに? でも、五郎さんのお父様は、異世界には――」
「一般的な人間の魔法師と違って、私達、ハイエルフ族は森の妖精に近いので、森の魔力が無いと生きてはいけないのです。――なので、普通よりも魔力の消費が激しいのです」
「へー」
俺は思わず声に出す。
「それって、長期間は、こっちには居られないってことか?」
「そうですね。元々は、人とは存在レベルが違いますから。その為に、肉体維持――、この世界に存在維持をする必要がありますから、そのために余計に魔力を消費するのです」
「なるほど……」
「あ、あの! それって! 五郎さんや、桜ちゃんにも当てはまるのですか?」
少し慌てた様子で、そうリーシャに確認するかのように雪音さんが聞くが、
「うーん。五郎様と桜様は、魔力供給を世界に頼っているという感じではないのですよね……」
そう返事をしたリーシャは、じーと俺を見てくる。
「あれ? 五郎様」
「どうした?」
「今、雪音様に問われて気になって五郎様の内包魔力を確認しましたけど……、魔力が増大しています」
「あー、なんか辺境伯に魔力回復のポーションを貰ったら増えたみたいだ」
「え? 増えた? ちょっとよろしいでしょうか?」
畳の上を匍匐前進して近づいてくるとリーシャは、俺の腕を掴み目を閉じる。
そして――、
「五郎様!」
「な、なんだよ……」
「五郎様の魔力容量ですが、増えたというよりも使われてない領域が多すぎるようです」
「つまり、どういうことだ?」
「簡単に説明しますと、魔力プールが以前に辺境伯が確認した時よりも――、話に聞いていたよりも10倍以上になっています……と、言うよりも、元々から10倍以上の魔力許容量があったと見た方がいいかと思います。原因は、分かりませんけど……」
「そうなのか……」
「はい。もしかしたら、五郎様は、すごい魔法師になれたかも知れません!」
「へー」
ほとんど興味ないな。
「――でも、何で過去形なんだ?」
「魔法を使う為の魔力回路が……」
「そういえば、以前にも辺境伯様に、そんなことを言われた気がする」
「小さい頃に魔力回路を形成しておきませんと、大人になってしまうと魔法が使えませんから」
「なるほどな……」
そこまで話したところで、俺達の話を聞いていた桜が「桜も、魔力あるって言われたの!」と、フーちゃんを抱っこしながら話しかけてきた。
「そういえば、桜様も膨大な魔力を有していると伺いましたが――、少し宜しいですか? 魔力の許容量を確認致しますので」
「うん? いいよ!」
桜の手を取ったリーシャが目を閉じて、そして――体を震わせ始めた。
「はっ!」
いきなり目を開けて、肩で息をしながら――、
「桜、どう?」
そう問いかける桜に対してリーシャが歯を鳴らしながら、
「魔力容量の底が見えませんでした……」
「それって、桜すごいの!?」
「は、はい」
「大丈夫か? リーシャ」
「だ、大丈夫です。それよりも……、桜様は、魔法を扱う練習などは?」
「する予定もないな」
そもそも日本で暮らしているんだから魔法なんて必要ない。
「……五郎様。桜様は――、いえ。なんでもありません」
「そうか? 言いたい事は、ハッキリと口にした方がいいぞ」
「いえいえ。これは、本当に何でもありませんから」
いつの間にか、リーシャの視線は、フーちゃんの方を見ていて、何度か頷くと、俺にそう答えてきた。
まるで、フーちゃんと意思疎通しているように見える!
まぁ、俺の気のせいだと思うがな!、
「そろそろ、良い時間ですからお風呂に入ってきなさい」
「はーい。フーちゃん、いこっ」
桜に連れられてフーちゃんは、お風呂に行ってしまう。
「さて、俺達も、そろそろ異世界に行くとするか」
時刻は、午後9時を過ぎている。
異世界では、24時間の時差があるので、午前9時ごろ。
そろそろ向かってもいいだろう。
「――は、はい」
さっき、フーちゃんが桜に抱きかかえられて居間から退場するまでフーちゃんに睨まれた淫魔状態だっただけあって、リーシャは、どこか緊張しているようだ。
「それじゃ、雪音さん」
「いってらっしゃい。五郎さん」
「行ってきます」
玄関を出たところで、俺は気になっていた事を口にする。
「なあ、リーシャ」
「はい?」
「異世界人って、犬が苦手なのか?」
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