第198話 桜へのプレゼント(4)

「あー、たしかに……。それと軽トラックも用意してほしいと」

「ふむ……。それは、難しいの」

「ですよね」

「さすがに車はの……、購入するときに車庫証明が必要になるからの」

「車庫証明は問題ですよね」

「そうだの。ある程度は、融通は利くが、ある程度ではあるからの。まぁ、そこはおいおいと考えるとして間伐を見学させるとするかの」

「いいんですか?」

「まあ良いだろ。それに、変に隠すことでもないからの」

「たしかに……」

「問題は――。ここの林道を使っているのは源さんというところかの」

「源さんって……。結城村の四家の一つの――」

「水上源だな。あやつは偏屈モノだからの」


 意味ありげな田口村長の言葉。

 俺には、水上さんは悪い人ではないというか、普通に気さくに会話する相手なんだが……。

 

「まぁ、それほどでもないと思いますけど……」

「ふむ。まぁ、源は、月山家には恩があるからな」

「恩?」

「うむ。まぁ、古い話だ。とりあえず源に会いに行くとするか」


 ノーマン辺境伯と、その付き人が同行していて待たせる訳もいかず、田口村長を先頭に俺達は山へと登っていく。

 しばらく進むと、止んでいたチェンソーの音が聞こえてくる。

 すると視線の先には、70代の筋肉隆々な老人がチェンソーで大木をぶった切っている水上源さんの姿が――、


「おおっ! 五郎ではないか! 久方ぶりだな! 20年ぶりか?」

「まぁ、そんな感じで――」

 

 動いていたチェンソーを停止させて、俺に近づき肩を叩いてくる水上さん。


「そうか! ずいぶんと老けたな!」

「……心は20代……」

「よく言うな! ハハッハハッ。――で! 田口が何しに来たんだ?」

「随分と、五郎との扱いが違うの」

「それは当たり前だ。また色々と暗躍しているんだろう?」

「相変わらず、水上は失礼なモノの言い方をするものだ」

「それよりも……、そこの連中は何だ?」

「うちの取引相手の――」

「そういえば、五郎は店を始めたと聞いたな。その取引相手に対して村の案内をしているということか?」

「そんな感じです」

「なるほど」

「源さん。こちらは――」

「儂は、ノーマンでよい。じつは、間伐という業務をしているお主の仕事に興味があっての」

「ほう……、間伐に?」

「うむ。出来れば、間伐というのを教授頂きたい」

「なるほど。今の時世に間伐に興味があるとは――、いいだろう」

「源、ずいぶんと儂と対応が違うな?」

「何となくだが……、五郎の親戚のような気がするからな」


 水上さんは、前から勘が良いと思っていたが、何も言わなくても、俺とノーマン辺境伯との間に血縁関係があると察するとは思わなかった。


「田口村長」

「どうした? 五郎」

「水上さんは、勘がいいですよね」

「そうだの。あやつは、若い時から勘だけはいいからの」


 少し離れた場所で、護衛の魔術師を連れたノーマン辺境伯に、間伐とは何かを熱心な様子で説明する水上源さんは、どこか嬉しそうに見える。


「何だか、水上さん、嬉しそうですね」

「まぁ、国が間伐の重要性を理解しておらんからな。間伐を放置して、山々を切り開くばかりで太陽光パネルを設置する危険性を国は何も理解していないから土砂崩れが頻繁しておる」

「よくニュースで流れていますね」

「割り箸に関しても……な。廃材で作っているというのに、国は何も理解していないからな。林業を営む人間としては、納得できない部分は色々とあるのかも知れないの」

「それは、水上さんが?」

「うむ」


 しばらく、田口村長と会話をしていると、水上さんとノーマン辺境伯が戻ってくる。

 どうやら会話は終わったようで、満足そうな表情で戻ってくる。


「どうでしたか?」

「うむ。実りのある会話であった。それではな、水上殿」

「ノーマンも何かあったら、また来るといい」


 辺境伯を名前で呼び捨てにしている水上さん。

 護衛の魔術師の人は何も言わないが、あとでフォローしておくとしよう。

 

「五郎。中々、面白い取引相手を持ったようだな。また来るといいぞ」


 水上さんと別れ車まで戻ったあと、田口村長から購入した山へと向かう。

 到着したのは、午後3時を過ぎた頃であった。




 林道に車を停めたあと、山の入り口と言っていいのか開けた場所には、車がUターンできる程度の広場が設けられており、ノーマン辺境伯や従者の魔法師たち。

 そして、俺と田口村長は、山の入り口に立っていた。


「ノーマン辺境伯様。ここから見える範囲、全てが金山とする予定の地です」

「ほう。ここに金山を作ればよいのか?」


 まったく人の手が入っていない原生林。

 そこを見てノーマン辺境伯が顎鬚を弄ったかと思うと、山の斜面に手を添える。


「ゴロウ」

「はい」

「ここの地には、銀や銅などの鉱物資源が眠っているようだが、金山にしてしまってよいのか?」

「え?」

「今、魔法で調べてみたが、密度こそ低いものの銀や銅の鉱脈が走っているようだ。それでも金鉱山に変更するということでよいのか?」

「はい。お願いします」

「ふむ。田口村長」

「何でしょうか?」

「日本での鉱石1トンあたりに含まれる金含有量はどのくらいなのかの?」

「世界では1トンあたり5グラム。優良な金鉱山でも1トンあたり40グラムだと思いましたが」

「なるほど……。――で、ゴロウ。どのくらいの含有量にするのだ?」

「1トンあたり400グラムくらいにできますか?」

「ほう……。出来なくはないが……、まぁ何かあれば変更すればよいかの。ゴロウ、地図はあるかの?」

「少し待っていてください」


 俺は、すぐに車に戻り結城村周辺の山間部の地図を手に取り戻ってくる。


「一応、このあたりの山になります」


 俺は田口村長から購入した山のエリアを指差して説明していく。


「ふむ。――では、まずは領域の設定が必要かの。魔法師隊は、領域を道しるべとなる印の配置の為に置くとして――」


 ノーマン辺境伯が地図を見ながら、考え込んだあと口を開く。


「金山を作るまでは、領域の設定と鉱石の変容を含めて一週間ほどだのう」

「ずいぶんと早くできるんですね」

「本来であるのなら、数時間で出来る。だが、領域を指定するとなると色々と面倒だからの。ゴロウ」

「何でしょうか?」

「ゴロウには頼みたいことがある」

「頼みたいこと?」

「うむ。王家の方からも半分許可を得たものであるし、そろそろ辺境伯領で営業を初めてはみぬか?」

「ノーマン辺境伯様さえよければと言いたいのですが、まだ何分、膨大な物量を誤魔化す術がありませんので……」

「そうか。こちらとしても、ゴロウの店は色々と品揃えを含めて革新的ではあるから早めに営業をしてもらいたいのだが……、不審に思われては困るからのう。そこは致し方ないといったところか」

「申し訳ありません」

「よい、気にする事はない」




 金鉱山予定地に、ノーマン辺境伯が供だった配下の魔法師達を置いてきてから1時間後、林道を通り、田口村長とノーマン辺境伯と共に自宅へと戻って来た。


 ――ガラガラ


 母屋の横開きの戸を開ける。


「ただいま」

「おかえりなさい。五郎さん」

「おかえりなさいなの!」

「おっさん、おかえり」


 出迎えてくれたのは、雪音さんに桜に和美ちゃん。

 和美ちゃんは桜に付いてきただけなのか渋々と言った表情だ。


「五郎さん、他の方は?」

「金鉱山のために測量みたいな事をするらしいので山に残しておきました」

「そうなのですか。あとで料理を運んだ方がいいですね」


 そう雪音さんが気を回してくれたところで――、


「その必要ない。儂の配下の者らは野宿する技術に長けて居るからの。食料調達に関しては魔法で何とかなるからのう」










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