第77話 納品(2)
さらに冷凍車らしき車も何台か……。
「五郎。もしかして――」
「踝さん何か?」
「――いや、今日中に店の商品の搬入をする予定なのか?」
「たぶん……」
月山雑貨店の敷地面積は、普通のコンビニよりも遥かに大きく中堅のスーパーと床の広さならタメをはるくらいだ。
もし商品を全部並べるとしたら、どれだけ時間が掛かるのか想像に難くない。
「どうもお待たせしました」
車から降りてきたのは、藤和一成さん。
普段は紺色のスーツを着ているが、搬入作業ということもあり作業着を着ている。
「いえ、それよりもずいぶんと大型のトラックが――」
「はい。月山様のお店はコンビニよりも遥かに大きいので――、あ! こちらです。こっちに!」
トラックとは別にワンボックスカーから降りてきたのは、以前に顔合わせをした宗像浪平という人物。
相変わらずガッシリとした肉体をしている。
「宗像さん、お久しぶりです」
「月山様、お忙しいところを――」
「いえいえ」
「それでは引き渡しに際して説明をしたいと思いますので、シャッターを開けてもらってもいいでしょうか?」
「わかりました」
月山雑貨店のシャッターを開けて店内に入ると雑貨店の壁一面にはショーウィンドタイプの――、高さ2メートルほどもある冷蔵・冷凍ケースが並んでいるのが見えた。
「どうだ? リフォーム踝が総力を結集してケースを埋めるスペースを作ったんだぞ」
得意げに踝さんが何か言ってくるが――、たしかに一週間で作ったとは思えないほどの出来の良さだ。
それに店内も棚の設置が終わっており腰の高さまでの冷蔵・冷凍ケースが並んでいる。
その中で一つ気になったのが――、
「これは……」
「それは、温かい飲み物などを入れておくケースになります。まだまだ先のことですが――、ちょうど閉店した店からの物があったのでサービスで設置しました」
「なるほど……」
コンビニで言うところのホット系の飲み物を並べておく棚と言えば分かるだろうか?
高さは2メートルほどで奥行は1メートルほど、幅も1メートルほどあるがカウンターの近くには何も棚は無いので丁度いいのかもしれない。
一通り、コンプレッサーのために増設した電源や水回りなどの説明を受けたあと、作業終了の書類に印鑑を押したあと即金で支払う。
そのあとは、宗像冷機の人を見送る。
「あとは納品だけですか」
「そうですね……」
「あの彼らは?」
トラックの荷台から荷物を降ろしている20代の若い男たちが5人ほど視界に入る。
「スポットで依頼をしたアルバイトの人です。なるべく早い段階での入荷が必要かと思いまして――」
「そうですか」
月山雑貨店が、営業を開始するまでかなりの時間を要していることもあり、早めに営業できるようにと、こちらを気遣ってくれているのだろう。
人数を搔き集めて品物を並べてくれるようだ。
「月山様、それでは商品の並べる場所なのですが――」
以前に、何度か話し合った時の図面を見せられる。
正直、俺は商売をした事が無いので殆どを藤和さんに任せている部分があるので、正直言って図面を見せられても良く分からない部分がある。
――つまりだ。
「いいんじゃないですか? それで、お願いします」
こういう反応になってしまうわけだ。
まぁ、餅は餅屋に聞けという諺(ことわざ)もあるわけだし、プロに任せておくのが一番いいだろう。
「分かりました。それでは作業を開始させてもらいます」
藤和さんの指示の元、運転手が荷物を台車に載せて店まで運び――、スポットのアルバイトが商品を棚に並べていくという作業が開始される。
もちろん、指揮を執っているのは藤和さん。
「結構、時間かかりそうだよな……」
現時刻は、午後5時――。
作業は始まったばかりである。
しばらく作業を見ていたあと、桜とフーちゃんの様子を思い出し家に帰る。
居間に入ると、フーちゃんと桜がクーラーの効いた部屋で扇風機に向かって「あーっ」としていた。
子供なら良くやる例のアレである。
「おじちゃん、お帰りなさい」
「ただいま」
「わん!」
そういえば、そろそろフーちゃんもご飯の時間だな。
棚からドッグフードを取り出し、フーちゃん専用のお皿の上に盛り付けていく。
「ほら、ご飯だぞ」
「…………わう……」
尻尾をシュンとさせたフーちゃんが、諦めた様子でドッグフードを食べ始める。
そんなフーちゃんを見ていた桜が「おじちゃん、今日はお肉ないの? って言っているの」と、言ってくるが――。
「ドッグフードは、犬の健康管理も出来る素晴らしい食事だから」
まぁ正確には、安いというのが一番の根底にあるけど、それは言わぬが花と言ったところだろう。
「そうなの?」
「そうなの」
疑問で返してくる桜に曖昧な答えを返しながらドッグフードが入っている箱を、台所の棚の上に戻す。
「今日の夜はカニにするか」
「カニ!?」
冷蔵庫の中には、昨日、購入したカニが大量に入っている。
タラバガニや毛ガニと言った具合にいっぱい。
冷凍庫に保存しておけばいいかと思い大量に購入した結果とも言える。
「それにしても、少し買いすぎたか……」
当分、北海道には行けないと思い当分、消費しきれない量のカニがある。
少しずつ食べれば問題ないか。
「フーちゃんも食べられるの?」
「どうだろうな」
ふと疑問に思いノートパソコンを起動し『カニ』『犬』と検索項目を指定して検索をする。
すると――、
「加熱すれば食べさせても大丈夫みたいだな。ただ、アレルギー症状もあるらしいから注意が必要らしい」
「そうなの? フーちゃんは食べられないの?」
「万が一のことを考えるなら食べさせない方がいいと思うが……」
「くーん、くーん」
ドッグフードを食べきったフーちゃんが、俺の膝の上に乗って甘えてくる。
まるでカニを食べさせて! と、言っているかのようだ!
「まぁ、少量ならいいか」
「フーちゃん、やったね!」
「わん!」
まるで意思疎通できているように、最近は思えてしまうのだが――、きっと気のせいだと自分に言い聞かせる。
人と犬が会話できるなんて、どこのファンタジーだ! と、心の中で突っ込みをいれつつ。
「おっと……」
座布団の上から立ち上がり台所に向かう。
「カニを料理するの?」
桜がトコトコと後ろを付いてきながら話しかけてくる。
「いや――、いま納品と棚に商品を陳列してくれている人達に飲み物を持っていこうと思って」
とりあえずお茶請けは、おせんべいとクッキーでいいか。
「――そ、それは!? く、クッキーなの!?」
「そうだよ」
「桜! ジュースを用意するの!」
冷蔵庫から、すかさず青森駅前のアウガ新鮮市場で購入してきたリンゴ100%ジュースを取り出す。
そして、コップを2個用意して居間へと向かう途中で――、
「桜、これは作業をしてくれている人に出す物だから、俺達は食べられないぞ」
とりあえず桜が勘違いしていると困るので釘を差しておく。
「――!?」
桜とフーちゃんの動きがリンクするかのように固まる。
「く、クッキー食べられないの?」
「そうなる」
「食べられないの?」
「食べられない」
大事な事だから2回言ったのか、桜が肩を落とすと、そのまま居間のテーブルの上にコップを置く。
そして両手でリンゴジュースが入った瓶を傾けながらコップの中に液体を注いでいく。
「これ、おじちゃんの」
桜から受け取ったリンゴジュースは、普通の市販のリンゴジュースと比べて格段においしい。
桜も楽しんで飲んでいると思ったら――。
溜息をつきながら飲んでいる。
そんなにクッキーを食べたいものなのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます