第47話 ブルーシート
「それは、また――」
ずいぶんと思い切った特注になっているものだな。
「はい。以前の納入した企業が、それを望んでおりましたので――、それではこちらが契約書と説明書となります。以前に、ご契約頂いた内容とご一緒ですのでご確認をお願いします」
神田さんから渡された資料と契約書を確認していくが不備などは見当たらない。
「問題ないですね」
「それでは、これで引き渡しは完了と言う事で――、また何かありましたらよろしくお願いします」
以前に、事務手続きを殆どお願いしていた事もあり、神田さんは運搬車に乗ると失礼しますと去っていった。
その運搬車の後ろ姿を見送ったあと――、携帯電話が鳴る。
「はい。月山ですが――」
「藤和です。今から、ご要望頂いていた塩90トンを納入したいと思います。10トントラック10台分になりますので、よろしくお願いします」
電話が切れる。
10トントラック10台分……。
それって、かなりの場所を取るのでは……。
すぐに電話を掛け直す。
「はい。藤和です」
「少しお伺いしたいのですが90トンですとパレット何枚くらいになるんでしょうか?」
「余裕を持たせていますので100枚ほどです。パレット一枚で900キロと言ったところでしょうか?」
「分かりました。どのくらいで到着しますか?」
「2時間ほどで到着できると思います」
「わかりました」
電話を切る。
そして――、すぐに田口村長へと電話をする。
「月山です。田口村長ですか?」
「五郎か? どうした?」
「じつは――、ブルーシートを何枚かお借り出来ないかと思いまして――」
「分かった。どのくらいで取りにこられる?」
「出来ればすぐにでも――」
「うむ。それじゃ儂の家は分かるな?」
「はい」
さすがにパレット100枚だと――、店内は棚も作られていることから入りきらない。
そうなると駐車場にパレットを積んで雨露を凌ぐためにブルーシートを掛けるくらいしか解決案がない。
さっそくフォークリフトを店内に入れたあと、シャッターを下ろし桜と犬を乗用車に乗せ、田口村長の家に向かう。
距離としては片道10分ほど。
畑作業の時に土が飛ばないよう抑えつけておくブルーシートを30枚全部借りたあと、家に戻る。
もちろん車の中は――、荷台から助手席――、後部座席までブルーシートでギッシリと詰まっていて圧迫感がハンパなかった。
家に戻った後は、車を月山雑貨店前の駐車スペースに停めて、ブルーシートを車内から降ろす。
そして、車を家に戻すと桜を車から降ろし麦茶を飲みながらパソコンで、県内だけでなく近くの都道府県の金を買い取りしてくれる店舗を探していく。
「それにしても思ったより質屋っていうのは存在するんだな」
独り言を呟きながらパソコンで見つかった質屋や金の買取りを行う店舗などをプリントアウトしていく。
一通り作業が終わった所で、縁側の方へと視線を向ける。
縁側では、扇風機の風にあたりながら、座布団を枕にしつつ寝ている桜の姿がそこにはあった。
もちろん桜の寝ている隣では、フーちゃんが寝ている。
そんな桜と犬の様子を見ながら俺はコップに入っている麦茶を飲んで一息ついたところで首を傾げる。
「そういえば、桜は胡椒で犬を入手したって言っていたよな? あの時は、桜が異世界に行ったという事実だけで、考えが至らなかったが――、よくよく考えてみればおかしくないか?」
――そう。
明らかにおかしい。
何故なら、どうして桜は異世界で胡椒を使って取引できると思った?
もっと言えば、異世界での月山雑貨店の前はルイズ辺境伯領の兵士達が警備していたはずだ。
それなのに桜が異世界で行動出来たというのは――、辻褄が合わなくないか?
仮にだ――、もし仮に――、桜が異世界に出た時に自由に行動出来たとしたら店を警備していた兵士達は、何も止めなかったと言う事になる。
何より報告をナイルさん経由で上げておくべきことだろう?
それなのに、何の報告も無いのはおかしくないか?
あとは、胡椒に関しても取引が出来ると知っていたのなら、何度か桜は異世界に行っていた可能性だって浮上してくる。
「桜のことを考えて異世界について黙っていたことが完全に裏目に出たな……」
反省すべき点は山積みだな。
桜が何の事件にも巻き込まれなかったのは本当に運が良かっただけで、一歩間違えば誘拐されていた可能性だってある。
異世界では奴隷制度がある領地もあるとナイルさんは言っていた。
下手をしたら、桜が巻き込まれていた可能性もあるのだ。
「本当に無事で良かった」
とりあえず、今後のことも考えると桜が取引をした商人を見つけ出して話をつけないと不味い。
――いや……。
「この際、ノーマン辺境伯に桜の事を話した方がいいか……」
何か問題が起きる前に打てる手は打っておいた方がいい。
それに後継者問題に関して何かを言われたとしても凛とした対応を取っていればいいだろう。
桜の保護者は俺なのだから。
そこまで考えたところでインターホンが鳴る。
「月山様、お待たせしました」
玄関の戸を開けたところで姿を見せたのは問屋の藤和の社長である藤和一成さんであった。
藤和さんと一緒に月山雑貨店前の駐車場まで向かう。
すると車が2台擦れ違うのがやっとの田舎の道路に、側面が開く形の――、ウィングボディタイプの10トントラックが10台停まっているのが見えた。
「すごいですね」
目の前に入ってきた光景に思わず本音が漏れる。
正直、これからフォークリフトを使ったとしても大量の塩が乗っているパレットを降ろすのは時間が掛かりそうだな。
「はい。月山様が早めの入荷がいいと言う事でしたので――」
「まぁ、そうですね。量が量だけに――、とりあえず全部を駐車場に一度降ろしたいと思いますので」
「分かりました」
普通なら、こんな田舎で消費する塩の量などたかが知れているが、藤和さんは二つ返事で頷いてくる。
余計な詮索をしてこないというのは、とてもありがたい。
「一度、家に戻ってからまた来ます」
「それではトラックについては駐車場入り口に横付けと言った感じで宜しいでしょうか?」
「はい。よろしくお願いします」
すぐに自宅に戻る。
居間の箪笥の中から、1万円札の束――、100万円が入っている封筒を7つ取りだす。
「支払いは650万円だったよな……」
金額を用意しバッグの中に入れたあと、寝ている桜を起こす。
何せ、フォークリフトのエンジンを掛ける為には桜じゃないと出来ないからだ。
「桜、桜」
「マンゴープリンは、プリンじゃないの……」
桜の寝言が聞こえてくる。
マンゴープリンは、プリンじゃないのか? と、言う純粋な疑問を抱きながらも、桜の肩を揺する。
「…………おじちゃん……?」
寝ぼけた様子で目を擦りながら桜が俺の方を見てくる。
どうやら、まだ寝たりないようで上の瞼と下の瞼が仲良しこよし状態のようでコクリコクリと船を漕いでいる。
「桜、フォークリフトのエンジンを掛けてくれるか?」
「うん……」
桜を抱き上げて玄関まで行き靴を履かせ、そのまま眠そうな桜を抱き上げ雑貨店の前まで行くと――、一台目のトラックが丁度、駐車場の入り口に横付けし側面の扉を開けている所であった。
運転手と、藤和さんが会話をしている間に、外から店のシャッターを開け――、速やかに店内に入る。
「桜、これ鍵な」
「うん……」
半分、寝ている状態で桜は俺からフォークリフトの鍵を受けとるとフォークリフトのエンジンを掛けた。
「よし、もう十分だから」
「分かったの……」
「月山様、用意が出来ました」
「――あ、わかりました。藤和さん、これ現金になりますのでご確認しておいてください。一応650万円入っていますので」
「――! 650万円を現金で……、ですか?」
「はい。なんだかすいません。現金で――」
「いえいえ! そんなことありませんよ! 取引は現金払いが色々と良いですからね!」
てっきり数えるのが面倒とか、銀行を経由した支払いが良いというリアクションが来ると思っていたんだが……、丁度良かった。
「それでは娘を寝かせてきますので」
「音で目が覚めて付いてきてしまったんですか? 大型トラックは騒音がありますからね」
「――まぁ、そんなところです」
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